“もしも”のお話。
『まぁ、頑張りましょうか。』の番外編…と言うか、サブタイトル通りの“もしも(if)”話です。思い付きで書いたので、本編に絡まないかもしれませんし、『まぁ、頑張りましょうか。』を読まなかったら分かり難いかもしれません。
それでも良い方は、読み進めてください。
夕暮れの帰り道。いつものように、愛しいコイツと肩を並べて他愛のない会話をしながら帰る。
「別れるか。」
会話の中で、その言葉が、何故か口から滑り落ちた。
「…何を、…言ってるんですか?」
「だから、別れるか。」
いや、何でまた思ってもいない言葉が口から出てくるんだ。今だって、一時も離れたくないのに、これからだって一時も離れたくないのに…どうして…何でだ。頭と口が、全く別の意思を持ったかのように別行動をする。
「…私の事、嫌いになったんですか?」
「いや、違う。違うから、別れよう。」
「意味が分からないです。嫌いじゃないなら、どうして別れなきゃいけないんですか?具体的な意味を教えて下さい。」
「お互いのためだ。…お互いの、未来のためだ。」
言って、何だか不意に言っている言葉の意味が分かった。そうだ、コイツの為にも俺はコイツと別れなきゃいけない。俺と一緒に居たところで、結局はコイツを傷付けてしまう…コイツの涙は、見たくない。ああ、やっと…やっと、頭と口の行動が一致した。
「…お互いの為とか、未来の為とか…知ったことじゃないですよ。私は、変なところでタフですからね。どんなに傷付いたって、どんなに泣いたって…一緒に居たいと思った人には、とことん付いていきますから。」
「俺は、お前の涙は見たくない。たまに見せる、お前の日溜まりの様に暖かく笑っている方が好きだから。」
「だったら、笑ってやりますよ。貴方が好きなだけ笑ってやりますから…だから、お願いです。せめて別れ話するなら、そんか悲しい顔して言わないで下さい。」
悲しい…顔?そんな顔を、俺はしているのだろうか。自分では良く分からない。
「…悲しい顔、してるのか?俺が?」
「少なくとも、楽しそうにも嬉しそうにも怒ってるようにも見えないですね。」
喜怒哀楽で分ける辺りコイツらしいな。だが、そうか…悲しいのか、俺は。コイツを散々悲しませといて、自分も悲しいと思っているのか…勝手だな、実に。
「貴方は、勝手です。」
…コイツに先に言われてしまった。
「お前一人で考えて自己解決で出した結論で満足してんじゃないですよ。これは、貴方一人で解決できる問題じゃない。…試験じゃないんだから、コッチにも多少は相談して下さいよ…。」
気付いたら、胸辺りに衝撃。見たら、コイツがギュっと俺の胸に顔を埋めていた。…今のコイツは、コイツの笑顔みたいに暖かい。微かに震えているから、泣いているんだろう。
「…俺と居たら、後悔するかも知れないぞ?」
「臨むところです。」
「笑顔なんて作る余裕ないぐらい、沢山悲しませるかも知れないぞ?」
「貴方が居たら、三日に一回は確実に笑えますから安心してください。」
「…今みたいに、お前を傷付けるかもしれないぞ?」
「今更ですよ。逆に、貴方を物理的に傷つけてやります。」
「それは怖いな。」
「後、今怒ってるんで。仲直りの方法は秘密です。良く考えてください。」
「…はぁ…。」
俺の胸に顔を埋めているコイツを、力任せに無理矢理引き剥がしてから、そっと耳元に顔を近づけて囁いた。
「 、 。」
囁き終わった後にコイツの顔をみたら、目と鼻は赤けど涙は引っ込んだようだ。…次第に頬が赤く染まっていき、口を手の甲で押さえながらそっぽ向かれた。…照れたな。照れたいのは俺だっての。
「…わ、分かれば、良いんですよ。」
「本当に、俺で良いんだな?」
再度念を押したら、コイツは少しムッとした顔をした。
「貴方…いい加減しつこいですよ。ちょっとしゃがんでください。」
言われた通りに素直にしゃがんだら、今度はコイツが俺の耳元で囁いた。
「 。」
「お前って、俺を喜ばせるの上手いよな。」
「知ったことではないです。」
素っ気ない言葉で言っているが、顔が真っ赤だから説得力が全くない。
「顔真っ赤だな。」
「貴方だって真っ赤です。人の事言えません。」
互いに見つめ(睨み?)合っていたら訳もなく笑えてきて、クスクスと笑いあった。
その後、互いの影がくっついて1つの影になったが、何をしたかはご想像にお任せする。