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君を想い、君を描く  作者: apple
君が筆を執った理由
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第六話

 部活に久々に顔を出した次の日。陸の課題の進み具合も気になる所だったが、先輩にあんなことを言われた手前もあって午前中だけでも行こうと思い制服を着て学校に向かった。

 音楽室に一旦顔を出して、先輩に挨拶をしてそれから準備室に置きっぱなしのケースを取りに行く。

「あれ、おかしいな・・・」

 準備室にはあたし以外にも楽器を置きっぱなしにしている生徒や、学校の備品としてあるものもあって似たようなケースは何個もある。けど、毎回私が置く場所は決まっているし、学校の備品と私物は別けられて置いてあるので誰かが自分のケースを取る為に少し移動させたとしても見つけるのは難しく無いはずだ。

 五分程探した後、何時も置く場所とその周辺に無い事を確認しあたしは準備室全体を見渡す。少し埃っぽい部分には多分無い。だから、埃の無い最近何かが移動したところを優先的に見回る。

「無いなぁ・・・」

 それでも、あたしの楽器ケースは見つからなかった。

 顎に手を当てて、あたしは昨日の部活動の終わり際の記憶を思い返す。フルートを布で拭って綺麗にしてからケースに仕舞って、それから準備室の普段置く場所に置く。自分の記憶をなぞりながらチラリ、と昨日楽器ケースを置いた場所を見やるがそこにあたしが求めるものは無かった。

 そこでようやく、先ほどから何となく浮かび上がっていた意見がハッキリと頭の中に姿を現す。

 隠された。もしくは、捨てられた。

 ハァ、と深く溜息を吐いて額に手を当てる。

「・・・・・・」

 誰が隠したのかは思い当たる人が一人だけいる。昨日、あたしに声をかけた先輩―――宮本鈴先輩だ。

 楽器が無くなったことを誰に何と言えばいいのか。他の先輩に言おうにも、グルかもしれないし先輩たちもあまりあたしの事を良く思っていないだろう。怜奈や美咲に言ったところでどうにもならない。

 一瞬だけ、陸の姿が思い浮かぶ。

「何考えてんのよ。あいつは関係ないじゃない」

 頭を振るって頭の中で描いた彼の姿を掻き消す。部活に来なかった原因は陸が心配であったあたしの性であって、陸の性なんかじゃない。全部、自分が悪い。

 自分の中で募っていく憤りがふつふつと胸の中で沸き立つのが分かる。それを押さえる為にどうすればいいのかも分からず、私は取りあえず手を握り締めた。






 結局、あの後適当な理由を付けてあたしは学校から去った。校内であたしの姿を見たのか、怜奈から連絡が来たが真実は話さないで嘘の予定が出来たと告げた。

 家に帰り付いて、制服からラフな格好になり、自室のベッドに仰向けに寝転がる。

 暫く、そうして何もしないでいるとベッドの上に転がしたスマホから短い着信音が鳴り出す。首を捻り、枕元にあるスマホを手に取り画面を表示すると陸から連絡が来ていた。

『今日は来るのか?』

 折角、家にいるのだから行こうか。そう考えたが、指先は全く動かなかった。

 体全体に何倍もの重力がかかったように重くて、陸から送られたメッセージを眺めることしか出来なかった。

 行く。

 たったの二文字書けば、これからの予定は出来る。自堕落に家で過ごす事も無くなる。鬱蒼としたこの気持ちが少しは楽になるかもしれない。

 でも、あたしがスマホの画面をなぞり描いた文字はこうだ。

『今日は部活があるから行かない』

 たった二文字の言葉を書くよりも、あたしはそんな嘘をついてしまった。

 そのメッセージを送った後、十秒程で『分かった』と返事が来てあたしはそれを見てからスマホを手放す。

 今日はもう、疲れたな。

 あたしは目を閉じた。







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