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6話:5月17日 青き瞳の敬意(前編)

メガネ女子は?行方不明になりました。

土曜日の朝。


予備校は休みで、俺とネオンは、兄弟ふたりで穏やかな時間を過ごしていた。

ネオンの火傷は、俺が治癒魔術で完全に治してある。

昨日、彼は二世の少女をかばい、中途半端な防御魔法で傷を負った。

その悔しさからか、今日は異様なほど真剣で、無詠唱防御魔法の応用を教えると即座に吸収していた。

教える俺より上達が早いんじゃないかと思うほどだ。


兄として、少しは焦る。だけど、それ以上に——誇らしかった。

・・・・・・まあ、俺的には、それでいい。


____________________


朝食を食べ終えたちょうどその時だった。

弟の胸元のペンダントが、ふっと淡く点滅した。


「なにこれ?何かの異常?爆発しない?」


念音はまだ魔石の通信について学んでいないのか、難解な顔をしている。

俺が


「ポケベルのメッセージみたいなものだよ」


と伝えると、さらに困惑した顔をしたが、何かのメッセージが来ていることだけは理解したようだ。

俺は内容を見て把握し、念音に尋ねる。


「『ネオン様の世話係です。お話したいのですが、よろしいですか?』だってさ」


弟の承諾を得て、魔石を手に取り通信を始めた。

魔石を経由した会話は、絶妙な魔力コントロールが必要で、簡単じゃない。

転生者でも受信はできても送信が苦手な奴がいるくらいだ。

それなりにやるな、あのメガネ女子。

毎回ビビらせていたから、こんなにできる奴とは想像していなかった。


もしかしたら弟の嫁候補でも良かったかもしれない。

ちなみに、この世界では強制ではないが、転生者の二世を増やすため、**最低3人の妻を持ち、子を成す義務**が推奨されている。

だから俺は、最初の一人に良いかもと考えていると、声が美しく丁寧で綺麗で癒される。

落ち着いて話すとこんな感じなのか。

悪くない。

ますます気に入ったと思っていたら、会話が終了していた。


ネオンが俺にどんな話の内容だったかを聞いてきたので説明する。

魔石による会話は、いわゆる念話だ。弟には聞こえないので当然のことだ。


「えっと……三つだな」


- 昨日のことは上からの命令で情報が閉鎖されたから、大事になることはない。安心してほしい、だってさ。

- 被害者の二世の女性が、お礼を言いたいから、昼過ぎに伺っても問題ないかの確認。その際、二世の女性には俺が勇者であることは言っていないから安心してくれって。ただし、その時は俺の顔を幻影魔法で変えてほしいと要望があったな。

- 今後は部署として、より一層の覚悟を知ってもらうため、なるべく早い段階で直接会って説明したいので、時間を取らせてほしい、だそうだ。


「まあ、こんな感じだ」


俺がそう伝えると、ネオンは


「兄さん、なんでも許されると思って調子に乗らないでくださいね」


と、釘を刺してきた。


____________________


昼過ぎ。

金髪のロングヘアで、清楚で控えめな、

俺好みの女性が来て丁寧に挨拶をした。

どこかで見たが覚えていない。

まっ、いっか。

その女性の後ろには、青い髪をショートに整えた少女。

制服姿で姿勢正しく立ち、紺碧の瞳がまっすぐ俺を見ている。

どこか気品を感じさせる佇まいだ。

だが、俺が幻影魔法を使っているように、彼女もまた幻影魔法を使っているのか?


少女の首のチョーカーから魔力がわずかに出力され、顔の造形に変更を加えていた。

何か訳アリなのか、この子?


____________________


その後に、メガネ女子がいないことに気が付いた。


「あれ?メガネ女子は?」


俺が尋ねると、金髪ロングの清楚で控えめな彼女が答えた。


「彼女は行方不明です。私たちの不備で、転生者ご兄弟にはご心配をおかけし、申し訳ございません」


彼女は深々と頭を下げる。


「新しい世話係は私が引き継ぎますので、力及ばないこともあると思いますが、全力でお世話させていただきますので、よろしくお願いします」

言葉は丁寧だが、その声には強い意志が宿っている。


「ただ正直申しますと、世話係は初めてで、至らぬ点も失礼もあると思います。その時は、遠慮なくご意見いただきたく思います。

私にとってはそれは糧であり学びですので、何卒宜しくお願い致します」


そう言いながら、彼女は俺の視線に正対して、まったく動じない。

この町で百戦錬磨の転生者と対等に話せる受付嬢が、何人いるだろうか。


なにこの人レベル高。

この謙虚な態度、先ほどの念話レベルといい、世話係がもったいない。

町の象徴レベルだろ……。

と思った時に、昨日受付にいた彼女だと気づいた!


「あ、昨日の受付嬢さん」


「あ、はい」


金髪ロングの彼女は、俺に認知されていたことに喜び、一瞬微笑んだと思うと、精神を安定させる魔術詠唱を唱え、再び安定した微笑みスタイルに戻った。新しい世話係の人は、正直ネオンにはもったいないぐらいに色々優秀で真摯だ。

自らを戒め仕事を貫く態度が素晴らしい。


それとネオンたち転生者は、

安全のため裏口から出入りする決まりになっていた。

彼女とも、それで今日が初対面らしい。


つまり、正面玄関ホールの俺の肖像も記録も――ネオンは一切見たことがなかったのだ。


……あの日、俺をただの兄としか見なかった理由、ようやく腑に落ちた。

後編に続きます。

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