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読書好きの少女の話。


全く、らしくないと思う。


放課後、図書室に向かう階段をゆっくり上りながら私はそう思い、少し自嘲的なニュアンスも含めてクツリと笑った。


私はそもそも、それほど図書館や図書室を余り利用しない立場の人間だ。


本や読書は好きだけど、基本的に好きになった本は自分で買うし、人と本を貸し借りするのは苦手だし、そもそも好きになった作品がたまにマイナー過ぎて、周りの人はおろか図書館自体に置いていない事もままある。それが学校の図書室ともなると、尚の事だ。


なのに、私は今現在図書室に向かっている。もう少し詳しく言ったら、制服のスカートが少しヒラヒラとさせながら、気持ち急いだ感じに図書室へ向かっている。


…図書室へは、今日を含めたら三日間通っている事になる。この記録は、現在進行形で、図書室へ連続で通っている日数(小学校、中学校の時も含め)の自己最長記録だ。


理由は、余りに単純明快なので今は触れないでおく。


そうこうしている内に、目の前には若干ボロくなった図書室の引き戸。その近くの壁には、図書委員が作成したと思われるポスターやら新刊紹介の張り紙とかが貼ってある。


それらの内容を適当に見てから、私は図書室の引き戸を開けた。


図書室の中に一歩踏み入れれば、フワリと本と僅かなホコリの香りがして、何人か居る利用者がページを捲る微かな音がして、カチカチと秒針を動かず時計の音がして、放課後だからか鮮やかな黄金色の西日が差し込んでいて…まるで、この空間だけ時間から切り取られたみたい…と、またらしくない事を思ってしまう。


頭を軽く左右に振ってそんな考えを振り落としてから、私はある一角に向かって歩いていった。


そう、図書室を利用する理由なんて、本を読む以外にない。


今月はたまたまお金の余裕がなくて、たまたま学校の図書室に目当ての本があったから、私は足しげく図書室に通っている。本来なら、その読んでいる本を借りれれば万事解決なのだろう。


だが、本の為に通学鞄のスペースを取られるのが何か惜しく感じた私は、仕方なく放課後の図書室通いを続けている。


「まぁ、やっている部活もないし。」


正確に言ったら、やりたい部活が見つからないのだ。学校にある運動部、文化部を見ても、いまいち私の琴線に触れる部活は見つからない。かと言って、やりたい事が定まっていないから私から新しい部活を作る気にもなれたない。…とどのつまりは、今まで通り帰宅部を続ける事にしたのだ。


百科事典並みに分厚い目当ての本を、それなりに重たいから両腕に抱え込む様にして取り、近くの読書スペースに移動した。


一旦その本を机の上に置いてから、制服のポケットから取り出したメモ帳に書いてあるページを開く。


こんな分厚い本に栞紐(スピン)なんてないし、何より私が借りているわけではないので、私は読み掛けのページをこのようにメモすることにしている。こうしたら本に栞を挟まなくても良いし、いつかこの本をどこかで購入した時も使える。…まぁ、その時には流石にこの本を読み切っていそうだけど。


パラリ…と、本のページを捲りながら、私は本の世界へ浸っていく。最初は視界に本のページしかはいらなくなり、最終的には目で追っている文章しか目に入らなくなっていく、この感覚。この感じが堪らなく好きだ。


――ただ、気が付いたら首や肩と言った至る所が凝り固まっているのが、たまに傷だけど。




キーンコーンカーンコーン――


自棄に大きく感じるチャイムの音で、本に向けていた意識がいっきに元の現実世界に引き戻された。…どうやら、また下校時間まで本を読んでいたようだ。でも、やっぱり最後まで読み切れない。


ああ、読み切れないから気分は余り良くないんだけど…それでも、まだ読めると言う喜びがあるのも確かだから…また、ここに足を運ぶんだろうなぁ。


長い時間同じ体勢だったから、体のあちこちが固まっていたので、ぐぐっと背伸びしたり足を伸ばしたりして体を解していく。


座っている体勢で問題ない程度に体を解してから、私は最初のように百科事典並みに分厚い本を抱えて元の位置に戻し、荷物を持ってから司書の先生に挨拶をしてから、図書室を後にした。




このように私の図書室利用は続いていたわけだったが、ある日急にその本は読めなくなった。理由は、これまた簡単。私以外の人が読んでいるのである。あの、百科事典並みに分厚いあの本を。


あの本自体は単なる超長編小説な訳だから、別に他の生徒が読んでいても何ら問題はないのだが…かなり昔の、しかもあの分厚さの本を読もうとなんて誰も思わないだろう。


しかし、目の前の生徒はその本を読んでいる。…これは、今日はその本を読むのを諦めた方が良いのだろうか?いや、私が今日どれだけこの本を読みたくて放課後が待ち遠しかった事だろう…そう思えば、目の前の生徒が読み終わるのを待つなんて容易い。そう思えた。


ただ、ただ待っていると言うのも暇だったので、私はその生徒を観察することにした。幸い、この生徒も私と同じタイプの様で、目の前居るのにも関わらず、私には気付いていないようだった。


制服はキッチリ着こなしているように見える男子生徒。スッキリした中性的な顔立ちで、全体的にホッソリしてる。…とても美形とはいかなくても、それなりに顔立ちも体つきも整っている。ただ、名前は知らない。多分年下か年上か、はたまた他のクラスの子なのだろう。


観察をし終えてしまったらまた暇になったので、今度はその男子生徒から見た斜め前の席に座る事にした。これなら、あの男子生徒が読み終わった時も不審に思われない…と、思いたい。正直、確証はないので分からない。




ポンポン、と背中に受ける衝撃で私は目を覚ました。どうやら、あの男子生徒が読み終わるのを待っていたら眠ってしまった様だった。


「あの、もう下校時間だよ。」


起こしてくれたのはどうやら司書の先生のようで、私は振り返ってお礼を言った。


振り返るときに少し見たのだが、どうやらあの男子生徒は帰っていた様だった…ああ、今日の読書の時間が…。


はぁっと溜め息を吐いたら、ふと鞄の下に何か紙のようなモノが置いてあった。ヒョイっと拾ってみたら、何か文字が書いてあるようだった。


『僕も、あの本を読んでも良いでしょうか?』


…ふむ、私以外にもあの本の良さを分かる人が居たとはな…。


私は、メモ帳のページを一枚破いてから、私は『私の本じゃないから別に良いけど、借りないでね。読めなくなるから。』と書いて、本棚に戻されていた、あの百科事典並みに分厚い本の下に忍ばせてから、私は図書室を後にした。




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