【会話率100%】ポーカーフェイスな彼女はポーカーフェイスな彼氏を笑わせたい
「ねえ、秋広くん」
「ん? なに?」
「ちょっとにらめっこしていいかな?」
「………」
「………」
「……なんで?」
「にらめっこしたくなったから」
「その思考にいたった理由を聞かせてもらおうか、綾香」
「秋広くんってさ、いつもポーカーフェイスじゃない。生まれてから一度も心から笑ったことってないでしょ?」
「ああ。自慢じゃないが、オレは生まれてから一度も心から笑ったことなんてないぞ」
「自慢じゃないと言いながら自慢げに答えるところが秋広くんだよね」
「ふっ、褒めるなよ」
「褒めてないし」
「褒めろよ」
「……今わかった。秋広くんってバカなんだ」
「ため息をつくな、ため息を。一寸の虫にも五分の魂って言葉、知ってるか?」
「知ってるけど……秋広くん、虫ケラなの?」
「んなわけあるか。虫ケラに比べたらまだオレのほうが1ランク上だ」
「虫ケラの1ランク上だと、まだ虫な気がするけど……」
「そうなのか? じゃあ2ランク上だな」
「訂正。秋広くんは虫ケラ以下かもしれない」
「おい。仮にオレが虫ケラ以下だとしたら、そんな男と付き合ってるお前も虫ケラ以下だぜ?」
「私はいいの。可哀そうな虫ケラ以下と付き合ってあげてる優しい天使というレッテルが貼られるから」
「この腹黒女。……で? 何の話してたんだっけ?」
「秋広くんが私ににらめっこで負けて缶コーヒーをおごってくれるって話」
「なんか飛んでるぞ。にらめっこでオレの笑った顔を見たいって話だろ?」
「チッ、覚えてたか」
「チッじゃねえよ、チッじゃ」
「じゃあやろうか」
「その前にひとついいか?」
「なに?」
「よくよく考えたらオレもお前の笑った顔、見たことないわ」
「それは難儀ね」
「難儀だな」
「じゃあ私の勝ちでいい?」
「じゃあってなんだ、じゃあって」
「缶コーヒーおごって」
「嫌に決まってるだろ」
「なんで? 彼氏じゃん」
「こういう時は、なだめ、いさめるのが彼氏の役割というものさ」
「お、良いこと言うね」
「だろ?」
「じゃあ、なぐさめて」
「よしよし。オレはお前のその能面のような顔が好きだぜ!」
「……傷ついた」
「悪い」
「お詫びに缶コーヒーよろしく」
「わかったよ」
「……あ」
「なんだよ」
「私、コーヒー飲めないんだった」
「は?」
「苦いの嫌いなの」
「………」
「紅茶でよろしく」
「はは」
「あ、笑った」