44 処罰 ーChapter リージェリア
翌日の朝。
セラフィムの命により、居城内の小会議室が、公的な尋問の場として整えられた
王と王后の補佐官が同席し、王太子妃リージェリアもまた、公的な立場として席に着いた。彼女の心臓は締め付けられ続けていたが、王太子妃としての体面を保ち、聞き取りの開始を待つ。
呼び出されたのは、ナルヴァ国から連れてきた王太子妃付きの四人の侍女と官女。唯一彼女たちはまだ、聞き取り調査を行われていなかった。
聞き取りが始まる。
侍女たちは、王室の補佐官からの厳しい聞き取りに対し、抵抗の意思を失ったように、すべてを認めていった。
「ではあなたたちは、王太子妃殿下を思い計り、元側妃セレイナ殿下への食事を最低限に制限し、また与えないことがあったと、そういうことか?」
「はい……」
「元側妃殿下への支給品である金銭や品物を、私的に流用したこともあると?」
「はい……」
「側妃印や署名、そういったものはどうした?」
「署名は……側妃殿下の書類を上からなぞりました。印は……側妃殿下の執務机にあったものを使い……ですが! 全て私たちがやったことではございません。私たちは」
そこまで侍女が言ったところで、黙って聞き取りを見ていたセラフィムが片手を挙げた。
「わかっている。今はお前たちが何をしたのかを問うておる」
横領、虐待、事実が積み重ねられ、セラフィムの表情は硬く、怒りに凍りついていく。
「セラフィム殿下。これらの行為は、王室の威信を著しく傷つけるものであり、王族の配偶者に対する非人道的な虐待、および重大な横領罪に該当します」
補佐官の報告を受け、セラフィムは地を這うような声で口を開いた。
「この王城において、王族の配偶者へ非人道的な虐待を加えることは、反逆罪と同等に扱われることを心得よ。お前たちが犯した罪は、極刑に値する」
セラフィムの言葉が広間に響き渡る。侍女たちは、その場でへたり込み、嗚咽を漏らした。リージェリアは、彼女たちの罪が極刑という、王室の法では当然の報いであることを理解していた。だからこそ、動かねばならない。極刑は、彼女たちの口を確実に軽くしてしまう。
リージェリアは震える手で席を立ち、身を乗り出すように進むと、セラフィムの前に立ちはだかった。
「待ってください! セラフィム、お待ちになって!」
彼女の声は上擦り、優雅さの欠片もなかったが、その論理は冷静だった。
「彼女たちを、このウィンター国の法で極刑に処するのは、あまりにも性急ではありませんか。彼女たちは私の母国、ナルヴァ国の臣民です。一国の臣民を、外交的協議を経ずに極刑に処することは、新たな外交問題を引き起こしかねません。王室の恥を国外に晒すだけでなく、隣国との関係に決定的な亀裂を生じさせる可能性があります」
リージェリアの主張は『極刑は外交リスクになる』という論理に基づいていた。
「せめて国外追放にして、母国に罰を委ねるべきです。ナルヴァ国の王室は、しかるべき報いを与えるでしょう。この件を外交ルートに乗せ、王室の体面を保ちながら幕引きを図るべきです」
リージェリアは、侍女たちが極刑を逃れるため、その瞳に強い意志を込めて視線を送った。助けるとも、許すとも言わない。ただ、その沈黙が示す方向はひとつだった。
極刑を免れ生き延びるには、何も言わないしかない。
侍女たちは涙に濡れた顔を上げ、互いに短く視線を交わした。次の瞬間、誰からともなく小さく首を縦に振る。何も言わないという意志だけが、はっきりとそこにあった。
それは、リージェリアの意図を理解した者の動き。告げ口をすれば終わる。沈黙を守れば帰国できる。侍女たち四人の心は、一瞬で固まった。
王太子妃の冷静な主張は、補佐官たちを動かした。王室の体面と外交リスクを考慮すれば、極刑は避けたほうがよい。
王と王后の補佐官は、この件を極秘裏に王へ上申することにした。王の裁定は、リージェリアの主張通り、外交ルートを通じた国外追放となるだろう。
こうして、虐待の実行犯である侍女と官女四名は、極刑を免れる代わりに、厳重な罰則と監視の下、ナルヴァ国へ送還されることが決定された。
これで誰の口からも『薬』について漏れることはない。リージェリアは、内心で心から安堵した。もしあの薬のことが明るみに出れば、無傷ではいられないことは明白だ。
たかが側妃ひとりのことで、事がこんなに大きくなるとは思っていなかったリージェリアは、ひとつ失念をしていた。側妃も王族であるということを。
表向き、リージェリアが処罰されることはなかった。
ただ、王太子妃としての管理が行き届いていなかったと判断され、王后が自ら侍女を派遣した。しばらくの間、その侍女たちがリージェリアに付き従い、執務にも戻るよう厳しく言及された。それは罰ではなく、王太子妃としての体制を整えるための措置だった。
王后の侍女たちは、王太子妃によく尽くしてくれた。が、どうしても彼女たちに見張られている気がしたリージェリアは、自国から連れてきた侍女たちのようには、接することはもう、できなかった。
それでも。今は静かにただ、時間を流れることを待つしかない。この嵐が過ぎればまた、母国から人を送ってもらうようセラフィムに言おう。そう思った。




