66 家族として ーChapter エリオス
夜になり、晩餐の席には父セリオルドと母エリザベルナが揃っていた。
かしこまった席ではなく、家族だけの食卓だ。侍従たちも最小限で、気兼ねなく話ができる場を整えてくれていた。
「辺境要地の様子はどうだ? エリオス」
セリオルドが杯を傾けながら言った。
「はい。安定しております。今年になって新しく開いた貿易路が順調です」
「そうか。暮らしの方はどうだ」
「充実しております。港の整備も進み、商人たちとの交渉も滞りなく進めております」
「それは何よりだ」
食事が進む中、エリザベルナが口を開いた。
「エリオス。セレイナさんのこと、聞かせてもらえる?」
「はい。先ほど、エルグレン伯爵家にセレイナを送り届けてまいりました」
「伯爵家の様子はどうだった?」
「娘との再会に、伯爵夫人は泣いておられました。伯爵も、感情を堪えるのがやっとという様子で」
エリザベルナが小さく息をついた。
「そう……。ご家族も、ずっと心配されていたでしょうね」
「はい。事情を説明し、王家としての非礼を詫びてまいりました」
「……責は儂にある。エリオス、世話をかけたな」
セリオルドの声は低く、重かった。
「側妃として迎え入れたのは儂の判断だ。そして、あのような事態を招いたのも、儂の監督不行き届きによるもの」
「……」
「お前には、負担を掛ける……が、セレイナ嬢も、息災なようで安心した」
「俺も、王家の一員ですから。……皆、家族です」
エリオスの静かな言葉に、セリオルドとエリザベルナが小さく頷き、そして目元の皺を微かに深くした。
「して、セレイナ嬢は今どうしている」
「二日ほど、伯爵家で過ごしてもらうことにしました。侍医のガレーニャも残しております。久しぶりの再会ですから、家族だけの時間が必要でしょう」
「そうだな。それがいい」
セリオルドが返答の言葉を落とすと、エリザベルナが身を乗り出した。
「エリオス。セレイナさんとの面会のこと、改めて確認させてもらえる?」
「はい」
「大聖堂の手配は整えてあるわ。わたくしの方からの同席は、侍女長にお願いするつもりよ」
「わかりました」
「それと、余り長く面会しても、ご負担になるでしょうから。半刻ほどを予定しているのだけれど、それでいいかしら?」
「十分だと思います。二日後、伯爵家にセレイナを迎えに行きます。そのまま大聖堂へ向かう形で」
「ええ、そうしてちょうだい。手間をかけるわね」
エリザベルナはそう言った後、小さな息を吐いた。セリオルドがそれに気づき、妻を見た。
「エリザベルナ。もしかして、緊張しているのか?」
「……正直に言えば……ええ、そうね。セレイナさんに、何と言えばいいのか。どんな顔をしてお会いすればいいのか。考えれば考えるほど、わからなくなってしまって」
「気負いすぎるな。セレイナ嬢も、それを望んではいまい」
「勿論。わかっているわ」
そんな母・エリザベルナを見ていたエリオスが口を開いた。口調も普段の畏まったものではなく、息子として過ごすときのように、砕けたものでエリザベルナに語り掛けた。
「セレイナは、母上と同じで真っ直ぐな女性だ。ただ、母上と違うところは、腹が黒くなく清廉すぎるほどに純粋な面もある。だから何も心配いらない。きっと彼女も、母上の気持ちを受け入れてくれる」
エリザベルナがエリオスの言葉に、目を見開く。ただ、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「エリオス。あなた、母のことをそんな風に思っていたの?」
「俺は冗談は言いません」
「まあ……」
エリザベルナは呆れたように息をついた。
「セリオルド、聞いた? この子、母親に向かって腹が黒いですって」
「ああ、聞いた」
セリオルドは静かに葡萄酒を傾け、彼もまた口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「エリオス、お前も誰に似たんだかな」
「母上でしょうね」
「お前も腹が黒い、ということか」
「どうでしょうね」
エリザベルナが二人を交互に見た。
「あなたたち、随分と息が合っていらっしゃること」
「何のことだ」
「さあ」
セリオルドは涼しい顔で杯を空け、エリオスは肩を竦めた。
先ほどまでは、凛とした王后の顔の奥に、一人の女性としての不安が滲んでいた。それが今は、少しだけ和らいでいる。
久しぶりの、穏やかな家族の時間だった。
☆
晩餐も終わり、私室に戻ったエリオスは、王都に来たらやるべき事務処理の書類に目を通しつつ、開いた窓の外にふと視線をやる。
見上げた空には下弦の月が浮いていた。
その月の上には星が二つ。
幼い頃、兄と見た星の位置にそっくりであった。
笑みの空。それが頭に過ぎり、ふと口元が緩んだ。
エリオス回が再会→喜ぶという、同じ展開の連続っぽくなってしまいました。
なのでまるっと、端折っての投稿になってしまいまして、申し訳ありません><




