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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
6/28

1-6 出立【プロローグ(私達カリテスの悩み)】

 サールが数時間後に再び酒場へ戻ってくると、そこにはテーブルに突っ伏しているライアが居た。ひっくり返ったコップに溢れた麦酒、散らばったカトラリーと、中途半端に手を付けている豆が入った皿、どうやらライアは一人になっても飲んでいたらしい。


「ちょっと、ライア」


 サールはライアの肩を揺らす。全く反応をしないライアを見て不安になり、サールは更に力を入れて揺らした。全く動かなかったライアの腕が動き、自身の肩を揺らすサールの手を掴む。


「ライア大丈夫?」


 サールの問い掛けに対して、テーブルを顔に伏せたまま「誰ですか?」とライアが答えた。ちゃんと会話が出来ることに安心したサールは、ライアの肩から手を離した。


「誰って、私よ」

「私って、誰ですか?」

「友人の名前を忘れるくらい飲んだの?」

「わたくしに友人なんて居ないです」


 不貞腐れているライアに対して、サールは何か優しい言葉をかけようとしたが、さっき言われた悪態を思い出してしまった。嫌味っぽく「帝国を食糧危機に貶める方の友人よ」とサールは返したが、ライアは返事をせず、代わりにイビキのような寝息を立てた。


「朝の祈りに間に合うの?」


 サールの言葉に返事する者はいない。ライアは気絶に近い眠りについたらしい。こうなったライアを起こすのは一苦労なので、ミアが来てから何とかするしかない。力仕事はミアの担当だ。


 酒場に付いた大きな窓から差し込む陽の光が、魔鉱石のシャンデリアよりも明るくなってきた。そろそろ手配している馬車も到着するだろう。サールは自身が持ってきた鞄を床に下ろそうかと思ったが、恐らくはライアのである吐瀉物が広がっていたので、仕方なく自分の肩に掛けた。


「やあ、やぁ」


 ミアは麻袋を持っていない方の手を上げながら近付いてきた。背中には弩と大盾を背負い、腰の横側には二本の剣、後ろ側にダガーサイズの小さな剣を持っている。皮と鉱石を組み合わせたアーマーの上からは深緑のマントを羽織っている。サールからは見えないだけで、ミアはまだまだ武器を持っている。


「ミア、あんた何のつもり?」

「遅れて悪かったよ」

「違う違う」


 首を傾げるミアに対して、サールは「ドラゴンでも狩りに行くつもり?」と言った。ミアがドラゴンの所在について尋ねてきたので、サールは大きな溜息を吐いた。


「私達が帝国に行くのは、戦争をしに行くのでもドラゴンを倒しに行くのでもないのよ」

「でも、戦争に巻き込まれるかもしれないし、ドラゴンに襲われるかもしれない」

「帝国の情勢は安定しているわ。それに、道のりだって、グリーンラインを辿って行くのだから、夜に移動しなければ絶対に安全よ」

「でも、闘技場に出る時、自分の得物がいるだろ?」

「要らないわよ、そんなの」


 サールが持ってきた皮で作られた四角い鞄には、様々な衣類や化粧道具が入っており、その隙間にギルド関係で使う羊皮紙や仕事道具が入っている。一方でミアは取手すら付いていない大きな麻袋に、戦闘で使う道具や薬品を詰め込んでおり、自身を着飾る物は何一つ入っていない。


「帝国では基本的に武器の持ち込みや携帯が許可されていないわ」

「そんな事ないぞ、前に行った時は何も言われなかった」

「それは、ミアがギルドの依頼を正式に受けていたからか、有名な冒険者だからよ。私達は観光で国を跨ぐのだから、そんな歩く武器庫みたいな格好でいれば、絶対にややこしい事になるわ」

「別に良いじゃねぇか。何か言われたら、その時にどうにかすれば良い」

「何か言ってきた相手を、その武器で殺すつもり?」


 ミアは肩を竦めて返事した。少し動いただけでも武器同士がぶつかる物騒な音が鳴る。馬車が来るまでの時間もないし、今からミアに準備をさせるのは不可能だ。サールが「カリテスの目的を忘れないで」と強く言うと、ミアは渋々ではあるが、武器をギルドへ預ける事を了承した。バザルに行けばミアに見合った服も何とかなるだろうし、それまでは少し持ってき過ぎた自分の服が役に立つだろうとサールは考える。


 ギルドに武器を預けて帰ってきたミアは、殆ど荷物を持っておらず腰を寂しそうに触る。サールはそれを見て満足げに頷いた後、念の為に「そのマントは?」と尋ねた。


「解ったよ」


 やはりマントの下には武器を隠していたのだろう。踵を返すミアを見て、サールは「マント自体が不要よ」と背中に声を掛けた。ミアを好き勝手にさせておけば、武器の密輸で捕まりかねない。


「お待たせ」


 戻ってきたミアは武器を剥ぎ取られた盗賊のような格好だった。防具もいらないと説明するのが面倒だったサールは、仕方がないのでそのままにしておく事にした。アーマーのプレートくらいは後で外して貰えばいい。


もう馬車が来ていてもおかしくないので、サールは「じゃあ、早く行きましょう」と改まって言った。


「おっしゃ」


 ミアは気合を入れるような掛け声をした後、机に突っ伏しているライアを荷物のように抱えて、安定させるように自身の肩へ担いだ。さっきまで持っていた武器よりは軽いらしく、ミアは涼しい顔で易々と一連の動作を行う。ライアはここに連れて来られた時とは違って、今は抵抗を見せず全く動かない。


「ライアをどうするつもり?」

「どうするって、連れて行くんだよ?」

「何処に?」

「バザルに決まってるだろ」


 そう言って歩き出したミアに対して、サールは「ちょっと」と言いながら付いていく。ライアを連れて行ってしまえば、後になって面倒なことになるのは考えなくても想像できる。


「そんな事をしたら、ライアも教会の人が怒るわよ」

「仕方ないだろ、こんな所に一人で置いておく訳にもいかねぇ」

「それなら、教会の前に置いていけば良いじゃない」

「捨て子じゃねぇんだぞ」


 サールが伝えたかったのは、教会の人に預かって貰えばいいという意味だが、それはミアにも伝わっている。サールにはライアを抱えて教会にまで運ぶ力はないし、引き摺って行くにしても時間は掛かるだろう。サールは自分の大荷物を持つので精一杯で、誰かの肩を持つのも難しい状況だ。


「だからって」サールはミアの後ろを歩きながら言う。「これじゃあ、本当に誘拐じゃないのよ。ライアにだって教会での作業だか、お祈りだか、何かしらあるだろうし、目が覚めたら絶対に怒って暴れるわよ」


「ライアは誘拐されたのが俺達で運が良かったと思うべきだ。なんなら感謝してくれるかもな。それに、ライアだって帝国に行きたそうにしていたじゃねーか?」

「そういう問題じゃないでしょ」

「ライアも大人だ、自分で決めればいい」


 ミアは立ち止まって「どうする?」と言ったから、ライアの尻を太鼓のように叩いた。パンッと結構良い音が鳴るものだと感心したサールは、ミアに続いて軽く尻を叩いた。ライアは「うぅ」と唸っただけで、他には何も反応を見せない。


「行くのか?」


 パンッ!


「ぅううう」


 パンッ! パンッ!


「行くんだな?」


 パンッ! パンッ! パンッ!


「うぅ」

「よしわかった」


 パンッ!


「う……」


 ミアはライアの尻を何度か叩いて呻かせた後に、再び歩き始めて酒場ラミーから出た。サールが「私は知らないわよ」とやけっぱちに言って、保身の為に当事者としての責任を放棄した。


ギルドの外には既に馬車が待機しており、馭者は不機嫌な顔をして立っている。ミアは「よいしょ」と声を出して、何食わぬ顔でライアを荷台に乗せた。


「お客さん、まさか人攫いじゃないでしょうね?」


 怪訝な顔をした馭者が尋ねてきたので、サールは出来るだけの笑顔を浮かべて訳を説明した。理解も納得もしていなさそうな馭者だったが、ライアが生きているという確認と、拘束されていない事を確認したら、まぁ良いかという判断を下した。後の面倒ではなく今の面倒に賭けたのだ。

のがまこでさぁ( ͡° ͜ʖ ͡°)


後の面倒ではなく今の面倒に賭けた。

この表現はどうでしょう?

個人的には気に入っているのですが

伝わりにくいですかね?

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