2-7 飲み会
本来ならグリーンハウスで泊まる予定だったが、カリテスの面々は王国領の村で宿を借りる事になった。本来ならこの村でライアを王都へ送り返す手筈だったが、今となってはその必要もない。
ミアは直ぐに老人とウィリアムと打ち解けて、御者も含めて皆で何処かへ出掛けに行ったが、サールとライアは先に宿で休む事になった。
サールはベッドに服を並べながら、ライアに「どうしたのよ?」と尋ねる。汚れた服と汚れていない服を仕分けするのに忙しいサールだが、あまりにライアが無口なので、とりあえず片手間に心配したのだ。
「ライアったら、さっきから無口じゃないの?」
「すいません」
「謝らないでよ。むしろ大歓迎。初対面の相手に神の話をしないでくれて助かったわ。ウィリアム君や、そのお祖父様も、ライアの説法を聞いたら、神を恨む羽目になっていたでしょうね」
サールの嫌味を聞いたライアは、静かに「さっきは殺されるかと思いまして」と返す。普段なら神への侮辱とも取れる発言に対して、何かしらの反撃をしていたライアだが、今は聞き流す事にしたのだ。
「確かに危なかったわね。ウィリアム君が来てくれなかったら、今頃私達は変な獣の昼食になっていたわよ」
「そっちじゃなくてですよ」
サールは「え?」と言ってライアを見やるが、ライアはそれ以上何も言わなかった。何の事を言っているのかは解らないサールだったが、とりあえず服の仕分けをやめて、ベッドに座っているライアの隣へ腰を下ろす。
「大丈夫よ。私達は生きてるじゃない。それに、あのお祖父様とウィリアム君も良い人だったし」
「そうですね。全て神のお陰です」
少しだけ元気になったライアを見て、サールは「それより、聞いてよ」と話を変えた。ミアが老人に対して恐れていた事を、サールは笑いながら話し、神経質なまでに臆病な王国最強の冒険者を揶揄った。
「どうしてミアさんも恐れていたのでしょうね?」
「知らないわよ。あのジジイは俺より強いとか、変な事を言い出すものだから、私もびっくりしたけど、今考えたらそんな訳ないわよね。目の見えない老人が怖いって、あれでも王国最強の冒険者なのかしら?」
「ミアさんは勘が鋭いですから」
「ミアの勘も役に立たないわね。結局はただのご老人だったじゃない」
ライアは少しだけ間を空けてから、含みを持たせて「そうですね」と返事した。いつもなら神様がどうだとかと、無理矢理にでも話を持っていくライアだが、やはり変だとサールは考える。恐らくは獣に襲われたのが相当ショックだったのだろう。こんな時の解決策を、サールは一つしか知らない。
「ちょっと、待っててね」
サールはそう言ってから立ち上がり、宿の部屋から飛び出していった。一人になったライアは、首に掛けたネックレスを握りしめて、神への祈りを捧げる。どうか、身に降り掛かる厄災から友人を、そして自分を守って下さいと切に祈る。
直ぐに部屋へ戻ってきたサールは「じゃーん」と言いながら、手にした酒瓶を掲げた。酒瓶の他にも木で出来たコップが二つと、酒に合いそうな食べ物を持っていた。ライアは祈りを中断して目を輝かせる。サールが「この村で作る麦酒は、王都の量産されてるやつとは一味違うらしいわよ」と言いながら、再びライアの隣に腰を下ろす。
「何が違うのでしょうか?」
「飲まないと解らないわ」
「私は飲めませんよ」
「じゃあ、一生解らないわね」
サールはコップに麦酒を注ぐ。ベッドの上に載せられたコップは、不安定ながらも麦酒を受け止め、中を金色に輝かせる。ライアの目は麦酒よりも輝いており、サールが美味しそうにコップを傾ける姿を前に、大きく喉を鳴らしてみせた。
麦酒を一気に飲み干したサールは、ライアに向かって「なるほどねぇ」とだけ伝えた。ライアは羨ましさを超えて恨めしそうな目を向ける。三白眼の瞳には、サールを怯ませるだけの迫力があった。
「ライアも飲めば良いじゃない」
「お酒を飲むのは罪です」
「じゃあ、無知は罪じゃないかしら?」
ライアの顔が少しだけ綻び、それに釣られてサールも笑顔を見せる。サールが適当な思い付きで言った頓知だったが、ライアは「そ、そうかも、し、しれません」と肯定する。
「じゃあ、とりあえず一杯ね」
サールがコップに麦酒を注ぐ。慎重に注がれた金色の液体は、程よい泡を作りながらコップへ入る。ライアが長い懺悔の言葉を言い終える頃には、麦酒の泡もなくなっていたが、とりあえず二人はコップを持って、改まって乾杯をした。
「神が作り出したとしか思えません」麦酒を一口飲んだだけでライアの顔は赤くなる。「この素晴らしい液体は、神が人間に下賜して下さった物であり、それ故に罪なので御座いましょう。私は神に尽くす敬虔な信徒として、敢えて神業を体感しております。それが神のご意向に背いた、罪深き行いで……」
いつも通りのライアを見たサールは、安心して麦酒を楽しむ事が出来た。酔うと面倒になる人間は、酔わないともっと面倒なものだ。面倒な人間に限って酒を好むのであって、酒を好むから面倒なのではないと、サールはライアの言葉を聞き流しながら思う。
「サールさん、もう一杯、頂けますか?」
「神様は何て?」
「待って下さいね」
ライアは自身のネックレスを持って、目を閉じて口をもごもごと動かす。罰当たりな程に赤くなった顔で、ライアは「旅を楽しめ」とだけ言った。酒の許しが出たのかは判然としないが、サールはライアのコップに麦酒を注いであげた。
ライアとサールがつまみも食べながら楽しんでいると、ノックも無しに部屋の扉が開かれた。ミアが汗を拭きながら部屋に入ってきて、機嫌良さそうに扉を乱暴に閉めた。
「なんだよ、お前ら」ミアは服を脱ぎながら言う。「えらく良い物を飲んでるじゃねーか。俺も混ぜてくれよ」
下着姿になったミアは、二人が座っているベッドへ向かい、サールを真ん中にして横並びで座る。ミアの剥き出しになった腹部には、はっきりとした腹筋が付いており、尾を引きそうな傷跡で全身が覆い尽くされている。ミアには女性特有の柔らかさが無い。
「コップは?」
サールの問いかけに対して、ミアは「いらねぇ」と返事して、麦酒が入った瓶に直接口に付ける。品のない行動に対してライアは咎めたが、ミアは気にする事なく麦酒を飲み干した。そして、その無配慮に対してサールは文句を言う。
「ミアさん、神は品性の欠如を嫌います」
「ミア、どうして私の分まで飲んじゃうのよ」
「もっと麦酒をくれたら、ちゃんと今飲んだ分を返すさ。口からな」
ミアは再びライアとサールから文句を言われる。品性と配慮について聞かされたミアは、近くに食べ物がある事に気付く。これも一気に全部食べてしまおうかと思ったが、念の為にミアは「これは、何だ?」と尋ねる。
「それは、フィロトロですよ。ミアさん」
ライアが自慢げに答える。サールが酒と一緒に持ってきた食べ物で、ライアもさっき知ったばかりの食べ物だ。緑色で丸く苔のような見た目の食べ物は、一部の人だけが好む酒のつまみだ。
「さっき、街の人に勧められて買ったのよ。私がね」
サールは「私がね」という箇所を強調して言う。ミアは四つあるフィロトロの一つを手にして、鼻を鳴らしながら匂いを確認する。早朝に森林浴をした時のような匂いだ。
「これ、何で出来てるんだ?」
「なんか、なんとかっていう葉っぱを、何かしてどうにかして、どうのこうので作ったみたいよ。街の人に騙されたわよ」
サールは否定的な顔を浮かべているが、ライアは「美味しかったですよ」と肯定的な意見を述べた。食に関してはサールの方が信用出来るだろうとミアは判断する。ライアならその辺の木を齧っても、神とやらに感謝して美味しいと言う筈だ。
「どんな味だ?」
「自然、豊かな味です。まさに、この風味は神が……」
語り出すライアを牽制するように、ミアは「サールに聞いてる」と言って話を遮る。
「葉っぱだと思ったら美味しいわよ。食べ物と思ったら、あれだけど」
ミアは手にしたフィロトロを口に投げ込む。不味かったら吐き出そうと思っていたが、そこそこ美味しいと感じたミアは、咀嚼しながら何度か顔を縦に振る。
「どうかしら?」
「悪くない」
「そうですよね。やっぱしサールさんが変なのですよ」
「変な人達が好む、変な料理という結論ね」
もっと麦酒が必要だと思ったミアは、脱ぎ捨てた服を再び着て街に出る事にした。ミアが何も言わなくても、何処へ行くのかサールとライアには解る。
「麦酒を買ったら、寄り道せずに早く帰ってきて下さい。神は見ていますよ」
「あと、何かまともな食べ物も買ってきて頂戴」
「いつものではく、この村で作っている麦酒ですからね、ミアさん。ケチは罪です」
「魚より肉がいいわ。まぁ、念の為に魚もお願い」
要求ついでに我儘を言う二人を背にして、今日は飲もうと意気込むミアだったが、昨日と同じような状況に辟易もしていた。友人と過ごしていれば、ついつい毎日飲んでしまう。それでも、今が楽しくて笑みが溢れてしまう。ミアは「すぐ戻る」と言い残して部屋を後にした。
のがまこ、で、おまぁ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
あけおめぇ〜
ことよろぉ〜
です!!
じっぷん くらい早いですが、先に言っておきます!!
初詣へ行かれる方は、お気をつけてぇ〜☺︎




