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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
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1-5 帝国遠征【プロローグ(私達カリテスの悩み)】

 食べるのも飲むのも一杯一杯になってきたカリテスの面々は、いつの間にか喋る方でばかり口を動かしていた。男性という生き物の考察から始まった談議は、最終的には偏見じみた悪態へと変わっていったが、それはいつもと同じ流れだ。その不毛な会話を終わらせたのは、ふと放たれた一言だった。


「この街では無理よ」


 サールが独り言のように言う。小さな声ではあったが、ミアもライアもしっかりと聞き取れたので、とりあえず二人は頭を振った。ミアは同意をするように縦に振り、ライアは呆れたように横に振る。


「王都には碌な男性がいないわ」

「同感だな。ここらの男達は骨がない」

「言われてみれば、そうかも知れませんね。王都では永久の神様の教えよりも、異教が幅を利かせていますから」

「じゃあよ、そろそろカリテスも遠征するか?」

「遠征ってどこにですか?」

「サール」


 ミアに呼ばれたサールは眉間に皺を寄せて考えるが、王都というよりは、ルブール王国全土が駄目な気がした。周辺国ならばブルゴン公国か、ロネパニア帝国、王都からだと距離はあるが、長ったらしい名前の国、通称カロホロス地区連合共和国もある。あとは、情報が乏しいシェオル闘國の紛争地域くらいだとサールは考える。


「帝国か公国ね」

「おいおい、国境を越えるつもりか?」

「そんな遠くに、わたくしは行けませんよ?」


 ライアは教会から王国を出る許可が降りる訳ないと主張始めたが、とりあえずサールは王国を出る考えを続けた。最近の公国は王国のせいで少し不安定だが、帝国の方は安定した政治状態を維持している。先代の恐ろしく忌まわしい皇帝が亡くなって、今の皇帝は賢帝と称されるくらい頭が切れるらしく、元老院との協調によって国が活気ついている。


「帝国にしましょう」考えた結果をサールが述べる。「王都からならグリーンラインを辿って安全に行けるし、五日くらい馬車を走らせればバザル自由都市に着くわ。周辺国家で一番の好貿易が見られる商業地区もあるし、それに今は世界最大とも言われるお祭りが開催されているわよ」


「バザルいいじゃねえか」

「わたくしが行けませんよ!」


ミアは楽しそうに賛同したが、ライアは激しく否定を続ける。サールとミアの中では既に、バザル自由都市へ行ってロマンスに耽る妄想が止まらない。


「祭りって事は、闘技場もやるのかよ?」

「やりません!」

「勿論よ。噂では今年のトーナメントは凄いらしいわ」

「凄くないです!」

「マジか」

「嘘です!」

「皇帝陛下も直々にご鑑あそばすそうよ」

「遊びません!」


 サールとミアが話している最中も、ライアは「わたくしが行けません」と執拗に主張しながら、話を進めないように会話を邪魔しているが、もう二人の耳には雑音としかならない。サールとミアも少しは申し訳なく思っているが、ライアの事は置いていくしかないだろうと結論を出していた。


「俺は闘技場に出れないのか?」

「出れません!」

「ギルドで正式に手続きをすれば誰でも出られる筈よ。何たって向こうは自由都市ですから」

「不自由です!」


「ヤベェ」ミアはコップの麦酒を飲み干して立ち上がった。「そうと決まれば、早朝には出よう。今から準備すれば間に合うだろ?」


 気が早いミアに呆れつつも、サールは満更でもなかった。バザル自由都市には王都なんかよりも金持ちが多い筈だ。帝国の大商人ならば、王国の王族や貴族よりもお金を持っているかもしれないと、サールは知っている情報を都合良く組み立てる。


「行くにしても、明日の方がいいのじゃない?」

「何言ってんだサール、思い立ったが吉日だ。それによ、向こうではデブの女はモテるんだぞ」


 ミアの言った話は有名だ。国が違えば文化が違うように、帝国ではふくよかな女性と、髪の黒い女性は美しいとされている。生憎サールの髪は金髪ロングヘアーだが、ライアのような黒髪の女性も男性から好まれるそうだ。


「でも、ミアは冒険者の仕事はいいの?」

「しばらくは休業だ。うちのパーティーに怪我人が二人も出たからな」


 サールもライアも理由は聞かなかったが、ミアが暴れている姿は容易に想像できた。ミアが休みを取れると言うのなら、サールも本格的に考えるべきだ。冒険者組合のボスに言えば、サールも帝国へ行く事は出来るだろう。帝国と王国の関係性は良好なので、帝国にあるギルド協会での仕事を回してもらえれば、こっちの仕事を暫くは休める筈だ。


「帝国はダメです!」


 ライアがヒステリックに叫んだ。理由は聞かなくても解るが、ミアとサールは言葉の続きを待った。ライアは目尻に涙を溜めながら、友人の二人が帝国へ行かないように心の中で神へ祈る。


「帝国なんて絶対にダメですよ。ミアさんみたいに気性の荒い人なんかが行けば、何かしらの国際問題に発展しかねませんし、サールさんのような大食漢が行けば帝国が食糧危機に陥ります」


 国を出るどころか教会の敷地内を出る事さえ許可が要るライアを、二人は気の毒に思っていたのだが、今の言葉を聞いて彼女を置いていく事に躊躇いがなくなった。


「それじゃ」ミアは立ったままライアの頭を軽く叩いた。「この馬鹿は置いて行くとして、出立は四時間後って所だな。各自、それまでに必要な物を揃えること」


「そうね」サールも立ち上がった。「今から急いでギルドに戻って、色々と手続きをしてくるわ。そこで馬車の手配もしておくから、日の出前にはここに戻ってきましょう」


 酒場の出口に向かって歩いていくミアとサールの背中に向かって、ライアは席に座ったまま「置いて行かないでください」と泣きながら叫んだ。


「あまり飲み過ぎずに早く帰れよライア」

「ライア、帰ったら私達の恋が上手くいくように教会で神様に祈ってね」


 ミアとサールはライアを残して酒場を出た。寂しくなったライアはコップの麦酒を飲み干して、自分が一気に酔っていくのを感じた。これ以上麦酒を飲めば、まともに祈る事もできなくなってしまうだろう。勿論、ミアとサールが不幸になる事をだ。

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