3-6 戦闘狂
正面から突っ込んできたミアに対して、テムノールは切り下げを行ったが、当然のように空を切るだけだ。間合いを完全に見切られているテムノールだったが、こちらもミアが見切っている事は見切っている。見切られたのではなく、テムノールが見限った単なる切り下げは、次の攻撃を仕掛ける動作でしかない。
テムノールは前に構えていた何も持っていない左手を、剣を避けて体勢に隙があるミアへと伸ばす。掴まれそうになったミアは、逆に相手の手首を掴む。普通なら引いてテムノールの左手を無理してでも避けてしまいたい所だが、そこで逆に押し込み踏み込めるのは、ミアもまた対人での殺し合いに慣れているからだ。
テムノールも小手を返してミアの手首を掴もうとするが、ミアは気を使って受け流す。ミアが体を横に回転させると、テムノールも少しだけ遅れて同じように回った。
テムノールは横に回転しながらも、ミアに掴まれていない方の手を動かす。大きな剣を持ったその手が狙ったのは、掴まれたミアの手首だったが、それも空を切る事しか出来なかった。
先に体勢を立て直したミアは、剣を振って隙だらけのテムノールに、拳で一撃をお見舞いした。ミアの握られた左拳は、テムノールの脇腹へ食い込み、そのまま勢いを殺さずに吹っ飛ばす。この攻撃もミアの思惑通りだ。ミアは手数を増やして何度も殴るのではなく、一度距離を空ける選択をしたのだ。
テムノールは自分が浮いているような感覚に襲われ、やっと地面の感触を味わえたと思った矢先、何度も転がりながら嫌というほど地面を味わう。
「化け物めが」
テムノールは呻くように言った。ミアとの距離は空いているので、テムノールは体を労るようにゆっくり立ち上がる。こんなにも吹っ飛ばされたのかと、テムノールはミアとの距離を見て驚いた。
「大丈夫か?」
呑気に声を掛けてきたミアに対して、テムノールは「お前は本当に人間か?」と返す。冒険者だか何だか知らないが、この強さは討伐される側だろうと、テムノールは心の中でミアに毒吐く。ここまで強いと、獣やモンスターの方に同情してしまいそうだと、戦っているテムノールは感じてしまう。
「そういう、あんたは本当に男か?」
ミアの挑発を聞いたテムノールは、自身が女だったら楽なのにと馬鹿な事を考えてしまう。女性だったら泣いて逃げる事も恥ずかしくはないが、テムノールは生まれてこのかた、ずっと男をやっているのだ。
「じゃあ、もう一度行くぞ」
先程と同じように攻撃を仕掛けようとしたミアだったが、テムノールが胸のポケットから何かを取り出すのを見て、とりあえずは踏み込むのをやめた。相手がモンスターや獣の類ならば、ミアは今がチャンスと見るだろうが、油断している人間相手を殴り掛かるのは気が引けたのだ。こういった細かな隙を利用出来ないのは、対人戦での弱点と言えるだろうし、テムノールもそういったミアの弱さを見切っての行動だ。
「何をしている?」
「お前を倒す準備だ」
胸から小瓶を取り出したテムノールは、水平にした剣の上に中身を載せる。白い粉状になった薬をテムノールが鼻で吸い上げると、落ちていた気分は一気に高揚して、感覚は普段とは桁違いに研ぎ澄まされていく。借り物だと解るほどに力は漲り、肌に空気が触れているのが解る程に敏感になった感覚は、痛みを和らげてテムノールを気持ち良くさせる。
何かを言おうとしたミアを待たず、テムノールは剣の刃を前にして突進する。切り付けるのではなく押し付けるように突進するテムノールの攻撃を、ミアは簡単に回避して反撃をする。ミアの蹴りはテムノールの顎に当たり、彼の脳を激しく揺らす。
テムノールは最高の快感を味わう。下半身と蹴られた箇所を熱くするテムノールは、理性を失って大振りの反撃をする。倒れないテムノールに感心したミアは、細かい攻撃を何度も繰り返す。
そこからの試合は早く進んだ。テムノールの当てる気があるのか判然としない斬撃と、容赦のないミアの蹴りや殴りは、誰が見ても勝敗をはっきりさせた。
ミアの右フックはテムノールを興奮させて、左のストレートは絶頂へと導く。震える脳に連動して、テムノールは何度も絶頂に達する。それでも反撃をするテムノールに、ミアは何度も蹴りや殴りを与えた。テムノールはこのまま殴り殺されたい衝動に駆られる。最高に気持ちが良い。テムノールはそう叫びたかったが、すでに顔は晴れて口を開けないし、少しでも気を抜くと、この幸福が終わりを告げてしまうのを理解していた。
なんとか剣を握っていなければならない。目を瞑っていても良いから適当にそれを振れば良いのだ。そうしている内は、この性的絶頂を何度も味わう事が出来る。快楽に溺れたテムノールは、なんとかしてミアと戦う。
それから暫く一方的なミアの攻撃が続き、テムノールは幸福感と快感の中で気絶する。一部分だけ立てたまま倒れたのだ。笑ったまま地面に突っ伏すテムノールに対して、ミアは少しだけ彼の気持ちが理解出来た。ミアもまたテムノールと同様に興奮していたのだ。




