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君を想い、君を描く  作者: apple
君が筆を執った理由
17/23

第八話

『分かった。準備しとく』

 陸からの返事を確認して、あたしはスマホを持ち上げていた腕を落とす様に下げてすっかりと暗くなった空を見上げる。街頭や、住宅街の明かりは沢山あるけど天高くで燃え盛り輝く星は数えきれないほど散っていた。

「あたし、何がしたいんだろ・・・」

 空を眺めながら塀に背を付けてぼやく。

 そして、はぁ、と溜息を零し視線を下げる。すると、視界に『千葉』と書かれた表札が入った。

 別に、陸に用事があった訳じゃない。陸の勉強の進み具合が気になる、というのはあるがこの場所に着くまでにあたしは微塵もそんな事を考えてなんかいなかった。海のお墓参りだってそう、この間行って今日は行かなくてもいいのにあたしは態々遠くに出かけて疲れた後に家に帰って、また出直して、陸の家に行くのも遠回りなのに。

 あたしはもう一度溜息を吐く。そうすると、吐息と共に体から力が抜けて膝が曲がりしゃがみこんでしまった。そのまま、あたしは自分の膝を抱いてまた塀に背中をつける。

 夜の住宅街は人通りが少なく物静けさに包まれ、等間隔に置かれた街頭が道路を照らす。けれど、あたしのすぐ傍の電柱の灯りが私にギリギリ届かない位の光を放ってあたしの足元までは照らしていなかった。

 あたしの頬を撫でる風はひんやりとしていて緩やかに道を流れていた。

「・・・・・・ああ、もぅ」

 意味の籠っていない()を上げながら、あたしは自分の足を強く手繰り寄せる様に抱きしめ、膝に額をあてて顔を(うず)める。

 あたしは、何がしたいんだろう。

 あたしは、何をしたらいいんだろう。

 あたしは、何も思い浮かばない。

 だから答えを求める様に、縋る様に、此処まで来てしまったのかもしれない。此処になら答えがあるのかもしれない。

「―――空!」

 気が付いたら、陸がいた。あたしの目の前に、しゃがみこんで、あたしの肩を掴んで揺らしていた。

 少し戸惑った。何で陸が目の前にいるのかと。そして、数拍開けて立ち上がる。

「・・・連絡入れてないのに、何で外にいるの?」

 あたしの後に陸も立ち上がる。

「空が遅いから心配になったんだ。それで、玄関の前に空がしゃがみこんでてさ」

「・・・そっか。ごめんね、心配かけて。別に何でもないから」

「何でもない事無いだろ!」

 陸が怒鳴る。その声に、あたしは体を震わせた後、目を瞬かせる。

 ずっと前から一緒に居たのに、彼の、これほどまでに感情を顕わにした声は中々聴いたことが無かったからだ。その声を聞いた瞬間は驚いたけど、今は戸惑いが大きかった。

 すると、陸は口を開く。

 だって。

 陸はそう言って私の瞳を、私の目から零れる何かを見ながらこういった。

「空・・・泣いてるじゃんか」

 頬に手を添えて、温い雫が指先に当たる。陸の言葉が事実である事をやっと理解して、自分でも信じられなくて、でも本当だった。

 自分の目から涙が流れているなんて思いもしなかった。

 泣いているなんて、こんなに寂しくて、こんなに悲しんて、こんなに辛いなんて、思いもしなかった。

「えぅっ・・・うっ、」

 意識したことで、涙はもっと溢れてあたしの頬を伝って無機質なアスファルトの上に落ちて吸い込まれる。胸に手を当てて、服を握りしめて、何とか抑え込もうとしようという気持ちとは裏腹に子供みたいに声を上げて、あたしは泣いた。

 陸は無言であたしを抱き寄せ、でも強引さなんてなくてリードしてくれるようにあたしの頭の後ろに手を回して胸に寄せてくれる。懐かしい油絵の具の香りがほんのりと鼻孔を擽った。

 それから、あたしが泣き止むまでずっと陸はあたしを見てくれた。頭を優しく撫でてくれながら、それが心地よかった。嬉しかった。

「・・・ごめん。も、大丈夫だから」

「・・・おう」

 時間が過ぎるのと共に徐々に冷静になっていく思考と、恥ずかしさが増していく感情。でも、甘えたい本音が優先してあたしはこっそりと陸の服の裾を親指と人差し指の第二関節くらいでつまんで、手を下ろした陸から僅かに距離を取る。

 お互いに、真正面から顔を見るのに抵抗があって一瞬目が合うと、それぞれほんの少し左を向いて、けれどあたしは寂しさから、陸はきっと心配をして視界の隅にはきちんと目の前にいる人を収めた。

「何かあったんだよな」

 陸の言葉は質問や疑問じゃなかった。確信をもって、そうあたしに突きつける確認の為の言葉だ。あんな姿を見られて隠しようがないあたしは数拍開けて「うん」と弱々しく頷く。

「それは、僕の性だろ」

 また確信めいた言葉を放つ

「っ、違うよ。陸の性なんかじゃ―――」

「―――僕の性だよ」

 あたしが取り繕う前に陸はあたしの顔を真っすぐ見ながら言葉を断ち切って断言する。外の暗さよりも黒い陸の瞳を見ると言い返す言葉は思い浮かばなかった。

「泣いてる空を見て僕さ大事なこと忘れてたのに気が付いた。不登校になって、勉強も教えてもらってさ。何時も僕が困ったときは空が傍にいてくれて、空は僕の事を心配してくれて、でも僕は空を苦しめてるんだなって分かった」

 呼吸を挟み、陸は続ける。

「空が涙を流した理由はハッキリ分からないけど、全部僕が原因だと思う。そうじゃなくても、きっと僕が絡んでる。空は、ずっと僕を見てくれてたからそうだろ?」

「・・・・・・」

 返事は出来ない。陸の性になんかしたく無かったから。

 あたしはうつむいたまま、また視界が滲む。

「もう隠さなくていいから。もう我慢しなくていいから。もう無理なんてしなくていいから」

「この手紙も、本当は海からのものなんかじゃないんだろ。僕が、どれだけお前と一緒にいたと思ってるんだよ」

 あたしの息が止まる。顔を上げて、違うと叫ぶ前に陸はあたしの額に自分の額をあてて顔を間近に寄せて突きつけるように口を開いた。

「お前が昔海の真似してる事がずっと知ってたよ。おんなじ字を書けるのも、知らない訳無いだろ馬鹿っ!」

 陸に送られた『千葉海』からの手紙。

 それは、確かにあたしが書いたものだった。

 





こんな拙い出来の作品にコメントがもらえて嬉しいです。

今は返信が出来ないですが、来月からコメントの返信もしてくれる人がいたらやっていきたいと思います。


あと、今後は後書きも書いていこうかなと思います。陸と空、二人の心境を自分なりにどう表現したのかっていうのをネタばれになるかもしれませんが評価してほしいと言う意味も込めて自分なりの工夫や文章能力を見てほしいです。駄目だしはバッチこいです。


冒頭部の空が空を見上げるのは自問自答を意味してます。

それと、演出的には空が無くシーンはもっと先にした方が良いと感じます。淡泊な感じに進むかもしれませんが、最低限書きたい部分を書いているのでこんな感じになりました。

お察しの通り手紙の差出人は空ちゃんです。ちなみに陸くんは海からの手紙とか海の手紙とは表現したこと多分無かったはずです。


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