君はずっと隣りにいた
「うん、いいねぇ、いい感じだねぇ」
両手の親指と人差し指で囲いを作り、その中に二人の学生を収めて眺める少女。長めの黒い艶やかなストレートヘアと、穏やかな口調が特徴の彼女は微笑みを浮かべ、隣に黒のスーツ姿の男性が寄ってくると指で作った四角い縁を解いた。
「あ、もう時間かぁ」
名残惜しそうに少女は呟く。
少女を見やった男性は銀色の懐中時計を懐から出してカチカチと小さく音を立てる針を見ると「後一分だけ猶予があります」と淡泊に告げる。
少女は「一分ねぇ」とぼやき、ほんの少し考えると「やっぱり最後にやる事はこれかな」と笑いながら両手を編んで目を閉じる。
「二人が幸せでありますように」
最期の一分間。彼女はずっとその体勢のまま微動だにしなかった。それが彼女が本心からの言葉と行動だと理解出来る。
スーツ姿の男性は刻一刻と時間を刻む懐中時計を見ながら、やがて時間が来ると「終わりです」と彼女に伝えた。男性の言葉にパッと手を解き、彼女は満足そうに笑う。
「ん、それじゃあさよならだね。私は満足出来たし、もう十分!」
男性にそう微笑みかける少女。その日向に咲く花の様な笑顔を見て無表情だった男性の顔が煙る。が、それも一瞬の事で男性は何処からか取り出した大鎌を片手にし、大きく彼女に向かって振るった。
音も無く、彼女は消えた。
その場に残ったのはスーツ姿の男だけ。最後に男は、少女が見ていたフダリの人間を見下ろす。
「最後まで他人の事を想うとは、それだけ二人が好きだったのでしょうか・・・」
私には理解出来ないことだ。
男をそう言い残して姿を消した。