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カリテスの恋路  作者: 野神 真琴
ロネパニア帝国 遠征編
10/28

2-4 猛獣アグリオムダスの王

 アグリオムダスは群れをなす狡猾な猛獣だ。キングレベルの個体ならば、周りに二十匹以上は従えているだろう。素手では有効打を与えづらく、戦って勝つ事は難しいだろうし、数が多ければ逃げる事も難しい。ミアは自分だけなら生きて逃げる事は容易だが、サールとライア、ついでに馭者も助けるとなると不可能だ。それに、ミアにとって自分だけが生き残る選択肢はない。


 アグリオムダスは沸騰しすぎた水のような唸り声を出しながら、こちらを値踏みするかのように、ゆっくりと確実に近付いてくる。一気に攻めて来るのではなく、相手の出方を伺う賢さこそが、このアグリオムダスをキングにしているのだ。


 ミアは自身達がアグリオムダスに囲まれている事を悟った。解る範囲でもサールの後ろにある木に三匹、ライアの側面にある大木に一匹、馭者の後ろに二匹は居る。


 ライアは心の中で神様への助けを乞い、馭者は自分だけでも直ぐに馬へ跨る準備をしている。サールはアグリオムダスの事を知っていたので、キングレベル個体でもミアなら勝てると高を括っているが、それは猛獣が一体だけだと勘違いしているからだ。


 サールの後ろに一匹いるアグリオムダスが、飛びかかった瞬間にミアは手にしている石の一つを全力で投げた。サールの横を掠めた矢よりも早い石は、いつの間にか彼女の後ろにいたアグリオムダスの脳天を撃ち抜いている。


 ミアは続けて石を四つ投げた。サールの後ろに二発と馭者とライアの方に一発ずつだ。投石程度でアグリオムダスを倒せる訳でもないので、牽制と威嚇程度の攻撃だ。もう時間はないとミアは悟る。


「ぁああああああああ」


 ミアは投石の後、叫びながらアグリオムダスのキングに襲いかかった。アグリオムダスは馬鹿な猛獣ではない。こちらに勝てないと悟れば逃げて行くはずだ。キングを見せしめとして容易に殺せば、他のアグリオムダスは逃げて行くかもしれない。アグリオムダスの賢さを利用するしかないとミアは踏んだのだ。


 ミアの攻撃に合わせてアグリオムダスは口を開ける。ミアなら回避をした上で攻撃に転じる事も出来るが、必要なのは獣でも解るくらいに圧倒的な勝利、そして可視化できる狂気じみた恐怖を植え付けなければならない。


 ミアは左腕を犠牲にしてアグリオムダスの一番大きな上牙に刺して、代わりに右目を自身の口で抉るように噛み付いた。剣に気を込めるのは得意なミアだが、格闘家ではないので拳に気を入れるのは苦手だ。針金のように硬い毛で覆われたアグリオムダスの巨体を、拳で攻撃しても余り効かない気がしたので、ミアは目を狙って噛み付いたのだ。


 ミアは目玉に噛み付きながらも、空いている右手拳を握り、出来る限りの気を込めて、全力でアグリオムダスの牙を殴る。自身の左腕に刺さっている牙の付け根だ。予想通りというよりは期待や希望通りに、アグリオムダスの歯は根本から折れて、ミアは飲み込まれずに済んだ。


「グォオオオン」


 アグリオムダスが唸りながら怯んだ隙に、ミアは一歩だけ下がって自身の腕に刺さった牙を抜き取った。刺さった方向とは逆の方向に、腕を貫通させるように抜く事で、牙の返しがついた形状を避ける。


 アグリオムダスの牙とキングとしての威厳をへし折ったミアは、そのまま流れを掴む為に行動を起こす。手にしている牙をアグリオムダスの喉元に突き刺し、ミアはそれを引き抜こうと試みたが、返しと流れ出る血のせいで手が滑ってしまう。


牙を武器として使う事は出来ず、ミアは暴れるアグリオムダスによって吹き飛ばされる。アグリオムダスは喉に自身の牙が刺さったままだが、まだ絶命するには至らないらしく、獲物を前にした捕食者の態度を崩さない。


 ミアは運よくサールとライアの近くに転がってきているが、運悪く次の手が思い付かない。皆で死ねるという運の良さは、皆が死ぬのだという運の悪さには勝らないのだ。


 アグリオムダスに恐怖を与える事は出来たはずだ。それでも、何故か怯まないアグリオムダスに、ミアは違和感を覚えるが、所詮は自分の勘なのだと納得する。ミアは全てが甘かったのだと、心の中で自分を罵倒する。


「みんな、ごめん……」


 ミアは呟く。今まで何人も仲間が死んだが、それは全て冒険者だった。覚悟をしている仲間が死ぬのと、覚悟をしていない親友が死ぬのとでは、ミアの中では意味が変わってくる。ミアはサールとライアの顔を見る事が出来ない。もしも、二人が非難めいた表情を浮かべていては、いくら普段から死を覚悟しているミアでも死にきれない。


 獣は臆病な生き物だとミアは知っている。きっと、アグリオムダスは勝てると勘違いしているから、こうして今も皆を狙っているのだが、キング個体と対峙したミアは、素手でも勝てる自信がある。しかし、この数のアグリオムダスを相手にして、サールとライアを守るのは不可能だ。


「守れない」


 ミアは自分に言い聞かせるように言葉を放つ。しっかりと牙を握っていればだとか、一撃で仕留める為に刺さなければだとか、ナイフのように切って手数を増やしていればだとか、もっと上手く立ち回れば全員を救う事が出来た筈だと、ミアは自責の念に苛まれる。


「選べない」


 ミアはそう呟く。さっきと同じように、無力な自身に言い聞かせる為の言葉だ。誰か一人ぐらいならば、担いで逃げる事も出来るかもしれないが、サールかライアを選ぶ事なんて、ミアには出来なかったのだ。選択肢を放棄したミアには、既に戦う気力すらも残っていなかった。


「ミアさん……」


 ライアは自分が死ぬ実感が湧かないままだ。自分が死ぬことよりも、目の前にいる怪我をしたミアが心配だった。未だ経験した事のない死よりも、身近な血の方に目が向けられるのは、ある種の現実逃避なのかもしれない。


「楽しかった」


 サールはそう言いながら、ミアとライアを抱き寄せる。最後の循環を愛する人と一緒でなくとも、親友が二人も居れば充分だ。今まで集めたお気に入りの服もあるし、きっと天国ではいい男を落とせる筈だと、サールは自分でも変だと思うような事を考える。


 ミアは後悔で顔を歪ませながら目を閉じ、ライアはいつもの微笑を浮かべながら名前も知らない獣を見やり、サールは親友達を抱きながら来世に期待する。


 三人を取り囲むように三頭のアグリオムダスが近付いてきて、適切な間合いに到達すると、我先にと口を大きく開けて襲い掛かる。最初に飛び出したアグリオムダスの牙が、ミアを一思いに貫こうとした瞬間、木々の間から木こりが使うような簡素な斧が飛んでくる。


 回転しながら飛んできた斧は、アグリオムダスの頭を切断し、もう一頭の腹を切り裂いても勢いは衰えず、奥の大木に突き刺さる。切断されたアグリオムダスの頭がミアにぶつかる。


 何かがぶつかる鈍い痛みに薄目を開けるミアは、自分にぶつかったそれがアグリオムダスの頭部と信じられなかったが、理解したと同時にサールの腕を振り解いて動き出した。

野神真琴です☺︎


風邪ひきました……

しんどい、なう、です☺︎

atamaitai

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