3-3 冒険者ギルド トゥーラル
バザル商業地区の真ん中に在る冒険者ギルド、その名もトゥーラルは賑わっており、王都に在る冒険者ギルドのラミーとは違って、国内だけでなく国外からの依頼も沢山ある。いい意味で賑わっているのはトゥーラルだが、ラミーも悪い意味では賑わっている。忙しく仕事をしているのか、暇すぎて酒を飲んでいるかの違いはあるものの、冒険者ギルドという場所は常に賑やかなものだ。
「ヘイスエナのリーダー、エウティミアが闘技場に出るらしいぞ」
「ヘイスエナってどこのパーティーだ?」
「王国で一番実力があると言われている冒険者をしらねぇのか?」
「エウティミアっていったら、幻獣や公敵を倒した事もあるらしいぞ」
「王国最強の冒険者がどうして闘技場なんかに?」
ミアほどに有名な冒険者ともなれば、ギルド全体が一気に歓迎ムードとなり、外で行われているパレードが霞むくらいに盛り上がる。その渦中に居るミアは平然としており、最高位の冒険者として堂々とした立ち振る舞いだ。
「なんだか、ラミーとは雰囲気が違いますね」
疎外感を感じているライアは、共感を求める為にサールに話しかける。いつも馬鹿な事をしている友人は、遠くで人だかりに囲まれ、英雄として持て囃されており、ライアは壁を感じてしまう。
「うちは酔っ払いしか居ないから。まぁ、これが本来あるべきギルドの姿よね」
「それだけじゃないですよ。ミアさんの扱いも何だか変です」
「王都での噂がここまで届いていないからね。あんなんでも一応は伝説の冒険者だから。まぁ、伝説とか英雄って呼ばれるのをミアは嫌がっているから、ラミーでは彼女を特別視する人はいないわ」
ライアは「知らなかったです」と感心したように言う。ミアは少し遠くで様々な冒険者と挨拶や近況報告をしている。受付カウンターからではミアが何を話しているのかは解らないが、ライアとサールの近くにいる冒険者までもがミアの話をしている。
人に囲まれているミアと、何か書類を書き込んでいるサール、ライアだけがする事が無かった。ライアはギルドに貼られたポスターを見て、書かれている文字を指さす。何と書いているかは読めないライアだったが、小さなドラゴンに乗った帝国の軍人が、箒に乗った魔女を刺し殺している絵が描かれたポスターだ。
「鳥か? 悪竜か? 違う魔女だ! 時代は三次元の戦いへ突入した。君も帝国フライドラゴ空軍兵の一員となって、悪き魔女を打ち滅ぼせ」
ポスターを見つめるライアに気付いたサールは、書いている文字を読み上げてから、再び書類の記入する作業に戻った。サールが急に喋り出した言葉が、書いている文字の意味だと気付いたライアは、誤魔化すように「勧誘のポスターですね」と言った。
ライアは文字が読めないのを自身で恥じており、いつも読めるふりをしているが、サールは薄々気付いていたのだ。王国の識字率はそこまで高くないが、周りに居る人達は当たり前のように文字が読めるので、引け目を感じてしまうライアの気持ちも、サールには少しだけ理解出来るので、特に指摘した事はない。
「ライアも入隊すれば?」
「戦うのは嫌ですけど、一度くらい空を飛んでみたいですね。この小さなドラゴンが、フライドラゴって生き物なのですね。わたくしも乗れるのでしょうか?」
帝国が世界で初めてフライドラゴを飼い慣らしたという情報が出回ってから、もう二年くらいは経過しているが、サールの耳にはあまりいい噂は入ってこない。落下事故だけならまだしも、フライドラゴに食い殺された兵士もいると聞いた事があるサールは、ペンを走らせながら「フライドラゴに乗るなんて正気じゃないわよ」と返事する。
「サールさんは高い所が嫌いなのですか?」
「高い所も訳の解らない生き物も嫌い。訳の解らない生き物に乗って高い所に行くなんて、私は絶対に嫌だわ。死ぬのが嫌なのよ」
「サールさんは意外と、ビビりさんなのですね」
「あんなのに乗りたがるのは、おバカさんだけよ」
口を尖らせて黙るライアに対して、サールは「今のお祭り期間はフライドラゴに乗って、ギャンブル船へ行けるらしいわよ」と情報を与えた。もう一人のおバカさんなら、きっとライアに付き合ってくれるだろうと、サールは呆れながら思う。
「よし」サールはライアと喋りながらも書類を完成させる。「これでミアも闘技場に出られるわ。ちょっとライア、ミアを呼んできて頂戴」
ライアは人波を掻き分けながらミアの元へ向かい、サールが呼んでいると伝えた。ミアが「じゃ、また」と周りの冒険者達に告げると、皆がやるべき事へと戻って、直ぐに人溜まりは解消された。
「ミアさんって凄い人だったのですね」
ライアの歩幅に合わせて歩きながら、ミアは「何を今更?」と言って首を傾げる。ミア自身も王国と他国での扱いの差は感じているが、それが友人に伝わっていなかったのは少しだけショックだった。周りの反応で悟らせるのではなく、ミア自身の行動で解ってほしかったのだ。
「わたくしはミアさんを勘違いしていたようです」
「ライアは俺をどう評価してたんだよ?」
「自虐的で強引で傲慢な酔っ払い無神論者ですかね」
悪びれることなく言うライアを見て、思わずミアは笑ってしまう。特に訂正する所もないので、ミアは「最強の冒険者。それも付け加えろ」とだけ言っておいた。
ライアとミアが受付のカウンターに到着すると、サールは「出来たわよ」とだけ言って、紙を二人に見せ付ける。紙に書かれているのはトーナメント形式になった参加者一覧表だった。ミアのエントリーで締め切られたようで、参加する全員の名前が既に書かれている。
「この辺りが本命ね」
サールは六人程度の名前を指差してから、最後にミアの名前も指差した。ギルドで教えてもらった情報を元にしているが、この六人の中でミアの相手になるのは、一人か二人とサールは見ている。今回のトーナメントで参加している冒険者は十名程度らしいが、周辺国家の強い冒険者を暗記しているサールが見ても、無名に近い売名目的の小物ばかりで、聞き覚えのある名前はない。
「まぁ、冒険者の情報なら詳しく調べられるけど、調べる価値もないでしょうね。間違いなくミアが一番強いわ。あとは、傭兵団の連中と帝国軍人、剣闘士や剣術道場の達人、なんだかよく解らない人達が強いって噂だけど、今は詳しく解らないわね」
「別に何も調べなくていいさ。俺は初見で戦うつもりだ。そっちの方が面白いだろ?」
「そう言うと思ったわ。さっき私は色々と聞いたけど、ミアよりも強い人は居ないかもしれないわね。まともに相手できるのが、一人でもいれば運がいいって所かしら」
ミアは不満げな顔を浮かべながらも、紙の端から端まで目を通す。ミアの見知った名前もいくつかあるが、戦ってみたいと思う名前ではなかった。
「おいおい、リアムも出るのかよ?」
「リアム?」
「ウィリアムだよ。この前居たクソガキ」
「あら」サールは紙を見る。「本当ね。名前は同じだけど、あんな子供が出て大丈夫なのかしら?」
ウィリアムが出るのなら、そのお爺様も出ているかもしれないとミアは期待する。お爺様の名前を知らないミアだが、もしも出場していれば戦う事になるだろう。あのお爺様が他の誰かに負けるとは思えないし、ミア自身も誰かに負ける気がしないのだ。
「あの村で会った子供ですよね?」
「そうそう、私達を助けてくれた子供」
「でも、わたくし達の方が早く村を出ませんでしたっけ?」
「一昨日にエントリーしているみたいだから、いつの間にか追い越されちゃったんでしょ」
ライアの疑問を簡単に片付けるサールだったが、ミアには納得出来なかった。一直線のグリーンラインを通って来たのだから、途中で休憩した場所や泊まったグリーンハウスも、同じ所を利用している筈なので、追い越されたら気付く筈だ。仮に気付かなかったとしても、一昨日にバザルへ到着するなんて些か早すぎる。
少しだけ考えたミアは直ぐに答えへと行き着く。小さく「なるほどなぁ」と言ったミアは、サールとライアには真実を隠す事にした。ウィリアム達はグリーンラインを通っていないというだけの話だ。亜人や魔物が多く出る道を通ってきたのだろう。
「同姓同名の別人かもしれないですよ」
「そうかもしれないわね」
「それなら、後で試合を見ましょう」
「そうね」
ライアとサールの話が一段落着いたのを見計らって、ミアが「武器はどうすればいい?」と尋ねた。出来れば防具も揃えたいミアだったが、出場までに時間はあまりなさそうだ。
「闘技場にある武器や防具なら借りられるそうよ」
「それなら大丈夫だな」
「でも、防具はミアのサイズに合った物があるかどうか」
「俺の出番まで少しは時間があるから、ちょっとそこの市場へ行って防具を買ってくる」
ミアは「一緒に行くか?」と付け加えたが、サールは首を横に振った。ここらの一般商業地区にある市場で出回っている物なんて、中古といえば聞こえはいいが、所詮は故人の遺品ばかりだろう。サールには市場なんかよりも、もっと高級な地区で新品の物を見たい。
「ライアはどうする?」
「そうですねぇ、因みにサールさんは何をするのですか?」
「私はギリギリまで仕事をするわ。勿論、ミアが闘技場に出る時は見に行くから、ライアはそこで合流しましょう」
一人でバザルを散策するのを恐れているライアは、とりあえずミアに付いて行く事にした。ライアはサールと闘技場の入り口で会う事を約束して、ミアと共に市場へと向かった




