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ファンタジーのプロローグ的な何か。


ジャクリ、ジャクリとクワを振り、私は耕す。


春、夏…そして秋に恵みもたらせ、冬の短い恵みを最後に眠った畑を、私は耕す。


まるで踏み締めると感じるぐらい、フワリと匂う土の匂い。良い匂いではないのに、どこかホッとする匂いが、耕す度に畑が目を覚ましているのを知らせてくれる。


「ふむ、こんなものかな?」


粗方耕し終えた畑を見ながら、私は一人、満足げに唇の端を持ち上げた。


フカフカになった土は、これから先育てる作物のベッドになり、命を育む家になる。


その命を頂く側としては、出来るだけ命を実らせる方も、育む方も心地を良くさせたい。


手間をかけ多分だけ、試行錯誤した分だけ、畑や作物は答えを出してくる。それが作り手側に利益があるか否か、畑や作物が元気かどうか、それを見極めていく。


「でもまぁ、どのみち一人なんだけどね。」


ふと目についた土ぼこりをソッと手で叩きながら、私は一人、空を見上げた。


そう、私は一人。


畑を耕して、試行錯誤して、美味しい作物を育てて、それを美味しく料理して、来年の為に種を取って、年を越しても、一人。


いつからかは忘れたし、農作業をしていたら興味もなかったけど…気が付いたら私は一人で、ここで暮らして、ここの畑を耕して生活していた。


鶏や牛も飼っているから、卵もミルクもあるし、麻とか綿花も育てているから、服には困らない。寒くなったら暖炉に火を付けたら良いし、服をたくさん着込めば良い。


誰に作物の、生き物の育て方を教わったかも、生きるための知恵を教わったかも分からず、生きる分には困らないからって理由で過ごす。どうしても自分の力ではどうしようもない…例えば靴や、動物の病気を治す薬といったものは、街に買いにいく。作った野菜や、採れた卵やミルクを売って、そのお金で買いにいく。


でも、それを除いたら、本当自分の家の敷地の外へは、滅多に出ていかない。そもそも、街に出ると言うのがとても不思議な気持ちになる。落ち着かない、ソワソワした気持ちになる。


賑やかな屋台や店、たくさんの人が忙しなく、はたまたノンビリと、楽しそうに、苦しそうに行き交う様を見ているのや、そこから生み出される音を聞いているのは嫌いじゃない。嫌いじゃないけと、自分の居場所ではない所に来てしまった様で、何だか少しだけ悲しい気持ちになって、街へは目的を果たしたら、逃げるように自分の家に帰る。


そしてまた、私は一人の生活に戻る。不満なんてない。だって、不満を溢せるほど、私は何もやっていない。何も過ごしていない。


何もないとは言わない。野菜や動物の世話が出来るのが嫌だと思ったことはないし、料理を作るのだって好きな方。目立った病気だってしたことないし、運動神経だって悪くはない。


ただ、何かある訳ではない。


野菜や動物の世話が出来ると言っても、それを極めているわけではない。料理を作るのが好きでも、特別美味しいものが作れる訳ではない。目立った病気をしたことがないのも、運動神経は悪くはないのも、だからどうしたって気になる。


いや、それ以前に気になるのは、私は一体何者なのだろうか?


私は、私の親は、誰で、どんな人だったのだろうか?


そこに考えが行き着くと、頭の奥が霧が掛かったみたいにボンヤリして、何も考えられなくなる。その事に対して、興味がまるで持てなくなる。さながら、誰かから考えるのを拒否されたみたいに。


そう考えたら、私が喜び、怒り、哀しみ、楽しむのは、その誰かからの差し金…いや、寧ろ私の人生が、その誰かが決めた物語そのものなのかもしれない。暇潰しの為に適当に描いた、物語。


適当に書いたからこそ、私は私の親を知らないし、私は一人で暮らしているのかもしれない。


…なんて、都合の良い事が起こるわけもない。その誰かが、世に言う神様なんだろうけど、誰かのせいにするのは簡単。でも結局、私の人生は私で切り開いていくしかないのだ。


「はぁ…私、毎回同じ事考えてる。」


種をまき、たっぷりの水を畑にまき終え、ざっと畑を見渡しながら私は呟く。どうせ同じ結論になるなら、ここまで考えなければ良いのに。


「さて…今日はこの後、動物の世話をしようか。」


今日も今日で、毎年やる事変わらないんじゃないかって思うけど、それでも生きていくために、私は畑に立つ。


+++


その日は、長年使っていたジョウロにクワ、そして鍋が壊れてしまい、仕方なく街へ向かった時だった。


鍛冶屋のオジさんにジョウロとクワを預けた後、新しい鍋を買うために金物屋を訪れた時に、金物屋に居た女の人達が話していたのが、聞こえてしまった。


「最近ここらの外れで、盗賊がでるそうだよ。」


「えぇ、盗賊かい?物騒だねぇ。」


「なんでも、急に近寄ってきてモノを奪うんだそうだ…せっかくの稼ぎをぶんどられたんじゃ、堪ったものじゃないよ。」


「ホントにねぇ…。」


この、なんの変鉄もない町に、盗賊…か。


正直、なんて物好きな盗賊だろう。こんな、ちょっと栄えているだけの町にではなくて、もっと大きな町に行けば、もっと稼げるだろうに…。


そんな事を思いながら、私は無事鍋を買って金物屋を後にして、鍛冶屋に戻った。…随分ゆっくりしたし、鍛冶屋も空いていたし、お鍋も金属として買い取って貰ったし…うん、お金の余裕はいつもより多いくらいだから、大丈夫。


いつもながら、もしお金が足りなかったらどうしよう、と不安になる。町に出ないから、相場とやらが分からないのも大きい。


次の問題は時間だけれど、いくら今日は鍛冶屋が空いていても、これは多分明日にならないと仕上がっていないだろう。経験的に。


「ふぅ…だったら、今日は帰ろうかな。」


明日の水撒きは、木のバケツと柄杓を持って頑張るしかない…ジョウロがダメになると、毎回毎回大変だから、今日は早めに帰って、動物達の世話をしたら休もう。




そう、それが私の、運命の分かれ道となった。




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