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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
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1-2 ライアという友人【プロローグ(私達カリテスの悩み)】

 ギルド酒場「ラミー」の天井には、荒削りな魔鉱石のシャンデリアが下げられている。中央にあるテーブルは魔鉱石の光が一番届く箇所で、他の場所と比べて明るい席だ。暗い話や密談をする客は端っこの暗いテーブルを利用して、祝いや何かしらで明るい客達は真ん中のテーブルを利用する。それがこの酒場での慣わしだ。


「サールはまだか?」


 明るい席で暗い顔をしたミアが言った。場違いな雰囲気ではあるが、周りの客や冒険者は誰もミアを指摘出来なかった。


 普段なら「暗い話は隅っこでしろ」と、冒険者や酔っ払いの誰かが注意するだろうが、先程の惨劇を見ていれば黙認するしかない。ミアはこの明るい席が好きなのだ。暗い時こそ明るい場所に行くべきだとミアは考えている。ミアにとって特別真っ暗な今夜も例外ではない。


「ミアさんは傷付いています。ですから、敬虔に仕える忙しいわたくしを、誘拐してまで、こんな汚らわしい場所に連れて来たのです。神の庇護の元、彼女に救いを与え……」


 無理やり酒場に連れてこられたライアは、逃げる事を諦めてミアの対面に座っており、胸に下げたネックレスを握りながら、静かな声で怒りに満ちた祈りを唱え続ける。ミアは貧乏揺すりをしながら「その祈りを止めろ」と怒鳴った。


「恫喝でしか人を動かせない哀れな友人を、どうか我々と等しく慈しみ……」

「その嫌味な祈りをやめなければ、いくらライアとは言え容赦しないぞ」

「わたくしの祈りまでもを妨げるつもりですか?」

「そりゃあ、教会で忙しそうに無駄な事をしているライアを、無理やり連れてきて悪かったとは思っているよ」

「無駄な事なんてしていません。私達は日々、不滅の神様である……」


 ライアの話が長くなると悟ったミアは、両手をあげて「解った、解った」と言って話を遮る。ライアの信仰する神は、飲酒を罪としている。飲酒が罪なのだから、酒場は地獄で酔っ払いは悪魔みたいなものだ。


「解って下さったのでしたら、わたくしは教会に戻ってもよろしいですね?」

「そんな冷たい事を言うなよ。俺は親友として頼んでるんだ。それとも何だ? ライアが信仰している宗教の教義に、困っている友を見捨てろとでも書いているのか?」

「慈悲深い我が主は、決してそのような事を仰りません」

「じゃあ、いいじゃないか。これも人助けだ。その辺のよく解らないのに祈るんじゃなくて、まずは近くの友だ。助けて当たり前だ。だから、ライアも少しくらい飲め。今日くらいは俺に付き合ってくれよ」


 ミアは自分が飲んでいた麦酒の入ったコップを、ライアの手に握らせた。ライアは喉をごくりと鳴らす。飲酒は罪。だが、その罪深さこそが、神への信仰を強めていく。悪い事をする人間に限って、神を信じて救いを求めるのと同じ原理だ。


「飲酒は罪です」

「ライアの信じる神様とやらは、麦酒を一杯飲んだくらいで信者を見捨てるのか?」

「そんな事はありません。我が主は、罪を受け入れて罰に耐えるのであれば、どんな悪事でも許して下さる寛大な御方です。とこしえの御身を持って、人類の皆を等しく救ってくれる、愛深き偉大な神様なのです」

「じゃあ、それを見習わらないとな。まずは俺を救ってくれ」


 ライアはコップを持つ手を震わせながら、己の信仰する神へ謝罪の意を唱え、それから言い訳の義を長々と口にして、ようやくコップに入った麦酒を飲んだ。二日前にもライアが同じ事をしているのは、ミアがそうさせたからだ。毎度お馴染みの流れで、ある種の儀式といっても過言ではないだろう。


「そうこなくっちゃ」


 ミアは嬉しそうに言いながら、近くを通ったウェイターに追加の麦酒を二杯頼んだ。いつもは舐めるように麦酒を飲むライアだが、今日の一杯目は豪快に飲んだ。ミアを救うためでもあるし、現実を忘れる為でもある。


「あと何杯飲んだら、その碌でもない神とやらの事を忘れられそうだ?」

「主への悪態は、いくら友人でも許しませんよ」

「許さない? どうするつもりだ? あんたらお得意のお祈りか? 俺を祈り殺すのか?」

「主よ、この碌でもない馬鹿な友達を、ぶち殺して下さいまし」


 ライアは顔を真っ赤にしながら祈った。麦酒を少し飲んだだけで、ここまでアルコールによる弊害が顕著に現れるのは珍しいだろう。ライアはそこらの子供よりも酔いが回るのが早い。そして、そんなライアをミアはいつも面白がっている。


「言葉遣いが変だぞ。神の存在は覚えていても教義や品については、もう忘れちまったか?」

「わたくしが覚えておくべき事は一つです。ミアさん、貴女をぶち殺すことだけ」

「その調子だ」


 ミアは少しだけ機嫌を取り戻し、提供された麦酒のコップを更にライアへ進めた。親友の存在は偉大だ。こうして親友と仲良く酒を飲めば、ミアのストレスも少しは和らぐし、それはライアも同じだ。堅苦しい日常から解放してくれるのは、少し強引な親友のミアが居るお陰だろう。


 そんな二人の元に、もう一人の親友がやってきた。サールは怪訝な顔を浮かべながら、ミアとライアに向かって「こんな時間から飲んでるの?」と言い放った。


 一見すると共通点のなさそうな三人だが、彼女達の絆を強くする確固たる共通点が二つある。一つは酒が好きな所、そしてもう一つは行き遅れているという所だ。

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