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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
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1-4 理想と現実【プロローグ(私達カリテスの悩み)】

 カリテスの面々はそれぞれのペースで食事を楽しんでいる。ミアは少し焦げた肉を大口で食べては、碌に咀嚼をせずに麦酒で胃に流し込み、ライアは煮た豆を一粒ずつ食べては、舐めるように麦酒を飲んだ。サールは何かしらを食べるのに必死で、時々思い出したかのようにコップを手にしている。


「ミアさんにも、良き交際相手が出来れば、きっとお仲間さんと仲直りできるでしょう」

「あいつらが嘘を吐かなければよかっただけだ。悪いのはあいつらだ」


「しかしですよ」ライアは人差し指を立てて天井に向ける。「もしかすると、そのお仲間さんは、言わなかったのではなくて言えなかったのかも知れません。ミアさんに気を遣ったという訳です。仲間を騙した訳ではなく、仲間を傷付けたくなかったのかも知れません」


 ミアは肩を竦めて顔を左右に振った。この後の展開がどうなるかを、ミアもサールも解っているので、呆れた顔を浮かべてしまうのも仕方ない。


「不滅の主は、仰いました。この世に悪は無い。また、本当の悪意も存在しないと。悪という概念は、過程を無視した結果論でしかありません。人々が憎んでいるのは、また、憎むべきなのは、間違いや過ちであり、まずはそれに気付かなければなりません」


 ミアはサールに向かって「また始まったわ」と小声で言う。ライアは人差し指を立てたまま目を瞑り、全神経を使って己の信ずる神の言葉を引用する。ミアやサールは神という存在に懐疑的であり、ライアの言葉は全く響かない。


「貴女たち人間は完璧ではありません。過ちや間違いを犯したことなんて、何度もある事でしょう。それらは悪でしたか?」


 天井を向いていたライアの指先が、突然ミアの顔に向けられた。ライアからの急な質問に対して、ミアは「さぁ」と答える事しか出来なかった。滔々と神について話すライアの話なんて、誰も聞いていなかったのだ。


「でも」サールはミアの説法に割り込んだ。「確かに、そろそろ本気で恋人を作るべきっていうのは賛成よ。きっと、神様だって賛成よね?」


 サールに対してライアが何かを返そうとしたが、ミアが「因みに、お前らは俺を騙してないだろうな?」と言って牽制した。効き目はサールにもあったらしく、ミアの質問に対して二人は黙ってしまう。


「わたくしは」ライアが最初に口を開く。「一生を主に支えると誓いました。主とわたくしは結ばれているのです。嘘を吐く必要なんてありませんし、そもそも恋人を作る必要もありません」


 ライアの言葉を無視したミアは、サールの方に顔を向けたが、返ってきたのは首を横に振る仕草だけだった。サールにはミアの気持ちが痛いほど解ってしまう。同じ歳くらいの同僚は職場に少なく、サールくらいの歳になれば殆どが結婚をして、ギルドの受付なんていう碌でもない仕事はやめてしまうものだ。


 勝手に恋人を作って抜け駆けするなんて、カリテスの中では御法度だろう。ミアとサールは焦っているのだ。周りが結婚していく中で、自分だけ一人のままなのが怖いのだ。きっと、ライアだって同じ気持ちの筈だと、ミアもサールも口にしないが思っているので、神と結ばれたと嘯くライアに対して、二人は哀れみの視線を送った。


「そうだな、俺達もそろそろ本気を出そう」

「今までは手を抜いていたものね」

「わたくしには関係ありませんが、友人二人に協力しないのは罪なので、少しくらいは力を貸すのも吝かではございません」


「まずは」サールが口火を切った。「ミアはどんな男性がタイプなのかしら? ギルドの情報網を駆使すれば、どんな人でも見つける事が出来る筈よ」


「俺より強い奴なら誰でもいい」

「そんなの、王都で、いや、この国に居ないわよ」

「サールが知らないだけで、そんな事ないだろ?」

「まぁ、少なくともうちの支部には居ないわね。実力者の大半は国や貴族に支えているし、他国のギルドなら別でしょうけど」


 ミアとサールの会話に、ライアは「力だけが強さではありません」と割って入ったが、どうやら見当違いだったらしく、二人から「今は力の強さの話」と一蹴された。


「そういうサールはどんな男が良いんだ?」

「私はお金持ちがいいわ」

「金?」

「そうよ」


 堂々と言うサールに対して、ミアとライアは信じられないという表情を浮かべる。ミアにとって金銭とは新しい武器や贅沢な飲食に使う物であって、己の強さに比例して貰える対価くらいにしか思えない。その場その場で使う金銭以外は、邪魔だとすら思っているくらいだ。


「王族や貴族、お金持ちなら誰でもいいわ」


 サールは自分の信念を曲げずに言い切った。ライアにしてみれば金銭とは悪である。金銭からの解放という教義があり、ライアが想い描く愛とは対極の位置に存在する物だ。私財を無くしてからこそ愛を理解できる。愛を知る為には、全財産を教会に寄付すべきだ。そもそも、愛は売る物でも買う物でもないとライアは考えている。


 ライアが人差し指を立てたのを見たサールは、急いで「そっちは?」と質問した。説教はいつでも出来るが、質問や会話の流れは生物なので、ライアは立てた人差し指を仕方なく納めた。


「先程も申しましたが、私は既に主と結ばれております」

「神様と結婚したの?」

「サールさんにしてはいい表現ですね」


 サールの皮肉に対してライアが普通に答えたので、ミアが「神様のペニスは大きかったか?」と揶揄した。ミアの冗談に対してライアは顔を赤くする。恥ずかしい単語を恥ずかしげも無くいうミアに対して、ライアは共感性の羞恥を抱いたのだ。後は怒りとかアルコールのせいもあるだろう。


 ライアがミアの質問に返せないでいると、今度はサールが「もっと現実的な話をしてよ?」と言った。この二人には主の教えがどれだけ尊いか理解出来ないのだろう。ミアとサールの欲深さに対して、ライアはいつも頭を悩まされている。


「サールさん。言わせて頂きますけど、王族と結婚するのが現実的なのですか?」

「確かに、それはあれだけど、辺境の貴族くらいなら……」


 言葉尻を弱めるサールに対して、ミアからも「現実的か?」と質問された。ギルドの受付嬢なんて仕事をしていれば、王族は勿論だが貴族と関わる事もそうそう無いだろう。サールが毎日関わるのは、品も学もない中途半端な力を持った、いつ死んでも可笑しくない小汚い連中ばかりだ。


「おいおい」ミアは溜息と共に言った。「しっかりしてくれよ、お二人さんよ。一人は神と結婚したとか言うイカレタ女で、もう一人はガキが思い描くような夢を未だに見ている馬鹿女、いい加減目を覚まそうぜ」


 ミアの嫌味に返す気になれないサールとライアは、コップを手にしてゆっくりと麦酒を飲む。いつもより苦く感じるそれは、何故か酔いを覚ましてくれそうだった。

nogamiです( ͡° ͜ʖ ͡°)

おっはー♪

朝から書き始めております!

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