1-1 ミアという友人【プロローグ(私達カリテスの悩み)】
ルブール王国の王都にある冒険者ギルドには、飲食が出来る店が併設されており、昼夜問わずに人が賑わっている。冒険者だけではなく、ただの酔っ払いもいるが、その大半は酔っ払いの冒険者だ。
件の冒険者ギルドはラミーと呼ばれており、日が沈みきっていない今も、大量の飲んだくれで賑わっている。
ギルドの受付から酒場へ通ずるカウンタードアを、足で押し上げて入ってきたのは、世界的にも名高い女性冒険者のミアだ。
ミアはいつも通りの格好をしているが、それが武装なのは冒険者という仕事に就く人間だからではなく、普段着という物を所有していないのだ。緑色のインナーの上には、慎ましい胸のサイズに合わせて特注で作らせた、傷だらけの鎧を身に纏い、鞣された皮で作られたハイブーツは泥で汚れている。ミアは強さを誇示する為に派手な格好をするタイプではなく、機能性に特化した装いを好む冒険者なのだ。
「痛いです!」ミアに両手で担がれている女性が叫ぶ。「離して下さい。 盾と剣が当たって痛いので、降ろして下さい。これは誘拐ですよ。こんな事をすれば、貴女に天罰が下ります。わが主は見ています」
叫んでいる女性はルブール王国の中でも、特に危険視されている宗教の修道女で、ミアからはライア呼ばれている。ライアは真っ白な修道着を着ており、全く装飾のない服は、遠目で見ればベッドシーツをそのまま被っているかのようだ。首には宗派の紋章を象った六面体のネックレスが掛けられており、それが重力に従って左右に揺れる。
ミアはライアを荷袋のように両手で支えながら自分の肩に乗せており、その異様な姿は酒場の客から注目を浴びた。
担がれているライアはミアの背中を叩いていたが、非力な自分では凄腕の冒険者を止められる筈もないと悟る。ライアは首元に下げられたネックレスを両手で掴み、大きな声で「主よ」と叫ぶ。これこそがライアのできる最大の抵抗だ。
「彼女の愚行をお許し下さい。ミアさんの行う悪事を、どうかお許し下さい。願わくは、彼女に降り掛かるであろう天罰が、どうか慈悲深いものでありますよう。ミアさんはわたくしの友人です。主に仕える、わたくしの友人であろうとも、彼女の許し難い蛮行に罰が下るのは必然でありましょう。しかし、どうか、その罰が少しでも……」
何かを唱えるライアに対して、ミアは「うるさいぞっ!」と怒鳴りながらも、止まる事なく酒場の中央へ向かって歩いていく。物珍しそうに彼女達を見る者も居れば、見慣れた光景だと気に留めない者もいる。
「いくら男に相手されないからって、シスターを襲っちゃいけねぇ」
酒で顔を赤くした男の冒険者が、彼女達とすれ違いざまに軽口を叩いた。普段なら軽い冗談を無視するミアだが、今日の彼女は虫の居所が悪かった。もしくは、悪かったのは酔っ払い冒険者の運かもしれない。
ミアは踵を返して酔っ払い冒険者の元へと向かい、ライアを担いだままハイキックをかました。うまくガードをした男の冒険者だが、蹴りの勢いに耐える事はできず、椅子やテーブルを巻き込みながら後ろに吹っ飛ぶ。重厚な金属鎧を着用している大柄な冒険者を、腰の入っていない蹴りで吹っ飛ばした事に、ミアを知らない数少ない冒険者が脱帽する。
「おい、ミア、テメェ」
喋りながら立ち上がった男の冒険者は、ミアの目を見て赤かった顔を青くさせる。彼女の目は本気だ。同業者を相手取る時の目ではなく、獲物や敵を相手取る時の眼光だ。
「冗談だよ」酔っ払いの冒険者はヘラヘラしながら言う。「俺が悪かった。一杯奢るから許してくれ」
吹っ飛んだことによって距離が空いた酔っ払い冒険者に対して、ミアは一歩近付きながら「一杯?」と尋ねた。酔っ払い冒険者は防衛本能からくる笑みを強くさせる。
「いっぱいだ」
「こいつのと、後からくるサールの分もだ」
「勿論、ライアとサール、それとミアの三人分だ」
担がれたままのライアが「わたくしは飲みません」と言ったが、二人は聞こえていないかのように無視をした。
「メシは?」
「好きな物を好きなだけ」
「言ったぞ、三人全員分だからな」
ミアは大きな声で「俺達、三人分の飲み食いを奢れよ」と改めて言った。ここにいる人達を証人にする為だ。これだけ周りから注目されていれば、男の冒険者も言い逃れは難しいだろう。
「ぁあ、だけど、あまり食べすぎないようにな」
「は?」
「違う違う」冒険者の酔いは既に醒めている。「ほら、前にサールが言っていたんだよ。痩せたいってな。サールの事を思っての発言だ」
ミアは舌打ちをしてから、何も言わずに背を向けて、ライアを担いだまま酒場の中央へと歩き出す。喧嘩を売られたくない冒険者や、臆した酔っ払いの群れが、ミアの進路方向を開けたので、中央にあるテーブルまで一本の道が出来た。
男の冒険者はミアの背中に向かって「どういたしまして」と皮肉気に声を上げた。彼なりのささやかな反抗だ。約束を踏み倒す方法を考えながら、冒険者は自身の痛む腕を摩る。
蹴られた上に恥までかかされた冒険者の元に仲間が駆け寄り、笑いを堪えながらも「大丈夫か?」と問い掛けた。
「大丈夫な訳ないだろ。ミアの奴め、覚えていやがれ。あいつのせいで今日の稼ぎがパーだ」
「今日だけなら運がいい方だな。まぁ、ライアちゃんはいいとしても、あの様子じゃあ今夜のミアは沢山飲むだろうし、大食いサールの飯までご馳走するなんて、今週はラミーでのツケを払う為にタダ働きになるぞ」
「クソッ」男の冒険者は自分の太腿を叩く。「仕方ないだろ。反抗したら治療費の方が高くつくし、今のあいつなら、俺に治らないような傷を負わせかねない。あのクソアマの頭と同様に重症になっちまう」
冒険者の仲間は溜息を吐いてから、声を落として「死んだら文句も言えねぇぞ」と返す。
ミアの地獄耳は彼らの会話を拾っていたが、わざわざ戻って、相手の大事な箇所を切り落とすのは面倒だったので、聞かなかった事にして真ん中にあるテーブルへ向かった。
NOGAMIです☺︎
とりあえず、最新話を書けたら更新します!
一日、二回とか更新するかもです( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
十万字書くまでは止まりません……
プロバブリー




