ロストプラネットII(LOST PLANET II)-第六章 戦場前線
ヤグナ救出したの後、俺たちはそのまま協防任務のため前線基地へ向かった。
「こんにちは。防衛署長からの依頼で参りました」
ビタンがいつもの営業スマイルを浮かべて挨拶すると、彼女の前に立つ基地責任者。
胸部にバダック族特有の湿潤器を装着し、露出した肌の随所に鱗が散見される、どう見てもバダック族の男性。彼は、鋭い眼光で通信内容の書類を確認した。
「どうやら本物のようだな。では、通達どおり指定座標へ向かい、その区画の隊長の指示に従え」
男の声には、期待らしい色は一切なかった。続けて、ぶっきらぼうに言葉を足す。
「それから、お前たちの通信プロトコルはすでにそちらへ送ってだ。現地で直接連絡を取れるはずだ」
「了解です。ご協力感謝します」
ビタンは相変わらずの営業用スマイルで丁寧に頭を下げ、そのまま船へ戻ってきた。
「ボス、お疲れさまでした」
グダスがどこか気楽な口調で声をかける。
ビタンはその瞬間、ふいにグダスの方向へ歩み寄り、すっと彼の背後に立った。
「ボス?」
「なんで“ボス”であるこの私が、あんな面倒の相手をしにわざわざ降りなきゃいけないのよーー!!」
ビタンは拳を握りしめ、グダスのこめかみ付近を両手でぐりぐりとねじり始めた。
「ボスやめっ……! いっ、痛い痛い痛いーー!!」
その様子を見たビスが、ぽつりと呟く。
「グダスの悪い」
「えっ!? 俺のせい!?」
グダスはこめかみを押さえながら、痛みに顔を歪めて叫んだ。
「さて、そろそろ本題に取りかかりましょうか」
すっかり気分が晴れた様子のビタンは、グダスのことなど意にも介さず、そう言いながらロライラへ指示を出した。
「ロライラ、船をこの位置へ。」
ビタンは操縦パネルを開き、自分の手首に装着したデバイスを近づけると、ナビゲーション画面に指定座標がポップアップ表示される。
それと同時に、ロライラの瞳が一瞬きらりと光り、応答した。
「了解。通信周波数も調整完了」
そしてビタンは皆の方へ振り向き、右手を高く掲げ、前方を指し示して叫ぶ。
「全員、配置につけ! 出発!」
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その頃、ビタンたちがこれから向かおうとしている戦場では、彼女たちの想定をはるかに上回る、極めて深刻な状況た。
『こちら〈左翼〉! 首が切らされました! 指示を要請します!』
『こちら〈右翼〉! 多数の腕が切られ、戦線が崩壊寸前です! 至急支援を!』
狭苦しいコックピットの中は、途切れることなく飛び交う救援要請の通信で埋め尽くされていた。
「左翼にはこちらから代わりを投入する!当面は前進を中止し、戦線を維持しろ!」
「右翼は一度後退! こちらから増援を送る、合流まで耐えろ!」
機体を操縦しながら、必死に各部隊の再編と指示を出しているのはライツだった。
彼は戦場中央、ヴァトラヴァに搭乗し、増え続ける怪獣級の虫族を相手に斬り結んでいる。
分類上は戦艦級には至らないものの、通常級、全長二〇~一〇〇メートルクラスの個体が、数百体規模で群れを成せば、技術水準のやや遅れた文明圏の惑星にとっては、それだけで滅亡に等しい脅威となる。
トラクス星が今日まで生存できているのも、かつて《ヴァトラヴァ》の機体データを得たことで、
星衛機の量産に辛うじて間に合い、拮抗できているからに他ならなかった。
その時――
敵群の中から、彼らとよく似た人型の怪獣級個体が一体、前へと躍り出る。
咆哮を上げながら、特化進化した巨大な長鎌を高く振りかざし、一直線にヴァトラヴァへと襲いかかってきた。
「このままでは、こちらの戦線が崩壊するのも時間の問題だ……」
そう低く呟いたライツは、ひとつ深く息を吸い込み、モニター越しに突進してくる怪獣を鋭く見据えた。
次の瞬間、操縦桿を巧みに操作する。
その意思に呼応するかのように、ヴァトラヴァは滑らかに動き、
手にした鉈に似た武装を一閃。怪獣の首を正確に刎ね飛ばした。
対象が完全に沈黙したことを確認し、別の指示を出そうとした、その時...
『こちら特別支援部隊。現地に到着しました。どの方面に支援が必要ですか?』
通信回線に、落ち着いた女性の声が割り込んできた。「特別支援」という言葉を耳にした瞬間、ライツは思わず安堵の息を漏らす。
「こちら第三小隊隊長、ライツだ。助かる。現在、左翼が人手不足だ。座標を送る、至急向かってくれ」
そう告げた、まさにその時。通信の向こう側から、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
『ライツ!?』
『ちょっと! まだ通信中なんだから、割り込まないで!』
「シャルス!? 本当に……君なのか!?」
ライツは目を見開き、声を荒らげて問い返す。
通信機の向こうでは一瞬の間があり、やがて、先ほどの落ち着いた声の人物が、改めて応答した。
『大変失礼しました。その兵士は確かにシャルスという名です。現在、我々が別地点にて保護・収容しています。上層部の判断により、当面は我々と行動を共にし、任務を遂行するよう委託されています。自己紹介が遅れました。私はト・ラシン・ビタン、本艦の責任者です。互いに無事帰還できることを祈ります。以上』
ビタンがそう告げると同時に、通信は一方的に切断された。
それを聞いたライツは、まるで胸に火が灯ったかのように呟く。
「これで、本当に死ねなくなったな。待ってくれている人がいる……」
その心境の変化を感じ取ったかのように、ヴァトラヴァの機体全体が、澄んだ紅蓮の光を放ち始める。
同時に、ライツの腕に刻まれた傷痕もまた、赤く淡く輝いた。
「この温もりは…...不思議だ、急に力が湧いてくる…行くぞ、ヴァトラヴァ!」
その呼びかけに応えるように、機体は狼の遠吠えにも似た咆哮を上げ、次の瞬間、速度を一気に引き上げた。
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一方その頃、ビタンが通信を終えてから間もなく、グダスたちは指定された戦域へと到達していた。
「よし、仕事の時間だ!」
「ボス……さすがに連戦続きで、ちょっと疲れてきました……」
「疲れた?それじゃあシードリに、訓練が足りないって文句を言っておこうか〜?」
「い、いえ! 今のは冗談です! 全然問題ありません!」
「よしよし〜。それでこそシードリの弟子ね。さあ、その根性、見せてもらおう。そうだ、それと……」
そう言い終えると同時に、ビタンは戦闘用アーマーへと身を包んだ。
黒を基調とした装甲に、濃紫と黄色のラインが走り、バイザーには前髪が半分顔を覆うかのような黄色のラインが浮かび上がっている。
「ヤグナ、それからビス。後方支援はこの艦に残って待機してちょうだい。
ロライラ、私を地上へ送って。このサイズの怪獣とやり合うのも、久しぶりだから、少し体を動かしたいの」
「了解。転送プロセス、開始します」
転送光がビタンを包み込む直前、彼女は二本の指で自分の双眼を指し、そのままグダスへと向けて示す。
次の瞬間、転送光と共にその姿は掻き消えた。
「これで下手な戦い方をしたら、本当に師匠に謹慎を食らいそうだな……」
その呟きに重なるように、ロライラが告げる。
「グダス様。この戦場には、我々が捜索していた対象が見つけた」
「となると、さっさと片付けて、早めに帰投した方がよさそうだ」
グダスが闘志を込めて言い切った、ロライラ号は人型モード再変形を開始した。
「行くぞ、ロライラ!」
「了解」
単身で艦を降りたビタンは、決して無謀に敵陣へ突っ込んだわけではなかった。
それは明確な目的を持った行動だった。
「群れで出現している以上、指揮を執る個体がいるはずだ……」
ビタンは、グダスたちの交戦地点から一定の距離を保った位置に着地する。
この距離であれば、獣群がこちらへ流れてくる可能性は低く、せいぜい脱落した個体が一、二体来る程度。
そう判断した彼女は、ヘルメットの各種センサーを起動し、獣群の後方へと視線を走らせた。
同時に、衛星マップを展開し、指揮個体が潜んでいそうな地点を推定していく。
「ここが一番、怪しいね...」
彼女が目を留めたのは、戦線後方に位置する小高い丘陵地帯だった。
「もし、あれが通常の怪獣級以上の知性を持っているなら.....十中八九、この辺りにいるはず」
そう独りごちると、ビタンは外装甲の性能と自身の身体能力を最大限に活かし、ほぼ一瞬でおよそ六キロメートルの距離を踏破した。
そして――
丘の上に、単独で佇む一体の個体を視認する。
外見は人型の蟲族怪獣。人の形をしているとはいえ、近くで見れば脚部には明確な節構造があり、怪獣級特有の外骨格は異様なまでに濃く、厚みを帯びている。
やがてその個体は、ビタンの存在に気付いたかのように、ゆっくりと首を巡らせ、彼女へと視線を向けた。
「ゥゥゥ……」
低く、腹の底から響く唸り声。
それはまるで、目の前の挑戦者など意にも介していないと、言わんばかりの余裕に満ちた声音だった。
「ふふ……さすがは群れを率いるだけの個体ね。ずいぶんと落ち着いているじゃない」
そう言いながら、ビタンは左右の腰元から、それぞれ握柄だけの装置を一つずつ引き抜いた。
その瞬間、怪獣は相手が迎撃態勢に入ったと判断したのか、片脚を大きく振り上げ。踏み潰すようにしてビタンを叩き潰そうとする。
「おっと……これは完全に“ナメられてる”ね」
すでに攻撃範囲の外へと身を躱していたビタンは、余裕の表情のまま握柄を起動する。
次の瞬間、握柄の先端からアイスアックスを思わせるビームの刃が形成された。
彼女はそのまま軽やかに跳躍し、怪獣の脚部へと着地する。
「グゥゥッ!!」
苛立ちを含んだ咆哮を上げ、怪獣は脚を激しく振り回してビタンを振り落とそうとする。
だがビタンは、その激しい揺れの中でも平然としたまま、手にしたビーム武器を外骨格の隙間へと打ち込み。
まるで断崖を登るかのように、身体を固定しながら上方へと跳び上がっていった。
「ひどいわ。こんな美女に絡まれてるっていうのに、そこまで怯えられると、さすがに傷つくんだけど?」
そう軽口を叩きながらも、ビタンは動きを止めることなく、滑らかに怪獣の巨体をよじ登っていく。
その瞬間、怪獣は背部の羽を大きく展開し、轟音とともに凄まじい突風を巻き起こした。
暴風となって吹き荒れる空気が、ビタンを振り落とそうとする。
「なるほどね...... ただでかいだけじゃなくて、ちゃんと頭も回るってわけか」
怪獣が生み出す嵐のような烈風に晒され、さすがのビタンも先ほどのように軽々と登り続けることは難しくなる。
その瞬間、彼女は静かに“第三の眼”を開き、怪獣の体内を巡るエネルギーの流れ、その歪みと集中点を一瞬で見抜いた。
「そこか」
彼女は、怪獣の胸部に一箇所、内部エネルギーを集中的に循環させている部位があるのを視認した。
それは怪獣級の中枢器官――心臓部に相当するものだと即座に推測する。
怪獣の腰部付近に取り付いたまま、ビタンは空いているもう一方のビームアイスアックスを起動し、形態を変化させた。
斧頭部と柄を繋ぐ部分からビームが伸び、光の鞭へと形態を変える。
彼女は全身の力を込めてそれを振るい、斧の刃先を、心臓部に近い外骨格の継ぎ目へと正確に叩き込んだ。
「当たり~」
小さくそう呟いた直後、怪獣もまた沈黙してはいなかった。
「ウオオオオオッ!!」
弱点を察知されたことに気づいたのか、怪獣は胸部両脇に退化・収納されていた小型の硬質刃肢を急速に展開する。鋭利な先端が、ビタン目掛けて突き出された。
「この程度で、手を退くと思った?」
激しい揺れの中、ビタンは迫り来る刃肢を逆に踏み台のように利用し、一気に胸部近くまで跳躍する。
そして、アイスアックス形態の方を解除した、その柄を高く掲げた。
「少し降りで、落ち着いて話しましょう」
その言葉と同時に、柄はビームソード形態へと展開し、狙い澄ました位置へ深々と突き立てられる。
刃は怪獣の体内へと侵入し、柄ごと胸部に固定された。
ビタンは固定状態となったビーム斧を解除し、自由落下へと身を任せながら通信を開く。
「ロライラ、回収お願い」
『了解。転送を開始します』
次の瞬間、転送光が彼女を包み込み、ビタンの姿はロライラ号の客室へと回収された。
ビタンが帰還して間もなく、怪獣の胸部に突き刺さったままの剣柄が、突如として眩い光を放ち。直後、重低音の爆発が響き渡った。
致命傷には至らなかったものの、その衝撃で怪獣の羽は完全に麻痺したかのように動きを止め、制御を失った巨体は高空から真っ逆さまに落下する。
次の瞬間、地表に激突した怪獣は巨大なクレーターを穿ち、大地を震わせた。
「ボス、大丈夫ですか?」
ビスが駆け寄り、声をかける。
「平気平気。ついでに“置き土産”も渡してきたからね。たぶん、そのうちこの戦場にも顔を出すかもしれません~」
余裕を崩さず、ビタンはそう言って肩をすくめた。
そのとき――
艦内放送に、慎重な口調のグダスの声が響く。
「全員、衝撃に備えてくれ。戦場の状況、何がおかしい?」
グダスは慎重な口調で、艦内放送を通じてビタンたちに呼びかけた。
「まさか、こんなに早く来るとはね〜」
ビタンは相変わらず余裕のある口調でそう呟くと、通信を開いてグダスに連絡した。
『グダス、これは私から出す“課題”よ。しっかり成果を見せてもらうからね』
「課題? ちょっと待ってください、ボス! その“課題”って何の話ですか!?」
その瞬間、グダスは怪獣群の後方で起きている異変に気づいた。
群れの端から、次々と怪獣が倒れていく。まるで不可視の刃が走ったかのように、S字を描く軌道で、怪獣たちは理由も分からぬまま崩れ落ち、あるいは弾き飛ばされていた。
距離が詰まるにつれ、モニター映像はついにその現象の正体を捉える――
怪獣群を切り裂きながら進む、“何か”の姿を。
外骨格の色合いは他の怪獣よりも明らかに濃く、複眼は赤い光を帯び、怒りそのものを体現しているかのようだった。
その怪獣が通過する場所は、まるで何かを探し回っているかのように荒らされ、グダスはその胸部に新しい傷痕があることに気づく。
怪獣は体液を滴らせながら、周囲の怪獣たちを乱暴に押しのけ、やがてスーパーロボット、ガンーヤ゙ーゴウーの存在に気付いた。
「グォォォォォッ!!!」
怪獣は咆哮を上げ、そのまま一直線にガンーヤ゙ーゴウーへと突進してくる。
「な、なんだってんだ!?」
困惑しつつも、グダスは迫り来る怪獣から目を離さず、機体操作に集中する。その瞬間、再びビタンからの通信が割り込んだ。
『それが、あたしが言った“課題”よ』
それだけを告げると、通信は即座に切断される。
「なんで師匠の家族まで、師匠と同じで無茶苦茶なんだよ!!」
大声で悪態をつきながらも、グダスは機体を操り、体当たりを仕掛けてきた怪獣の両肩をがっちりと掴む。
相手の突進力を逆に利用し、投げ飛ばすことで体勢を崩させるが――次の瞬間、怪獣は太く重厚な蠍の尾のような器官を伸ばし、ガンーヤ゙ーゴウーを絡め取る。
そして、よろめいた勢いをそのまま反転させるかのように、ガンーヤ゙ーゴウーの巨体を豪快に振り回し、投げ飛ばした。
「くそっ!」
ガンーヤ゙ーゴウーは、そのまま飛びかかるような体勢で地面へと叩きつけられた。
周囲の怪獣たちがそれを見て、一斉に戦闘へ加わろうと近づいた瞬間――
その怪獣は容赦なく、鋭利な刃爪を振るい、邪魔立てしてきた二、三体の怪獣を斬り捨てた。
その光景に他の怪獣たちは動きを止め、怪獣が彼らに向かって咆哮すると、
集まっていた怪獣たちは蜘蛛の子を散らすように四散し、それぞれ別の場所で破壊行動を再開した。
その間に、どうにか体勢を立て直したガンーヤ゙ーゴウー。目の前の怪獣を見据え、グダスは呟く。
「こいつ……まさか、俺と一騎打ちするつもりか?」
怪獣は手の刃爪を開閉させながら、突進の勢いで右の爪を振り上げた。
「今の状況じゃ、兵装庫を使う暇がない!」
そう叫んだ瞬間、ガンーヤ゙ーゴウーは両腕を構え、掌部が引き込まれると同時に、内部から強力なビームブレードが噴き出した。
振り抜かれた一閃は怪獣の爪を切断した。
異変を察した怪獣は即座に身を翻し、今度は尾でガンーヤ゙ーゴウーを打ち払おうとする。
だが、もう一方の腕から展開されたビームブレードがそれを受け止め、怪獣の尾部からはジジジ、と焼け焦げる音が響いた。
「グ……」
苦悶の声を漏らした怪獣は、口を大きく開き、青緑色の液体を勢いよく噴射する。
「うわっ!」
グダスは咄嗟に機体を操作して回避する。
液体が直撃した地面は、見る見るうちに侵食され、泡立ちながら崩れていった。
「どうして生体由来の“よだれ”って、決まって毒か酸なんだよ……」
グダスはそう呟きながら、即座に判断を切り替え、距離を取る戦法へ移行する。
「兵装庫ナンバー5、展開」
「了解。座標ロック、完了」
ロライラの応答と同時に、機体の左側空間が歪み、転送用のワームホールが展開される。
収納されていた左手部は瞬時に通常形態へ復帰し、そのまま突き出された銃把を確かに掴み取った。
「ズームガンで、相手してやる」
その時、ガンーヤ゙ーゴウーの左手に握られていたのは、グダスが口にした“ズームガン”――
正式名称《屈折式ビーム集束可変銃》、通称ズームガンである。
使用者の意図に応じて、ビームの射出形態を自在に変化させることが可能で、散弾状の弾幕から、ライフル射撃、さらには小型機関砲のような連射形態まで対応する万能兵装だ。
出力は安定しているものの、集束・変換の過程でエネルギー損耗が大きく、他の兵装と比べると純粋な破壊力ではやや劣るという欠点を持つ。
「はあっ!」
グダスはガンーヤ゙ーゴウーを操作し、ライフルモードで射撃を開始した。
怪獣は即座に反応し、その尾部を盾のように振り上げ、飛来するビームを防ごうとする。
「――ッ!!」
しかし予想外の結果だった。
一見控えめに見えたビーム弾は、怪獣の尾部を貫通し、そのまま肩口にまで達して傷を刻んだのだ。
この一撃は怪獣にとっても想定外だったらしく、動揺を見せた直後、姿勢を低く落とし、地を這うように疾走し始める。
「二度と近づけると思うな!」
その瞬間、ズームガンは散弾モードへと切り替えられ、放たれた光線は拡散し、まるで捕縛網のように怪獣の進行ルート一帯を覆い尽くした。
進路を封じられた怪獣はやむを得ず、両腕を掲げ、さらに尾で腹部などの急所を巻き取るようにして防御態勢を取る。
「この瞬間を待っていた!」
怪獣の視界が遮られたその隙を突き、ガンーヤ゙ーゴウーは全推進器を一斉に起動。
右腕のビームブレードを正面に構えたまま突進し、ビタンが先に刻み込んでいた損傷箇所へと一直線に踏み込む。
次の瞬間――
刃は怪獣の心臓部を貫き、その背後からは噴水のように淡い青色の体液が噴き上がった。
怪獣の巨体は力を失い、そのまま崩れ落ちる。
「ふぅ……さすがに疲れたな……」
グダスはぼやきながら周囲を見渡し、さらなる怪獣の襲来がないかを確認する。
だが......
周囲の怪獣たちは、先ほどの咆哮で既に散り散りになっており、さらに今しがた“あの個体”が倒れた瞬間を境に、どこか様子がおかしくなっていた。
そう考えずにはいられなかったグダスは、ビタンに通信回線を開いて声をかけた。
「ボス、これであの怪獣は片付いた。これで“課題”は達成、ってことでいいんだよな?」
だが...
『達成? あれだけ時間をかけておいてか? 周囲の雑魚が追い払われてなければ、とっくに持ちこたえられなくなっていただろう』
「厳しすぎないか……」
『まだ文句を言う元気があるなら、まずは現場に残っている雑兵の処理を手伝え。その後で反省会だ』
「了解......」
気の抜けた返事を残し、グダスは再び怪獣の群れが集まる区域へと向かい、掃討を続行した。
その後の戦場では、首領級の怪獣が倒れたことで統率が失われ、全体の動きは次第に散漫になっていく。
やがて単独行動に陥った怪獣たちが次々と逃走を始め、最終的にグダスたちはこの区域の防衛線を守り切ることに成功した。
ーーー
時は、指揮センターを後にし、トラクス星で開かれる戦況会議へ向かう防衛省長官、デート・ラミティアのもとへと移る。
会議準備室にて、彼女は片手で額を押さえながら、前線から次々と送られてくる報告書に目を通し、苦悩の色を隠せずにいた。
「戦況は、結局のところ必死の防衛戦に過ぎない……このままでは、いずれ崩れる。彼らを説得し、全力で打って出る決断をさせなければ」
そのとき、扉の向こうから軽やかなノック音が響いた。
「長官、お時間です」
扉越しにそう告げたのは、彼女の女性秘書だった。
「分かった」
そう答えると、デート・ラミティアの眼差しには、すでに何かを決意したかのような光が宿っていた。
彼女は資料を手に取り、静かに準備室を後にする。
「皆様、ご静粛に。ただいまより、防衛省長官の報告に移ります」
会議を進行する男性のバダック族議長が、そう宣言した。
議場には、この星で選出された各種族の代表が集っていた。
主要種族であるバダック族、ライラット族を中心に、人口規模の小さい種族から選出された代表、地球人に近い人型種ー擬地人、ダリット族などが混在し、連合議会を構成している。
「議員の皆様、長いな挨拶は省かせていただきます。本題に入ります。現在の前線の状況は、もはや現状維持のみで対応できる段階ではありません。これ以上の消耗を防ぐためにも、軍事予算を大幅に増額し、前線に反攻の機会を与えるべき時が来る」
その発言が終わるや否や、一人の女性バスラート人議員が手を挙げた。
彼女の頭部には、犬の耳を思わせる立ち耳が備わっており、まずは落ち着いた所作で一礼すると、席を立つ。
「発言をどうぞ、議員」
「あなたの言う“維持できない”というのは、本当に予算不足が原因なのですか?これまでは持ちこたえられていたではありませんか。今になって不可能だと言い出すのは、軍の予算を引き上げる口実に過ぎないのでは?」
そう言い放った女性議員の眼差しは、厳しく鋭い光を帯びていた。
「議員、それはご認識とは異なります。以前の会議でもご説明した通り、この怪獣群は自己進化能力を有しています。一度敗北を経験した個体は、我が軍の戦力を上回る形で進化するのです」
「それほど分かっているのなら、なぜその場で徹底的に撃退しなかったのですか!?」
「先ほども申し上げましたが、追加の予算投入と、それに伴う戦力増強がなければ、戦線を前進させることは不可能です!」
「馬鹿げています。結局は金の話ではありませんか。この惑星を維持するだけでも財政は限界です。あなた方にはすでに新型兵器や装備の開発資金を与えた。それでも満足な成果は出ていない。それなら、いっそ予算をさらに削減し、国民の生活向上に回すべきでしょう」
「議員、自分が何を言っているのか分かっているのですか!?我が軍が崩れれば、この惑星は怪獣どもに滅ぼされる。今は発展を語る時ではない、生存そのものが危機に瀕しているのです!」
そのとき、別の男性バダック族議員が手を挙げ、席を立った。
「私は、軍備に予算を回すべきだと考えます。我々広大なる同胞にとって、唯一の母星はここしかない。
その存続すら守れぬのであれば、移住など死地を求めるに等しい」
すると、先ほどの女性議員が不満げに声を荒らげる。
「今は私の発言時間です。あなたの番ではありません」
「秩序を保ってください。今は、バスラート代表の発言時間です。議員は自制を」
議長がそう制止すると、間を置かずに、さらに別の議員が手を挙げて発言を求めた。
「議長、これは存亡に関わる問題です。そのような発言を放置すれば、ここにいる全員が他の星へ亡命する羽目になります。厳しく叱責すべきです」
そう発言して論戦に加わったのは、ライラット族の代表だった。彼女は終始、厳粛な口調を崩さなかった。
「この問題が我々の星の存亡に関わるものであることは理解しています。しかし、このように次々と口を挟まれていては会議が収拾しません。各議員には自制をお願いしたい。では、先ほどの質問に戻り、防衛署長は引き続き回答をお願いします」
議長が発言権を防衛署長に戻すよう合図すると、先ほど割り込んで発言した議員たちは不満そうな表情を浮かべながらも、最終的には席へと戻っていった。
「ありがとうございます、議長。それでは追加の国防予算については後ほど採決を行うとして、もう一つ、見過ごせない懸念事項をご報告しなければなりません」
その後半の言葉を耳にした瞬間、議場にいた議員たちは一斉に息を詰め、ラミティアが口にしようとしている“懸念”に耳を傾けた。
「虫王がリクステル星を離脱しました。現在、この方面へ向かっているものと思われます」
その言葉に、再び多くの議員たちは席に落ち着いていられず、あちこちで声を上げ、口々に意見を交わし始めた。
「……待って、それは本当なの?」
声を発したのは、最初に質問を投げかけたあの女性議員だった。
「本当です。皆さん、どうかお手元の議事用端末をご確認ください。観測班からの資料があるはずです」
ラミティアの言葉が終わるや否や、議員たちは一斉に、会議卓に埋め込まれた端末の操作を始めた。
『これはまずい……』
『本当に来るとなれば、もはや予算の問題ではないな』
『こうなった以上、何があっても腹をくくるしかない…』
議員たちがそれぞれ思い思いに呟き合う中、議長は手にした議事槌を打ち鳴らした。
「静粛に」
その言葉を受け、議員たちは我に返り、議長の総括を待った。
「ほかに質問はありますか?」
議員たちは互いに顔を見合わせた後、再び議長へと視線を向けた。
「それでは採決に入ります。予算案について、各議員は賛否を投じてください」
重苦しい沈黙が議場を包む中、議場正面に展開されたホログラム投影、圧倒的多数の賛成票と、それを投じた議員たちの名前が次々と表示された。
「それでは、前線向け予算の追加拠出は承認されました。続いて、予算額の具体的な審議に入ります」
議長が次の議事日程を宣言するのを受け、傍らで待機していたラミティアは、固く拳を握りしめながら、心の中でそう呟いた。
『第一関門は越えた。だが、本番はここからだ…』
ラミティアが己の戦場に立ち向かうその一方で、この戦争を動かす歯車は、なおも着実に回り続けていた…




