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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
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4-8 カリテス集結

 サールとアークは一通りの食事を終え、デザートを食べ始めていた。そんな最中に、サールはアークの視線が自分に向いていない事に気付く。サールの些細な表情の変化も見逃さない為に、胸や顔から目を離さなかったアークが見ていたのは、中庭の方と慌ただしい店内だ。


「何でしょうかね」


 アークが人差し指でテーブルを二回叩くと、傍聴の魔法が解けて一気に周りの音が戻ってくる。止まった生演奏の代わりには、店員がマナーを気にせず走る音や、動揺した客が作り出す騒めきが聞こえる。


「庭で何かがあったのですかね?」

「そうみたいですね」


 サールから見たアークの目は、彼が軍人だという事を想起させる程に鋭く、何かがあれば守ってくれそうな気概を感じさせた。アークは「フライドラゴ」と小さく呟いたので、サールも視線を中庭へと戻す。


「何処の部隊で、誰の許可を得たのかは知りませんが、少しややこしくなりそうですね」

「何かの緊急事態でしょうか?」

「自分が見てきてもよろしいでしょうか?」


 サールが肯定をすると、アークはゆっくりと中庭へ出られる扉の方へと向かう。その上品で優雅な動きを見たサールは、アークが焦っていないと勘違いしていたが、実際はその真逆だった。アークは面倒事が嫌いで、本当は逃げるようにして帰りたかったが、サールや店の顔見知りがいる手前、自分が行くしかないと焦っていたのだ。実際に、慌てていた店の人は、アークを見て安堵の表情を浮かべ、空を指差しながら何かを言っている。


 手入れされている花壇や木々の枝をへし折りながら、ゆっくりとフライドラゴが降りてくる。最初はフライドラゴの足先しか見えなかったが、脚や翼や尻尾が見え始め、最終的には背中や頭まで全体を見る事が出来た。そして背中に乗っている二人の女性を見たサールは、思わず「えっ」と言ってしまう。何人かの客に見られたサールは、恥ずかしさを誤魔化すように、慌ててアークの元へと向かう。


「アークじゃねぇか」


 フライドラゴの上からミアが言う。ミアはフライドラゴから飛び降りて、次に飛び降りたライア受け止める。ミアが抱き抱えたライアを地面に下ろしたところで、アークは「これはこれは」と言いながら、二人と一匹の元へと向かう。


「エウティミア様と、確か、ライア様ではございませんか」


 再びエウティミア様呼びになっている事に対して、ミアは少しだけ思う所があったが、急いでいるので指摘はやめておいた。アークに協力を仰げば、友人を見つける事が容易になる筈だと思ったミアが、何かを言おうとした時に、アークは「良いのですか?」と遮るように言う。


「何が?」

「試合はもう終わったのでしょうか?」

「試合どころじゃねぇ」


 アークは心の中で微笑んだが、何かを感じ取ったミアは「なんだ?」と尋ねる。アークは直ぐに「心配をしただけです」と返したが、その嘘はミアの勘が見破る。アークが何かを隠そうとしているのを悟ったミアだが、今はそれどころではないので、無理やりにでも本題に入ろうとした瞬間、サールが中庭へ飛び出してきた。


「サール!」


 大きく叫ぶミアに続いて、ライアも「サールさぁん」と涙目で言う。再び揃ったカリテスの面々は、各々が抱いている感情で齟齬が生じていた。ミアは安心感を通り越して怒りの感情を抱いている。ライアは友人が無事だった事と、ギャンブル船へ行けない事に対して、嬉し悔し泣きをしている。そして、サールは友人二人の行動が恥ずかしくて顔を赤くしていた。


「大声出さないでよ」

「大声も出るだろ。お前、何してたんだよ」

「そうですよサールさん。わたくし達は心配していたのですよ」


「何って」サールは軽くアークを何度か見やる。「デー、いや、食事、食事をしていただけよ」


「はぁ〜?」


 ミアの大声に対してサールは「シッー」と返しながら、自身の唇に人差し指を押し付ける。気付けば店内に居る全員が、こちらをガラス越しに観察しており、一種の下品は見せ物になっていた。食事を邪魔された不快感を滲ませる者や、好奇の目で見物する者もおり、大勢からの視線に慣れていないサールは赤い顔を更に赤くさせる。


「お前が攫われたってなったから、こっちは苦労して探したんだぞ」

「ミアさんの言う通りです。神もサールさんを心配しておりました」

「それなのに、こんな所で飯を食ってただと?」

「そうですよ。わたくしもお腹が空きました」

「ふざけやがって。今頃、ギルドの連中もお前を探しているだろうよ」

「こんな高級な店に隠れていたら、冒険者の方々も見付けられないですよ。こんな高い店に冒険できる底辺の冒険者なんていませんからね」

「フライドラゴだって、お前を探す為に無理して借りて来たんだからな」

「ここでは、肉を使わない料理もありますか?」


 ミアとライアが言い聞かせるよう一気呵成に、次々とサールに話しかけてくるが、言われた本人は周りの様子を伺うのに必死で聞いていなかった。サールは「解ったから静かにして」と言うと、ミアとライアは更に捲し立てる。


 唯一話を聞いていたアークは、微笑みながら「よかったですよ」と言う。急に話し出したアークに対して、カリテスは耳を傾ける。聞く耳を持っていなかった者や、話す口しか持っていなかった者達の視線が、アークに集中した。


「何があったのかは解りませんが、サールさんはこうして無事なのですし。誰も怪我をしていないのなら、よかったじゃないですか。運よく見つかった事に、神に、感謝をしましょう。それと、もしよろしければ、エウティミア様とライア様も一緒に食事をされて行かれませんか?」

「俺は金がねぇぞ」

「わたくしもです」


 図々しいミアとライアに対して、アークは微笑みながら「ここは自分が持ちますよ」と告げる。怒っていたミアも少しは鎮まり、泣いていたライアは口元を隠しながら口角を釣り上げる。


「フライドラゴさんにも水を上げてください」

「水以外の何か美味しい飲み物があるなら、それを俺に頼む」


 アークの提案で落ち着きそうになったが、サールは「ちょっと」と口を挟む。サールからすれば、まずは友人二人の格好が駄目だった。ミアは胸元に大きな刀傷のあるレザーアーマー、ライアはテーブルクロスを纏ったみたいな格好、二人とも全体的に汚れており、ここで食事が出来るような格好ではないとサールは判断したのだ。それに、もう一つ許容出来ない要因がある。


「一回、私達だけでトイレへ行かない?」


 サールはそう言いながらアークの方を確認する。アークはどうぞといった感じで頷いたので、サールはミアとライアの了承を得ないまま、無理やり手を引いてトイレへと向かう。周りの視線を感じながら、足早にトイレへ向かうカリテスは、事情を知らない人からすれば仲の良い姉妹のようにも見えた。


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