第1話 人生はゲームのようなもの、難易度は異世界モード
夏の日差しが雨上がりの雲を突き抜け、緑豊かな森に降り注ぐ。空気には湿った草の香りが漂い、葉にはまだ雨粒が残っていた。高校生くらいに見える四人の少年たちは森の中を歩きながら、道を塞ぐ枝葉を切り払いながら進んでいた。
先頭を歩くのは、小柄な少年だった。ふわふわとした巻き毛は汗で額に張り付き、太陽の光が照りつける中、彼は目を細めて不満そうに呟く。
「なんでこんな時に森まで来て生命の結晶を探さなきゃならないんだよ?……っていうかさ、そもそも生命の結晶って何なんだよ?」
その言葉を聞いて、近くの茂みをかき分けていた華奢な少年が動きを止めた。前髪が長く、目がほとんど隠れるほどだった。彼は軽く前髪をかき上げながら、優しくなだめるように言った。
「陽君、もう少し我慢しようよ。この仕事は大変だけど、先生が特別に僕たちに頼んだんだから、きっと意味があるはずだよ。僕たちがこの世界に来て、初めて任された大事な仕事だから、頑張って最後までやり遂げよう?」
陽はぷっと吹き出し、振り返ってからかうように言った。
「悠太、なんだよそれ、説教臭いな~。まるで人生相談じゃん!」
そう言いながら彼は悠太の背中を「パシッ」と叩いた。「しょうがないよな、俺たち最高だし!」と笑顔で付け加えると、すぐに先生の話を思い出したように首を傾げた。
「そういや、先生って紫心ベリーの木に生命の結晶ができるって言ってたっけ?」
その時、眼鏡をかけた背の高い少年が手元のノートをパラパラとめくっていた。髪は後ろへと整えられ、知的な雰囲気を醸し出している。彼は陽の疑問を聞くなり、即座に口を挟んだ。
「陽、授業中ちゃんと聞いてなかったのか?それとも、論理的思考がオーガにでも食われたか?木が結晶を生やすわけないだろ?ちゃんと確認しろよ!」
そう言いながら、手にしていたノートを陽の目の前で広げ、ほとんど鼻先に押し付けんばかりに見せた。
「紫心ベリーの 根元の土壌 だよ!そこで見つかることが多いんだ。エネルギー結晶になりやすくて、形はこんな感じ――六角形で淡い青色の半透明の石、な?」
陽は目をぱちくりさせ、ニッと笑うとノートを受け取って興味深そうに覗き込んだ。
「はははっ!ここって異世界だし、なんでもアリじゃない?どんな不思議なことが起こっても驚かないぞ!」
そう言いながら、ノートの細かい書き込みをじっくり読んで目を輝かせた。
「うおっ、慧のノート、めちゃくちゃ見やすいじゃん!」
「見つけた!」
突然、無口な少年の声が響いた。彼は余計な言葉を発することなく、淡々とした表情のままだったが、細長い目がほんのわずかに喜びを帯びて輝いていた。
「マジで!?海斗兄さん、さすがすぎる!ちょっと俺にも見せて!」
陽は興奮した様子で、慧にノートを返し、すぐさま海斗の元へ駆け寄った。慧はため息をつきながら、静かにノートを閉じて彼らの後を追った。
海斗は手に持っていた結晶をみんなに見せた。彼の声は簡潔で、まるで当たり前のことのように言った。「マジだ。」
それは慧のノートに描かれていた通り、淡い青の六角形の透明な結晶だった。内部にはかすかに光が流れ込むように揺らめいている。
全員が石を囲み、驚きと興奮の混じった表情で、それをじっと見つめた。
「海斗は相変わらず言葉少なすぎ。」慧は微笑しながら言った。「もうちょっと誇ってもいいんじゃない?」
そう言いながら、すぐに問いを投げかける。
「で、俺たちコンビの推測は当たってたか?」
海斗は口元をわずかに上げ、慧に一瞥をくれると、また黙々と手を動かしながら答えた。
「そうだ。太陽の角度と湿度の仮説は合っている。ただし、ベリーの成長と結晶化の関係については、もう少し検証が必要だな。」
慧は「やっぱりな」と満足そうにうなずき、陽は「すっげー!」と感嘆の声をあげた。
その時、悠太は突然緊張し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「おい……お前ら、聞こえたか?」
そう言って、空を指さす。
「羽刃カラスの群れが、こっちに向かって飛んでくる。」
陽は飛び跳ね、手に持った短剣を振り回しながら興奮気味に叫んだ。
「へへっ!やったぜ、モンスター狩りの時間だ!」
しかし、悠太は眉をひそめ、冷静に注意を促した。
「油断するなよ。ただの低ランクの魔物とはいえ、数が多いと厄介だ。危険かもしれない。」
慧は立ち上がり、前方を見据えながら自信に満ちた表情で構えた。
「心配ないさ。昨日習った攻撃魔法で十分対応できる。だろ、海斗?」
海斗も構えを取り、短く答えた。
「……ああ。」
彼と慧は肩を並べ、張り詰めた空気の中で、集中して同じ方向を見つめる。二人の構えには、一瞬の隙もない。
そして——最初の羽刃カラスが姿を現した。
カラスたちはすぐに人間たちを見つけ、けたたましく鳴きながら翼を大きく広げた。攻撃の準備をしているのは明らかだった。
黒い羽毛の間に光る真紅の瞳が、鋭い獣の本能を宿している。翼の下には鋭利な銀色の羽刃が隠されており、陽光を受けてギラリと冷たい光を放った。
悠太は二歩後退し、治療用の道具をしっかりと握りしめ、集中を高める。
「ᛁᚷᚾᛁᛋ ᚠᚱᛞᛖᚾᛏᛁᛋ!」
海斗が呪文を詠唱すると、何もなかった空間に赤い光が集まり、瞬く間に火球が形成された。
それは彼の手の動きに応じて飛翔し、一直線に羽刃カラスの群れへと突き進む。
——ドンッ!!
炎に包まれたカラスたちは、断末魔の叫びと共に燃え落ち、黒い羽が空中で舞い散った。
すぐさま第二波の羽刃カラスが襲いかかる。しかし、今度は慧が同じ魔法を放ち、敵を次々と撃ち落とした。
「ちぇっ!お前ら、全部倒しちまったじゃん!」
短剣を振り上げながら、陽は不満そうに頬を膨らませた。
慧は冷静に彼を一瞥し、肩をすくめる。
「数が多いんだから、魔法を使う方が早いだろ。」
「俺の短剣の速さだって負けてないんだぜ!」
陽はそう言うと、目の前の空気に向かって短剣を振り回し、自信満々に技を披露する。
だが、誰も気づいていなかった。
最後の羽刃カラスの群れが、すでに目と鼻の先まで迫っていることに——。
慧は息を呑み、目を見開いた。
唇がかすかに動き、次の呪文を唱えようとした——しかし、言葉を発するよりも早く、魔物の羽刃が鋭く飛来した。
紙一重の差で、それが彼の身体に突き刺さる——!
慧はとっさに杖を持ち上げ、防御の態勢を取るしかなかった。
——ガキィン!!
銀色の羽刃が杖に弾かれ、空中を舞う。
慧は歯を食いしばりながら踏みとどまった。次の一撃を受ける余裕は、もうない——!
「俺に任せろ!」
陽は叫ぶと、魔物に向かって突進した。
短剣を強く握りしめ、集中を極限まで高め、必殺の回転斬りを繰り出そうとした——
だが——魔物の方が一瞬早かった。
鋭い羽刃が飛び出し、目の前を横切った瞬間、陽は思わずビクッと身をすくめた。そのままバランスを崩し、手にしていた短剣が滑り、慧の背中に大穴を開けた。
「うわあああああああ!!!」
陽は悲鳴を上げ、短剣を地面に落とした。
直後、海斗 が魔法の詠唱を終え、残った魔物を一掃した。
陽はその場にへたり込み、涙目でしゃくり上げながら謝った。
「ごめんなさい!ごめんなさい!わざとじゃないんだ……うわあああ!」
慧は淡々と呟く。
「まさか……仲間に殺される日が来るとはな……」
「うぇぇぇぇぇぇ!!!」
陽はその言葉を聞いて、さらに号泣した。
そんな陽の頭を、海斗がポンポンと優しく撫でた。
「バカ陽。ただの服の切れ端だよ。」
陽は涙を拭いながら、驚いた顔で顔を上げた。
「は!? マジで?」
悠太も歩み寄り、静かに頷いた。
「うん。もし慧が本当にケガしてたら、僕がすぐ治療するよ。」
陽は鼻をすすりながら、「じゃあ……なんで……?」と震える声で呟いた。
慧は立ち上がり、ズボンの裾を払ってから、にやりと笑った。
「お前が面白すぎるから、からかっただけだよ。」
「うわぁぁぁぁぁん!!! 俺……俺、本当に……!」
陽は再び号泣し、慧に向かって拳を振り上げ——
「このヤロー!!」
「ぐはっ!? ぐ……今度こそ……マジで死ぬ……」
慧はオーバーに胸を押さえて倒れたフリをした。
海斗は呆れたようにため息をつき、彼らを見下ろす。
「……ミッション完了。帰るぞ。」
そう言って、彼は生命の結晶が入った袋を軽く振り、先に学校の方へ歩き出した。
残った三人は、互いに笑いながらふざけ合い、いつもの調子に戻る。
——この異世界に来て、今日で七日目。
この長編物語の第一話を書き始めるまで、1~2日ほど悩みました。
登場人物が多いため、どうやって物語を始めるか、とても考えました。
まず、最初に決めたのは「異世界転移の場面から書かない」ということ。
いくつかの開幕パターンを考えた結果、「小さなミッション+軽いバトル+ちょっとしたハプニング」 でスタートすることにしました。
これによって、まずは四人のキャラクターの個性をしっかり描くことを優先しました。
また、異世界の設定はとても広いため、一気に説明するのではなく、少しずつ出していくことにしました。
そのため、第一話では背景設定についてはあまり語らず、自然な流れで物語が展開するように意識しています。
この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!