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とある夏の話。


世界が変わるなんて、一瞬だ。


セミがうるさくて、暑い夏の分厚い空気に包まれているだけの、本当なんて事ない夏の一日だったのに、それでも世界は変わる。


もしかしたら、きっかけがあったのかもしれない。変わらないでいれるような結末が、もう少し違った結末を迎える変わり方が、多くの人が長く苦しまないですむ結末が。


でも、それだけだ。いくら間に挟もうと、変わってしまった事実は変わらない色で残る。記憶は残る。爪痕は残る。抗うことが出来なかった、変わりたくなかった、失いたくなかった、楽しかった、嬉しかった、そんな感情さえも、残る。


そしてその残った記録は、次第に鮮明さを失ったり逆に色濃く残りすぎたりして、歪な形で語り継がれていく。


これは、そんな良くある話の一つである。




「…こんな書き出しで、良いかな。」


そこまで書いて、私はキーボードを叩いていた手を一旦止める。


20XX年。その日に世界中で起こった奇怪な出来事。何の冗談だと、何の悪い夢だと笑い飛ばしてしまいたくなったその出来事を、拙いながら書き出していく。理由はない。私なんかより上手く書く人なんてごまんといるわけで、この手の書物は、本屋や図書館に一定数ある。


ただ、何故か知らないが書きたかった。それだけである。




端的に書くと、その日人類は超能力を身に付けた。


一般的な念動力、発火能力、氷結能力、発電能力等の物理系、テレパシーといった精神系、視覚操作や聴力操作といった感覚系。似たり寄ったりだとしても、人の数だけ能力があるといっても過言ではない。そんな能力が、その暑い夏の日に一気に表れた。


国人種性別年齢関係なく無作為に表れたその能力者は、初めは戸惑いを見せていたが…その後さまざまなルールを軽視、暴走をはじめた。


力は人を惑わせる。用法と用量をあらかじめ提示されていても、魅入られてしまった人には無意味で、それが人智の及ばぬ力ならなおの事。元から精神が壊れていようが、力を振るってから精神が壊れていようが、端から見たらその差は些細なモノだった。


それに対抗するため、超能力を持たない人間は、兵力を投入していった。次第に能力を持たない人間は、彼女らや彼らを人と思わぬ様になっていった。彼女ら彼らを止めるのではなく、根絶するために動くようになったのだ。


そうなってくると、人間に溶け込んで穏やかに暮らす、別に犯罪者でもなんでもない能力者ですらターゲットになってくる。人種差別なんてモノじゃない、時代錯誤な魔女狩りが始まった。


無論殺されたくない能力者達は抗い、逃げるし、それに反発した能力者が更に人間に危害を加え、それにより人間の方も能力者を敵視するようになり、疑心暗鬼に陥り…悪循環が完成してしまった。


そんな戦争をしていていれば、今まで風船のように膨れていた人類は衰退していく。栄えていた文明維持すら危うくなったとき、お互いそれはまずいと考えた人間と能力者は、渋々手と手を取り合ったのだ。


その時には、既に人間と能力者の人口は同じになっていた。




かのニューヨークは人種のサラダボウルと呼ばれていたが、今ではある意味、どこを見渡しても人種のサラダボウルみたいになっているだろう。能力者と、人間の。


でもまぁ…能力者と人間の間にある権利も一緒になり、能力者にさまざまな義務や責任が着くようになったり、能力者と人間がより良い社会を実現するために法も定められた。…簡単に言えば、車を運転する人と歩行者みたいな感じになり、一時期の最悪の時代に比べるまでもなく、遥かにましな時代になった。


だが、前にも記した通り、爪痕はいまだ深く残っている。


人口の大幅な減少により、各国住む所が狭くなった。…それゆえ、今でも町から少し郊外に足を伸ばせば廃墟が広がり、最悪の時代の、その片鱗を目の当たりにする事ができる。――まぁ、所によったら悪さをする一部の人達の根城になっていたりするのと、どうやら出るらしいので、二重の意味でかなりスリリングなのだが。


「全く…能力者ではない人間同士でも争う世の中だったのに、能力者が表れたら一致団結打倒能力者とか。…分かりやすい異端の能力者と、どっちが歪んでいるんだろう。」


参考として引っ張ってきた近代史の資料をペラリと捲り、昔の人達に向かって、ある意味とても無責任な台詞を呟いた。呟いた時には、もう自分の中で答えが出ていたのかもしれない。


多分、どんなに歪んでも、間違っても、生きたかった。それだけなんだろう。


濃密な夏の気配を感じながら、私はそこで書くのをやめた。




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