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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
30/32

4-10 食事

 トイレに行ったカリテスの面々を待つ間、アークは済ますべき事に取り掛かる。まずは店と客への謝罪だ。その二つを同時に済ませる方法は簡単で、アークは食事を騒がせた礼にと、全席に値の張る果実酒を注文する。食事を邪魔された事に嫌悪感を抱いていた客達も、この粋な計らいと果実酒で溜飲を下げ、アルコールと共に何もかもを飲み込む。あとは知り合いの店員に、庭の修繕費は軍部に請求するように言えば、とりあえず解決だとアークはこめかみを触りながら考える。


「それにしても」一通り済ませて席に戻ったアークは独りごちる。「一体、どうやってフライドラゴを借りてきたのでしょうね。盗んでいなければ良いのですが……」


 カリテスに待たされているアークの元に、一人の男が静かにやって来る。アークの部下である、さっきまでデクスターと名乗っていた男だ。件の男はライアと話していた時とは、似ても似つかない見た目をしている。


「泥狐か」


 アークは静かに言った。汚くて狡賢い事から、男のコードネームは泥狐となっている。個人情報を収集するのが癖になっているアークでさえ、泥狐の本名や出自だけでなく、本当の顔すらも知らない。アークに解っているのは、泥狐が特殊な魔法を使うのに長けている事と、人の皮を剥ぐ部族の末裔であるという事だけだ。アークには目の前に来た男が自分の部下である泥狐だと確信出来るが、その顔は初めましてだった。


「よろしいでしょうか?」


 アークには聞き覚えのない声で泥狐が話す。


「手短に」

「それでは……」


アークは直ぐに防諜の魔法を掛けて、泥狐は作戦の経緯と途中経過を伝える。それらを聞いたアークは「半分以上が失敗か」と心の中で呟く。アークの描いていた完璧な絵はミアによって崩され、もう一人の予想外によって崩壊された。闘技場の大会で帝国側が用意した強者は三人居り、その内の一人がテムノールだった。


「計算外の強者は何者だ?」

「それが、年端も行かぬガキのようです。このままですと、他所のガキが優勝してしまいますね」


 泥狐は「他所」という言葉を強調する。帝国の人間ではないという事だ。簡単な任務を失敗したせいで、出世が少しは遠のくだろう。嬉しいような悔しいような、アークはアンビバレントな感情を抱く。


「そんな強い子供が居るのか。面倒だな。攫うか潰すか」

「それはやめておいたほうが良いかと」


アークは交渉や勧誘の気はないと暗に伝えたのだが、泥狐はその提案を否定する。泥狐が子供は殺せないというような甘い人間ではないのを知っているアークは、思わず首を傾げてしまう。


「どうして?」

「その件のガキが、我々の探している御方と関わりがあるようです」

「神殺しと?」


舞い込んできた出世のチャンスに対して、アークは再びアンビバレントな感情に襲われる。アークは時間を確認して、この後にどうするかを考える。まだ闘技場では試合が行われており、決勝戦までは随分と時間もあるが、直ぐにでも動き出すべきだとアークは判断する。


「切り上げどきは今か?」

「指示を下されば動きます」


 指示を待つ泥狐に対して、アークは「いや、こっちが動く」と告げる。できれば泥狐に指示を与えて、アークはサールとのデートを楽しみたかったが、今となってはそれもミアのせいで破綻している。


「泥狐はフライドラゴを返しておいてくれ」

「空軍の者には何と言えばよろしいでしょうか?」

「自分、アグリッパ閣下の名を使え」

「軋轢が生じるかと?」

「それでいい、いや、それがいい」


 話は終わりだと言わんばかりに、面倒そうに手を払いのけるような動作をするアークを見た泥狐は、理解も納得もしないまま動き出す。アークは泥狐を面倒な部下だと思っていたが、泥狐もまたアークのことを面倒な上官だと思っている。これだから頭の良い奴は面倒なのだと、互いに互いの事を思っていた。


ライドラゴに乗った泥狐を、アークは席で座りながら見守る。完全にフライドラゴの姿が消えた辺りで、トイレからカリテスの三人が戻ってきた。向こうも何かの作戦を練ったのだろうが、アークは仕事に戻るという名目で逃げるつもりだ。


「お待たせしました」


 サールが三人を代表して言う。続く言葉を遮るように、アークは「申し訳ないのですが……」と、さっきとは雰囲気を変えて慇懃無礼な言葉遣いで言う。急な仕事で食事を中断する事になった旨をアークが伝えると、カリテスの面々は顔を見合わせる。それが何を意味するのか解らないアークは、食事は皆様だけで楽しんで欲しいと告げた。


 大袈裟に喜ぶミアとライアを横目に、サールが残念そうな顔を浮かべたのをアークは見逃さない。勝手に椅子を用意して座りだすミアとライアは放っておいて、アークは「改めて、個人的な依頼をしに行っても?」とサールに耳打ちする。


 ギルドで待っていれば、アークはデートに誘ってくれる意味だと理解したサールは、小さな声で「待っています」と返す。アークとサールは少しの間だけ目を合わせ、互いの意思を無言で確認する。


「それでは」アークは名残惜しそうにサールから視線を逸らす。「急いでますので、自分はこれで。あとは店の者に申しつけておきますので、皆様は食事をお楽しみ下さい」




 アークが去った後に、カリテスの面々は食事を始めた。サールはまだまだ料理を食べられるらしく、ミアとライアにマナーを注意しながらも、運ばれてきた料理を忙しそうに口へ運ぶ。ミアは高級な果実酒を、安酒と同じように飲んで、ライアは新鮮な豆や野菜を齧るように食べる。


「この豆、とても新鮮ですよ」

「泥でも付いていたか?」

「そういう意味じゃ無いでしょ」

「そっちの、お肉はどうなのですか?」

「血は付いてないな」

「そういう意味じゃ無いってば。まぁ、馬鹿舌のミアに聞いたライアが悪いわ」

「では、改めて、サールさん、お肉はどうですか?」

「共食いの感想を教えろよ」

「この豚肉、とっても新鮮よ。って、これ豚肉じゃ無いでしょ。じゃなくて、私が豚じゃない。これもだけど」

「何のお肉なのでしょうね?」

「ライアも食べろよ」

「ライアの分も頼むわ」

「わたくし、お肉は食べられないのですよ」

「ライアの弱点だな」

「肉が食べられないなんて、弱点というよりは欠点ね」


 いつもとは違う景色や食事で、いつもと同じような会話を楽しみ、カリテスの三人は笑い合う。ミアは大きく目や口を使って笑い、ライアは口元に手をかざしてニヒルに笑い、サールは微笑むように笑う。いつもの景色だ。


「ミアさんは船や海が怖いそうですよ。弱点は港です」

「おい、馬鹿ライア。わざわざサールに言うな」

「ミアにも怖いものがあるのね」

「サールさんは高い所が怖いそうですよ」

「サールは意外と何でも怖がるよな。弱点が多過ぎだ」

「高い所を恐れているのじゃなくて、落下が怖いのよ」

「わたくしは怖いものなんてありませんよ。神が付いていますから」

「そんな、お前が俺は怖いよ」

「確かにね。人の弱点を広めようとするライアが一番怖いわ」

「先に言ってきたのは、お二人さんの方ですよ。それに、わたくしはミアさんとサールさんの、意外な一面が新たに知れて嬉しいだけです。弱点を広めようとした訳ではないですからね」


 次々と運ばれてくる高級な料理と果実酒、尽きる事のない楽しい会話、帝国旅行に来て良かったと、カリテスの面々は思うのであった。

野神でおまぁ!


次にエピローグ書いて終わりです……

その次からは、新たな章の話になります( ˊ̱˂˃ˋ̱ )


広げ過ぎた大風呂敷をどうするかは

読んでくれている方の人数で決めます( ͡° ͜ʖ ͡°)

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