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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
シェオル紛争地域 遠征編
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1-1 ライアの使命

 ライアの登場によって、ミアとサールの日常は急変した。少しだけ赤くなった瞳で肩を振るわすライアは、両手を胸の前で硬く結ぶことで、友人二人の庇護欲を刺激させる。


「助けてください……」


 ライアは静かに言った。ライアの上目遣いは、あげていない悲鳴を聴こえさせて、目に見えない苦痛を感じさせるのに十分だった。サールもライアと同じような悲痛に満ちた顔を浮かべ、ミアは感情を誤魔化すように笑顔を作る。


「私達に出来る事なら何でもするわよ。ねぇ、ミア?」

「当然だ。俺が居るから安心だ」

「ライアは何も心配しなくていいからね」

「俺達が何でもするさ」


 サールとミアを見たライアは、思わず笑ってしまいそうになるが、それを必死にこらえた。ライア自身が困っているのは本当だし、友人に助けを求めているのも事実だが、ここまで上手く事が運ぶと笑みを溢したくなるのも仕方ない。ライアは友人を利用する自身の醜さに対して、心の中で神へ許しを請う。


「何があったかしらねぇけどよ」ミアがライアの肩に手を置く。「とりあえず話を聞こうじゃねぇか。ここじゃあ何だし、酒でも飲みながらどうだ?」


 ミアはライアが小さく頷くのを確認してから、無言でサールの方を見やる。まだ少しだけ仕事が残っていたサールだが、それを続けるのは野暮だと自分でも解っていたし、ミアの視線でも気付いている。ライアは書き込んでいた書類を閉じて、友人達に「行きましょう」とだけ言った。



 酒場の真ん中を陣取ったカリテスの面々は、麦酒と簡単な食事を注文した。ライアの話を聞く前に運ばれていきた麦酒で乾杯すると、いつもは最後に飲み始める人物が、何も言わず最初に麦酒を口にする。


「懺悔という名の言い訳は無しかよ?」

「こりゃあ、相当参っているのね」


 口を濡らす程度に麦酒を飲むライアを見てから、ミアとサールもコップに口を付けた。説法も祈りも懺悔もなく麦酒を飲むなんて、いつものライアらしからぬ行動だ。


「男にでも振られたの?」

「サールじゃねぇんだからよ」

「じゃあ、人を殺めたの?」

「俺じゃねぇんだからよ」


 サールとミアは場を和まそうと言ったのだが、ライアは暗い顔をしたまま、再び麦酒を口に含ませた。ライアのコップに注がれた麦酒は、減っているのか目視では解らないくらいの量しか変わっていない。飲むというよりは唇を濡らしているような感じだったが、ライアの顔だけはアルコールによる弊害が如実に現れている。


「あのですね」すっかり顔を赤くしたライアが話し始める。「実は、パスター・パペロから召命を授かりまして、とんでもない場所で奉仕活動をしなければならなくなったのです」


「どこかしら?」

「いつまでだ?」


 サールとミアの質問は重なったが、聞き取れたライアは「シェオル闘國、一週間」と端的に答える。闘国は最も天国に近い地獄と形容される場所であり、国とは名ばかりの終わらない内戦を続けている紛争地域だ。戦神の導きによって与えられた国という事になってはいるが、その実は政治が全く機能していない無法地帯だ。


「闘國ねぇ……」

「一週間か……」


 サールとミアの言葉が再び重なる。闘国では強き者が正しく、弱き者は搾取されるという、単純で動物的な原理がまかり通っている。ライアのような女性が滞在すれば、どのような運命を辿るかは明白だ。


「パペロのクソ野郎はライアに死ねって言ってのるか?」

「それも、残酷にね」


「違います」ライアが強く言う。「わたくしの素行が悪いせいです。具体的に言えば、この間、誰かさん達に連れ去られたせいです。わたくしが、いえ、わたくしの友人の身勝手な行動を咎めている所、天啓が降りてきたそうです。パスター・パペロは、天啓に従ってわたくしを派遣なさるのです」


「てことは、神が死ねって言ったのか?」

「碌でもない神様ね」


「違います」ライアはさっきよりも声を荒げる。「ミアさんとサールさんのせいです。わたくしを勝手に旅行へ、いえ、わたくしを無理やり攫ったせいです。悪いのは、わたくしでも、パスター・ペテロでも、ましてや崇高な我が常しえの主でも御座いません。悪いのはミアさんとサールさんです」


 ミアは全く罪悪感を抱かなかったが、サールは少しだけ申し訳ないという気持ちを抱いてしまう。しかし、二人の中にある根本的な思いは、訳の解からない天啓と、それを伝える胡散臭い牧師に対しての嫌悪感だけだ。


「無視すればいいだけだな」

「それがいいわね。神様だかパペロさんだかに従って死ぬなんて馬鹿げているもの」

「そもそも、そんなにシェオルに行きたきゃあ、パペロが自分で行けばいいんだよ」

「わざわざライアが行く事ないわね。ここで麦酒でも飲みながら祈っといてあげましょう」


 当事者としての意識が低いミアとサールに対して、ライアは怒鳴りたい気持ちで一杯になるが、神を信じない友人を作った自分の罪だと認める事で溜飲を下げる。召命を無視出来る信徒など存在しないし、行かないという選択肢はライアに残っていないのだ。


「わたくしは魂を売る事など出来ません」


 ライアはそれだけを伝えれば、友人なら解ってくれるだろうと期待したのだが、サールは「そんなもの早く売っちゃえばいいのよ」と返し、ミアは「誰も買わないだろうから、捨てちまえ」と言うだけだった。


「全てが神の導きなのです……」

「シェオルに行って死ぬのもか?」

「わたくしは絶対に死にません」

「ライアなら闘國に辿り着く前に死んじゃうわよ」


 この会話が行き着く先は神の存在論証だとか、ミアとサールには全く理解出来ない抽象的な話になるのは目に見えている。唯一、具体的なのはライアを説得できるのは神様だけだという事だ。


「それでも、わたくしは行きますよ……」


 悲壮感を漂わすライアに対して、ミアは大仰な溜息を吐いて、サールは自身の手で痛む頭を抑える。ライアは人差し指を天井に向けて、己の信ずる神の言葉を引用し始めた。心優しい不滅の神に仕える事の素晴らしさを伝えるライアを見て、ミアとサールは変な友人を持った事に後悔し始めていた。


「神の話はもういいよ」ミアはライアの説教を遮る。「要するにだ、神だかパペロのクソ野郎だかに、逆らうつもりはないと?」


「当然です。我が主の思し召しこそが全てです」

「神が死ねと言えば、ライアは死ぬのね?」

「我が不滅の主はそのような事はおっしゃりませんし、信仰心が揺らがない限り、わたくしが死ぬ事はあり得ません」


 ミアとサールの質問に対して、ライアは硬く強い意志を持って答える。理屈ではない何かを感じ取ったミアとサールは、これ以上は何も言えなくなってしまった。説得を充分に試みたミアとサールは、ライアの矯正をしたい訳ではないし、ましてや喧嘩をしたい訳ではないのだ。しかし、この説得が行き着く先が、このどちらかである事は確かだ。


「正義も悪もない。あるのは強さか弱さだ」


 ミアが突然言った言葉に、サールは「何よそれ?」と眉間に皺を寄せて言う。ライアは自身の悲惨さを演出するため、伏し目がちに麦酒を啜るだけで、ミアの唐突な言葉に反応はしなかった。


「俺がシェオルに居た時、周りの馬鹿共が呪文のように言っていた言葉だ」

「ミアってシェオルに居たの?」

「冒険者になる前、十三の時に三年だけ居たんだよ」

「知らなかったわ」


 サールは驚きの表情を浮かべてから、黙ったままのライアを見やる。その意図を察したライアは、自分も知らなかったと伝えるために顔を横に振る。ライアとサールの反応を見たミアは、声を落として「誰にも言ってない」とだけ付け加えた。ミアは言外に「誰にも言わないでほしい」という意思を含ませる。


「ミアはシェオルで何をしていたの?」

「あそこで出来るのは戦いだけだ。するのは殺し合いだけ」

「ミアさんもですか?」


「まぁな」ミアは暗くならないように努めながら話す。「俺がシェオルに行ってから、一年くらいで領主になって、三年後にはシェオル統一をした。と言っても、俺ともう一人のクソ野郎の二人でだ」


 友人の過去を何も知らないと、改めて思い知るサールとライアだった。ミアとライアは過去を語りたがらない節があるので、大した過去もない平々凡々なサールからすれば、少しだけ距離を感じてしまう。


「シェオル統一って凄い事なのですか?」

「まぁ、俺がやったので歴史上では六度目だったらしい。って言っても、一過性の統一だ。あいつらは争いを好む。直ぐに解散して、また内戦だ」


 大した事なさそうに凄い事を言うミアに対して、サールは「シェオルを統一したら神様になれるって話は本当なの?」と問いかける。シェオル闘國は世界でも珍しい冒険者ギルドが無い国だ。正確に言えばあったのだが、直ぐに壊滅させられたという歴史があり、情報を金銭に変えている冒険者ギルドでも、シェオル闘國に関する資料は乏しい。そんな中で、サールが唯一知っている情報が、さっきの質問になる訳だが、神様という単語を聞いたライアは嫌そうな顔を浮かべた。


「俺が神に見えるか?」

「時々、悪魔になら見えるわね」


「その通りかもな」ミアはサールの皮肉を素直に受け取る。「あそこを統一したら、神のように崇められるのは事実だ。だが、その中身は悪魔だ。神のように崇められた悪魔になれるってだけだな」


 バツの悪そうな顔を浮かべるサールに対して、ミアは「俺は神にも悪魔にも向いてない」と戯けるように言った。ミアの性格をよく知るサールとライアは、ミアの自己分析に対して無言で頷く。

ノガミのマコトです( ͡° ͜ʖ ͡°)


十万字は超えたので、暫くは純文学に戻ります……

また戻ってきます!

プロバブリー!!

いや、メイビー☺︎

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