ロストプラネットII(LOST PLANET II)第四章 相遇
二日ほど経って、俺たちはまずジャナンスの街に到着した。どうやらこの街は最近、新たな怪物の襲撃を受けたばかりで、今も修復作業が続いているらしい。
「しかし……こうして見ると、本当に惨烈ですね……」
外の崩れた岩壁や、慌ただしく動き回る救助隊員、そして人々の顔に浮かぶ怒りや恐怖の表情を目にしながら、私の気分も沈んでいった。
「そうですね。あんな未知の怪物を相手に、ここまで持ちこたえられたのは、むしろ奇跡かもしれません」
そう言って、ボスはため息をついた。
「それで、この荷物はまずどこに届ければいいんですか?」
ヤグナがそう尋ねた。
私たちはあくまで救援物資を運ぶ商隊に偽装しているのだから、表向きの活動をそれらしく見せておかないと怪しまれてしまう。
「まずは、この近くの難民キャンプに荷物を届けましょう。ここには駐留している軍隊がいるはずですし、ついでに何か情報を聞けるかもしれません」
まだ比較的まともに残っている車道に沿って、私たちは目的地へと進んでいた。
「そういえばボス、前に拾った小さなやつ……どこに隠しておきます?」
「そうですね、このままヤグナに抱かせておくわけにもいきませんし……ちょっと考えましょうか」
ボスは車内を見渡しながら思案し始めた。
「私、提案があります……」
ヤグナが口を開いた。
「言いで見よ」
ボスが応じた。
「この子を後ろの貨物室に、他の荷物と一緒に隠しておきましょう。これで大丈夫ですか?」
「それも、この子が大人しくしてくれるかどうかによるな」
俺は口を挟んだ。
「さっき、この子と意思疎通してみたんです。大人しく隠れしてくれると、みたいです」
ヤグナの驚くべき発言を聞いた瞬間、私は急ブレーキを踏んでしまった。
「おい!なんでいきなりブレーキを踏むんだ!」
まずボスに叱られ、同時にヤグナは前の座席に頭をぶつけ、痛そうに額を押さえていた。
「だって、彼女は生物の思考を読み取れるんだ。俺はこんなの初めて聞いた」
それを聞いたボスは「おお〜」という表情を浮かべ、ヤグナに言った。
「確かに、私も初めて知ったよ。君にそんな力があるなんて」
「記憶を取り戻してから、ときどき声が聞こえるようになったんです。そしてあなたたちの星で学んでから、自分の能力はもしかして“感知”なのだと気づきました」
その時のヤグナは、不安そうな顔で私を見つめ、問いかけてきた。
「私のように相手の考えを感じ取れるって……不気味じゃないですか?」
彼女は不安そうに私と隊長を見た。しかし、そんなことは私たちにとって問題ではない。
「隔たりなく相手の感情を感じ取れるなんて、すごい能力だと思うよ」
私がそう言い終えると、ボスも続けて言った。
「心配しなくても大丈夫だ。私は百年以上も生きてきたし、こういう能力を持つ種族も見たことがある。すでに対策はできているから、君が気にする必要はない」
そう言って、ボスは自分の耳飾りを指さした。
さらにボスはそう続けながら、片手でグダスの頭をくしゃくしゃとかき回した。
「どうせこいつの頭の中なんて空っぽだからな。君が感知したところで、何も出てこないだろう」
ボスは声を上げて笑い出した。
「ボス、ひどいですよ! 私だって研究機関で探索員を務めていたんです。頭が空っぽなんかじゃありませんって!」
俺たちのやり取りを見ていたヤグナは、ほっとしたように息をつき、口を開いた。
「お二人の気持ちを聞けて、やっと安心できました。本当に、ありがとうございます」
そう言って、彼女は丁寧に頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくてもいいんだ。君はもう、俺たちの仲間なんだから」
俺がそう言うと、ボスは話題を切り替えた。
「悪いな、話の腰を折るが……あの子から、何を聞いたんだ?」
「この子……どうやら私たちのことを“親”だと思っているみたいです」
「なんだって?」
「まさか、あの岩殻から出てきたときに……」
俺はあの小さな生き物が現れた瞬間を思い出し、思わずつぶやいた。するとボスが口を開く。
「つまり、今この子は私たちを心から信頼しているということか…」
ボスは一度静かになり、ヤグナの腕の中でこちらを見上げている小さな生き物をじっと見つめた。
「よし、まずは試してみよう。もしうまくいかなかったら、別の理由でごまかせばいい」
その時、ヤグナが口を開いた。
「それと、この子にも名前をつけてあげた方がいいだろう。呼びやすくなるしな」
「確かに……さっきは慌ててて、そんなこと考える余裕もなかったからね」
俺とヤグナが思案していると、不意にボスが口を開いた。
「モフ玉?」
俺たちは思わずボスを見つめる。
「何だよ? こいつ毛むくじゃらで丸まってるし、モフ玉って可愛いじゃないか?」
「ま、まぁ…可愛い名前っちゃ可愛いけど……」
俺はそうは答えたが、正直あまりにも直球すぎて、どう突っ込めばいいのか分からなかった。
「モフ玉……?」
ヤグナは復唱して、しばらく考え込む。
「じゃあ……“団太郎”なんてどう?」
あぁ……ボス以上にネーミングセンスのないやつがここにいた…
その発言に呆れた俺は、もうどうツッコめばいいのか分からなかった。
「それも悪くないな」
こうして、名付けが苦手な二人があっさりと合意してしまった…
「グダスさんはどう思います?」
どうやら俺の意見も気になるらしく、ヤグナがこちらを向いた。
「そうだな……あの小さなやつが気に入ってるなら、俺は異存はない」
俺がそう言うと、ヤグナは腕の中の小さな生き物に問いかけた。
「今日からあなたは“団太郎”よ。気に入った?」
彼女に抱かれた生物は、顔を上げて彼女の方を向いた。
「チュ〜」
まるで心地よさそうな声色で鳴いた。
「気に入ったみたいですね」
ヤグナが嬉しそうに言った。
「じゃあ、後ろの荷物の中に隠れてもらえるかな?」
ボスはそう言いゆと。
ヤグナは団太郎をじっと見つめた。数秒間、互いに視線を交わした後、団太郎は彼女の腕から飛び降り、まだ甘えたそうに数声鳴いたが、やがて力なく後方の荷台の荷物の間へと潜り込んでいった。
「いい子。落ち着いたらおいしいものを買ってあげる」
まるで幼子に話しかけるようにそう言った。
「さあ、出発しましょう」
ボスは目の前の出来事を特に気に留める様子もなく、淡々と口にした。
「りょ、了解……」
しばらくして、私たちは難民収容エリアに到着した。まずは駐屯している兵士が私たちの車を止め、検査を行った。
「お前たちはどこの民間組織の者だ?」
「こんにちは~私たちは星間救援組織からの依頼で、物資を届けに来ました」
そのとき、ボスはにこやかに、仏頂面の人間の兵士にそう告げた。
「そうか。それなら、貨物のリストを見せてもらえるか?」
救援組織の物資だと聞いて、兵士の表情は少し和らいだ。
「ところで、別の星から避難してきた生存者たちはどこにいますか? 私たちは物資引き渡しの証明として、彼らと写真を撮る必要があるのです」
「そういうことなら、この区画に行くといい。彼らは現在、そこにまとめて収容されている」
兵士は手に持った端末を操作し、画面に映し出された地図の一角を指さした。その後、車での詳細なルートを説明してくれたので、私たちはいよいよ今回の任務の目的地へと近づいていった。
到着して車を停めると、すでにそこでは引き渡しを担当する人員が待機していた。
「皆さんのおかげで、より多くの住民が生活を続けられています。私は代表のデート・ラミティアと申します」
ボスと同じくダリット族らしいが、額の目は閉じられたままのようだ。金髪の彼女の傍らには、肌が赤みを帯び、深い青の直髪で顔の半分を隠したライラット族の女性が立っていた。
「こんにちは。私たちは星間救援組織からの依頼を受け、物資を届けに参った商隊です」
「お会いできて光栄です。長い旅路でさぞお疲れでしょう。よろしければ、こちらで少し休んでいかれては?」
代表はそう言って、近くの建物へ案内するように手振りで示した。
「そうだな。我々も少し休む必要がある」
ボスがそう言いながらヤグナを一瞥すると、ヤグナは何かを気付いた、ふっと動きを止めた。
「それではボス、私たちは先に仕事を済ませて後に向かいます」
ヤグナが突然そう言い出したので、俺は思わず「え?」と疑問の声を漏らし、彼女を見た。
「うむ、それではよろしく頼む」
「お待ちください。荷物の搬入については、こちらの人員で対応いたしますので」
そう名乗った代表の女性が言うと、その隣に立っていた秘書らしき人物が、彼女に何かを耳打ちした。
「それではお願いする」
代表がそう言った後、その秘書と思しき女性がこちらに歩み寄ってきた。
「お二人をご案内する役目を任されました。オルナと申します。どうぞよろしくお願いします」
そう言って、彼女は軽く敬礼のように手を挙げた。
「初めましで」
私たちがお互いに挨拶を交わした後でも、彼女の表情はまるでポーカーフェイスのように微動だにせず、何の変化もなかった。
そうは言っても、見た目は確かに美しい女性だ。ただ、その身から漂ってくる圧力……これが噂に聞く「無愛想な美人」というものなのだろうか?
「どうかしましたか?」
ちょうど私が考え込んでいるのに気づいたのか、彼女は口を開いた。
「いや、何でもない。それでは、一緒に車に乗って案内をお願いできますか」
こうして私たちは車を走らせ、区画内をゆっくりと進んでいった。
「あなたたちはどこから来たのですか?」
「ソードフィッシュ星だ」
俺はそう答えた。
「随分と遠いところですね。どうしてわざわざ、そんな遠方まで配送任務を引き受けたのですか?」
「どうしてかは……ボスにお聞きになるのが一番かもしれません」
そう言って苦笑を浮かべるしかなかったが、オルナの表情は依然として変わらなかった。
「そうですか。ご苦労さまです」
彼女の案内で、俺たちは修復工事の現場を通り過ぎた。そこでは見たこともない人型機械が、破壊された街を修復する作業を行っていた。
「その機械を見るのは初めてだな」
「それらは、この星を守る《星衛機》です」
「その……あとでもっと近くで見せてもらえませんか? こういう人型機械にはとても興味があって」
「残念ですが、それは私の権限外です」
彼女の声には、どこか惜しむような響きがあった。
「そうですか……なら遠くから眺めるしかないが」
俺が落胆の思いに浸っていたその時、突然、警報が鳴り響いた。
「緊急命令第4級、各自避難してください!」
放送が何度も繰り返され、周囲の人々や修復作業を行っていた機械たちも動きを止め、それぞれ避難行動を始めた。
「皆さんは前方20メートルほど進んで右折してください! そこに貨物車も収容できる避難所があります」
彼女の指示に従い、俺はすぐにトラックをその避難所へと走らせた。
「あなたはここで誘導員の指示に従ってください。私は処理すべき用件がありますので、先に失礼します」
そう言い残すと、彼女は車を降り、近くのスタッフに数言告げた後、避難センターの奥へと向かって行った。
「こちらへ車を回してください」
誘導員の指示に従って車を停めたあと、俺たちは避難経路に沿って進んだ。人混みに紛れながら、ヤグナが俺に声をかける。
「団太郎のことが心配で…」
俺は彼女の顔に浮かぶ不安を見て。
「じゃあ、俺が車に戻って確認してくる。君は避難してくれ」
「グダスさん、そんなに危険だ!」
「大丈夫だ、俺だって一応は訓練を受けてる。危なくなったらすぐ退くさ」
「気をつけてね……じゃあ、またあとで」
「おう!」
ヤグナに短く答えると、俺は停車場所へと引き返した。
「団太郎〜」
「チュ? チュ?」
トラックの荷台に入り呼びかけると、団太郎は私の声に気づき、不思議そうな調子で返事をした。
「早くこっちに来い、安全な場所に隠してやるから…」
そう言いかけた瞬間、俺がいる避難所の出入口が激しい揺れとともに、地下道の金属扉が容易く打ち破られた。
その時、扉の向こう側から、蔓のようにうねる鉤爪の触手を持つ虫獣が伸びてきた。体格は成人の人間とほぼ同じほどで、人型に近い姿をしている。
後肢は二本の脚へと進化し、二対の前肢は腕のようで、その右腕を使って堅牢な金属扉を押し曲げ、奴らが侵入するに足る隙間を作り出したのだ。
「これはまずい……あいつらが避難区域に向かったら終わりだ」
「チュ?」
団太郎が不思議そうな声を上げ、小さな頭をかしげて俺を見つめる。
「団太郎、もっと奥に隠れていろ。あとでお前に迎えに行く、いいか?」
理解したのかどうかは分からない。数秒間じっと俺を見つめた、その時――
「ギャアアアアアア!!!!」
仮に「虫人」と呼ぶその敵の群れを率いていたのは、ひときわ巨大で逞しい個体だった。
その前肢は重厚な甲殻に覆われ、まるで重装甲を身につけているかのようだ。
さらに頭部と思しき部分には目立つ一本の角が生えており、指揮官らしきその存在が咆哮を放つと、他の虫人たちは怯えるように身を縮めた。
「こうなった以上、問題はこの連中をどう処理するかだな…」
俺は車の影に身を潜め、虫人たちの動きを窺った。
奴らはまず細長い髭の触手をわずかに動かし、その後まるで指揮官に報告するかのような仕草を見せる。
ちょうど俺が“ここで撃退すべきか”と考えたその時ー
轟音と共に扉が吹き飛び、訓練された兵士たちが一斉に銃を構えた。
虫人たちは反応する間もなく、次の瞬間には光弾の雨に晒され、急所を撃ち抜かれて一体、また一体と崩れ落ちていった。
「撃ち方やめっ!」
隊長の怒号に、兵たちはすぐさま射撃を止める。
「奴め、本気で我らに根絶やしにする気になったか。諸君、ご苦労だった」
その兵士たちの背後から現れたのは、つい先ほど我々を案内してくれたあの女性だった。
兵士隊長は彼女に向かって声をかける。
「副署長殿、現在この避難拠点の防衛は完了しました。次の指示をお願いします!」
「三個小隊を残して警戒し。残りは遊撃戦に移り、市街に彷徨う敵を殲滅せよ」
「はっ!」
すぐに、各小隊長は数個の小隊を率いて、破壊された門の向こうへ散開していった。
「そこの来訪者、もう出てきてもいい」
その女性はすでに私の存在に気づいていたようで、こちらに向かって声を張り上げた。
「……ど、どうも……」
俺は気まずそうに笑みを浮かべた。
「監視カメラで、あなたが命知らずに外へ出るのを確認しました。正直、怪しい人物かと疑いました」
「実は……車に大事な物が残っていて、避難の途中で思い出したんです」
「そう。こちらがすでに兵力を展開していなければ、あなたは今頃ここにいなかったでしょうね」
そう言って、無表情のまま彼女は小さくため息をついた。
「以降は我々の管轄です。あなたは避難所へ戻りなさい」
「すみません、助かりました」
そう礼を告げると、俺は再び避難所へと戻っていった。
「グダスさん、団太郎は無事ですか?」
ヤグナが俺にそう問いかけてきた。
「大丈夫だ。ただ、向こうでちょっとした状況に遭遇してな」
「状況?」
「とにかく、ここは今のところ安全だが、敵はどうやらここが避難施設であることを把握しているようだ。ボスに連絡して、どう対処するか指示を仰ぐつもりだ」
「じゃあ、私たちはここで待機すればいいの?」
「現状、それしか手はない」
ーーーー
この時、通信機がかすかに震え、私は手首に装着した端末を掲げて確認した。
『こちらの避難所も敵の攻撃を受けている。すでに小隊を派遣し、掃討に当たっている』
送られてきたのはオルナからの報告だった。状況はすでに一刻を争う事態となっているだ。
これまでは巨体の怪獣だけが都市を破壊していたが、まさかこうして人型に近い怪物まで現れるとは思わなかった。この地域が激しい攻撃を受け始めてから、怪獣たちは「数の力」でより迅速に制圧できることを理解したのだろう。
長期戦になればなるほど、人類である私たちには圧倒的に不利だ。一方で、奴らは兵をいくらでも生み出せるかのように、無尽蔵に試みを繰り返し、その中で着実に進化していった。
「これは本当に厄介なことになったな…」
そう悲観的に事態を見つめていたのは、防衛署署長にして代表でもある デート・ラミティアだった。
彼女は今まさに、グダスの上司である ビタン と共に拠点にて各地からの情報を受け取っていた。
「代表、現在の状況は一体……?」
ビタンがラミティアに問いかけた。
「はるばる物資を届けに来ていただいたのに、このような事態に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」
「代表、そんなに自分を責めなくてもいいですよ。我々もこちらへ来る前に、こういう状況に遭遇する可能性は想定していましたから」
ラミティアの瞳がわずかに驚きを見せたが、すぐに平静を取り戻した。
「そう言っていただけると心強いです。ただ、敵はどうやら本気でこちらを攻め落とそうとしているようです」
「つまり、敵が引かない限り、我々は無事ではないということですかな?」
「その通りです。ですが今は、星衛機に任せて対応しでしかない」
『……もしそうなら、厄介ではあるが、我々が探している目標をより早く突き止められるかもしれません』
そう計算を巡らせながら、ビタンはふと手首の通信器に表示された通知に気づいた。
「代表、ちょっとトイレに行ってきます」
「えっ? 今は緊急事態ですから、ここにいたほうが…」
ラミティアは慌ただしく席を立つビタンを呆然と見送りながら、急いで護衛の一人に後を追うよう指示した。
「どうやら、あの二人も少なからず色々な事情を抱えているようですね」
その頃、トイレに身を隠したビタンは、グダスから送られてきた内容を確認していた。
―『ボス、現在こちらの避難所はひとまず安全です。ですが、もしもの場合、自分の判断で行動する権限をいただけますか?』
―『もし敵に防衛線を突破された時は、自分の判断で任務を遂行することを許可する』
―『了解しました。どうかボスもお気をつけて』
メッセージを確認し終えたビタンは、低く呟いた。
「どうか、最悪の展開にだけはならないでくれ…」
ーーーーー
この時、グダスはヤグナにいくつかのことを伝え始めていた。
「ヤグナ、もしもの時は......フィールド・ボール、使えるな?」
フィールド・ボールは、隊員が任務に出る際に必ず支給される装置である。
これは隊員が緊急事態に直面した時、心拍や呼吸の変化を感知し、自動的に起動する仕組みになっている。
一度起動すると、所持者の周囲に電撃効果を伴う防護シールドを展開し、触れた者を気絶させることができる。さらに、起動と同時に救難信号を発し、周辺に知らせる機能を備えた、かなり優れるの道具だ。
ヤグナは手首に装着された球体を一瞥すると、軽くうなずき、口を開いた。
「それで、ボスは何と答えてきたのですか?」
「その件については、ボスは現状維持だ。ただし突発的な事態が起きたら、俺のことは気にするな。とにかく船に戻ることを最優先しろ」
「わかりました」
その時、避難室の放送が鳴り響いた。
『敵の侵入を確認! 住民の皆さんは避難区C13へ移動してください!』
「まさか!?」
呆然と周囲を見渡すと、避難していた人々も互いに顔を見合わせ、不安を隠せない様子だった。
「ヤグナ……どうやら、この避難所のどこかで手を貸さなきゃならないようだな」
「わかりました。それではグダスさんもお気をつけて」
「うん、ヤグナもな」
そう言い終えると、俺は出口の方へと足を向けた。その時、出口に近づくのに気づいた兵士が呼び止めた。
「今は緊急事態だ!ここから動くな!」
兵士は険しい表情でそう告げた。
「手伝いに来たんだ。指揮官に会わせてくれ」
「民間人にできる一番の協力は、我々に従って大人しくしていることだ……」
「やはり見せなきゃ信じないか。シフトアーマー」
俺が戦闘用アーマーへと換装するのを見た兵士は、すぐに私の言葉が嘘でないと理解した。そして、先ほど我々を案内してくれたオルナさんへと連絡を取った。
「なるほどな。最初からただの輸送会社だとは怪しいとは思っていた。街道での怪物の襲撃を切り抜け、しかもただ救援物資を届けるためだけに、わざわざここまで来るなんてな」
そしで、俺はあらかじめ手配された会合場所で、オルナさんに協力防衛の提案を持ちかけていた。
「本来なら我々が手を貸すつもりはなかった。荷を届け終えたらそのまま立ち去るつもりだったが……今の状況は、そんな悠長な場合じゃない」
オルナさんはしばらく俺の顔をじっと見つめ、それから口を開いた。
「で、どうやって手を貸すつもり? 相手は甘くないわよ。外のあの大物を見たでしょう? 歩兵じゃどうにもならない相手よ」
「私の力は限られているが、少なくともこの避難区の防衛を手伝うことはできる」
「それで、私の指示に従える?」
「もちろんだ。じゃあ、私はどごの持ち場を任される?」
グダスを見つめながら、オルナは小さくため息をつき、諦めたように言った。
「先に言っておくけど、今は状況が逼迫してる。この避難区には小隊を一つだけ残してあるだけ。だから、あなたはここに残って住民の防衛に協力して。できるわね?」
「もちろんだ。大船に乗ったつもりで任せてくれ」
オルナはしばらくグダスを見つめてから...
「じゃあ、あとはよろしく頼む」
彼女の声にはどうしようもない諦めが滲んでおり、勢いよく立ち上がって去ろうとした。その瞬間、何かを思い出した。
「通信は必ず受信チャンネルを開いておいて。あの虫人どもは、まだ我々の言語を理解できない」
「了解」
短いやり取りの後、すぐに指示が届き、俺は指定された側面の出入口へ向かった。
「指示された地図だと、この辺りのはずだが……これは!」
本来なら完璧なはずの人工施設のゲートが、目の前では半壊し、見るも無残な姿をさらしていた。
「ここはいったい、どれほど苛烈な攻撃を受ければ、この有様になるというのだ……」
その時、俺の警報が鋭く鳴り響いた。
『不明生物、接近中』
思わず顔を上げると、空から影の群れが降下してくるのが見えた。
およそ二メートルの体躯を持つ、異様な姿の擬人化された虫人たち。
肥大化した両腕には鋭利な三本の爪が生え、二足で歩む脚にはなお虫の節足が残っている。
頭部にはぎらつく複眼と、かち割るような大顎。
奴らは自らの体格をも凌ぐほど巨大な翅をたたみ込み、高らかに咆哮を放った。
それはまるで、強敵を前にした戦士の昂ぶりを示す叫びのようであった。
「まさか、俺が引き当てたのは大凶ってやつか……」
数は十数体。そのバグズたちは牙を剥き、周囲の障害物を次々と切り裂きながら迫ってくる。
その中で、ひときわ大きな個体が群れを率いる指揮官のように見えた。
そいつが俺の方へ腕を振り下ろすと、周囲の五、六の個体が一斉にこちらへ突進してくる。
「仕方ない。ここは番号三の武装に頼るしかないな」
俺の要請に応じて、右手の周囲の空間が揺らぎ、そこからヘヴィ・レイヴリッツァーのグリップが姿を現した。
このヘヴィ・レイヴリッツァーについて言えば。ガトリングのように超高速の連射で弾幕を張り、敵の行動を封じ込めるタイプではないが、連続射撃が可能で、なおかつ一定の威力を維持できる砲撃型の兵器だ。
「リミット、解除」
命令を受けた瞬間、武器が作動し始め、マシンガンがらの連続光束を吐き出す。兵士級の蟲人たちは次々と倒れ伏し、その後列にいた指揮官らしき個体が吠え声を上げると、驚異的な速度で突進してきた。撃ち出された光弾は、その硬質な外骨格に次々と弾かれていく。
「くそっ、なんて硬い!」
別の武装を呼び出そうと、倉庫を開こうとしたその瞬間に......気づけば奴はすでに目の前に迫っていた。顎の大顎が高鳴るように震え、甲高い音を発している。
「まずい――!!」
勢いのまま銃身で奴の振り下ろす爪を受け止めた――だが次の瞬間、銃身はあっさりと切り裂かれた。銃とはいえ、それなりの硬度を持つ金属で造られているはずなのに……まるで紙のように断ち割られるとは。
咄嗟に銃を横へ投げ捨て、腰からビームサーベルを抜き放つ。迫り来るもう一方の爪撃を辛うじて受け止めた。ビームサーベルはバチバチと火花を散らし、やがて蟲人の爪がじりじりと焼かれていく。危険を察したのか、奴はすぐに後方へ跳び退き、間合いを取ろうとした。
「自分から突っ込んできて、今さら逃げる気か!」
一気に踏み込んで距離を詰め、横薙ぎに斬り払う。しかしそれは受け止められた。だが、奴が誇っていた武器も同時にビームサーベルによって断ち切られる。怒声を上げると同時に、周囲の虫兵が一斉に襲いかかってきた。
「雑魚なんざ、いくら来ようと無駄だ!」
俺は次々と虫兵を斬り伏せていく。だがその隙を利用し、指揮官格の奴はすでに姿をくらませていた。
「逃げられたか……まあいい。今はこの区画を守るのが優先だ。追う必要はない」
レーダー感知を確認し、周囲に敵影がないことを確かめると、手にした武器を収納する。
同時に、先ほど投げ捨てた武器も回収した。切り裂かれた重厚な銃身を見つめるだけで、背筋に冷たいものが走る。
その時、通信機から声が響いてきた。
「こちら、グダスだ」
ーーーー
この忌々しい虫人ども……俺たちの最後の生存圏すら奪おうというのか。
見上げれば、空は黒く覆い尽くされていた。その群れの中には、戦艦サイズに匹敵する巨躯の虫たちをさえ混じっている。基地中には警報が鳴り響き、パイロットたちは訓練通りに迅速かつ淀みなく機体へと乗り込んでいく。俺もまた、自らの愛機に身を投じた。
「目を覚ませ、ヴァトラヴァ!」
機械狼の双眼が鋭い光を放ち、次の瞬間には整備ハンガーを飛び出し、疾走を開始した。
「隊長、指示を!」
後方からは、エイドスの駆る機体が続く。
「指示だと?ただ一つだ。絶対に生き延びろ!一人たりとも死ぬんじゃない!」
「了解!!」
エイドス、シャルス、グレイトの三人が同時に応答する。
総司令部からはすでに、空中主力艦隊を援護するため、分散して遊撃に移れとの命令が下っていた。だが、この数......脳内に、かつて母星が侵略された時の光景が重ねでいた。
「今度こそ……」
操縦桿を強く握りしめる。
やがて、虫たちが次々と地表に降下し、大地を揺るがす轟音を立てた。直後、爆発音と咆哮が戦場を埋め尽くしていく。
俺と隊員たちとそれぞれ散開し、虫を引きつけたり、誘導して一か所に集めたりしていた。その隙に後方の砲撃部隊が援護射撃を行い、大規模な群れを殲滅する――激戦の最中、状況に異変が生じた。
『第三区域小隊、全滅!敵軍が侵入!支援を要請する!』
通信に響くその報告は、士気を削ぐに十分だった。ほどなくして、別の小隊からも次々と支援要請が飛び込んでくる。
「今は人員が足りないんだ!どこに増援を回せっていうんだ!」
思わず悪態をつきながらも、目の前の状況を処理することに集中していたその時、警報が再び鳴り響いた。
『高エネルギー反応接近』
無機質なシステム音声が、衝撃の報せを告げる。
「まずい!射線上にいるのは俺か!?」
即座に機体を操り、人型から狼形態へと変形。射線軸を離脱しながら、全員に向けて撤退を叫んだ。だが......
「ぐっ!!!」
青緑色の閃光が奔り、敵味方を問わず、つい先ほどまで俺がいた区域を一瞬で灼き尽くした。そこには戦艦すら収まるほどの巨大なクレーターが残された。
発射源を仰ぎ見れば、上空に浮かぶのは扁平な円盤状の巨大虫。翼らしきものは一切見当たらないのに、悠然と空中に浮遊していた。
「新種か?」
やがて、同じタイプの巨虫が次々と戦場の上空に姿を現した。
「虫獣の爆撃機部隊か...」
幸い、こちらにはまだ戦艦群による火力支援が残されている。そう思った矢先、主砲を直撃されたはずの巨虫の表面には傷一つ見られなかった。まるで意に介さぬように戦艦の砲撃を無視し、悠然とその上方へ漂い、包囲を試みている。
「このままでは、じわじわ殲滅されるのも時間の問題だ……」
その時、小隊から通信が入った。
「隊長! こっちはもう限界です! 援護の戦艦群は撃墜されました……隊長も早く撤退を……!」
「グレイト!」
仲間は一方的に状況を伝えたきり、通信は途絶えた。胸に不安が込み上げ、俺はすぐに他の仲間へ呼びかける。
「エイドス! シャルス! 応答せよ!」
しかし、返答はなかった。続けて司令部へ連絡を取ろうとしたが、その瞬間、二頭三頭の虫がこちらを包囲してきた。
「今は邪魔するなッ!」
ヴァトラヴァが近接用のブレードを抜き、迫る敵を鮮やかに真っ二つに斬り裂く。苛立ちを抑えきれず、俺はその場を離脱し、仲間が最後にいた座標へ急行した。
だが、目に映ったのは無惨に破壊された機体の残骸。幾度も機体番号を確認した俺は――
「……嘘だろ……こんな結末、あってたまるかッ!」
仲間の確認を試みていたその時、虫どもが俺の足取りを追い詰めてきた。胸中に渦巻く怒りが沸騰し、あの醜悪な生物どもがまるで嘲笑うかのように見える。
’……ムダだ。’
’お前ごときに、何も守れるものはない。’
’すべてを捨てれば、楽になれるぞ。’
そんなような声が、不意に耳へと流れ込んでくる。
「うるせえ……」
操縦桿を握り締め、迫り来る虫を次々と撃ち倒す。しかし機体にべったりと浴びせられた虫獣の血をものともせず、奴らはなおも怯むことなく、ライツを包囲せんと群がってきた。
「うおおおおおっ―――!!! 俺の前に邪魔をするな!」
その瞬間、ヴァトラヴァの機体が紅の光粒を纏い始め、まるで灼熱の炎を噴き上げるよに。
「ぐっ……!」
ライツの身体の傷痕までもが火焔のごとく赤く輝きを放ち始めた。
「グオオオオオオオオ―――ッ!!!」
ヴァトラヴァが狼の咆哮のような雄叫びを轟かせると同時に、その性能は爆発的に跳ね上がり、戦場を疾駆しながら敵を引き裂き、赤い軌跡の幻影を刻みつけていった。
だが、どれほど単機の性能が上昇しても、通信機からは前線突破の報が無情に響いてくるのだった。
『前線各隊、注意せよ! 今すぐ撤退を開始せよ!!』
「撤退だと!? ふざけるな!」
この畜生どもをこれ以上のさばらせてたまるか、たとえ上官の命令に背こうとも。
『第三小隊! まだ撤退しないのか!』
副司令の怒鳴り声が通信機の向こうから響く。
「しかし、俺の隊員たちはまだ救い出せていない! 副司令、たとえ俺だけでも――」
『駄目だ! お前が今すぐ撤退して持ち場を守らねば、我々の防衛線はすぐに崩壊する! 一人の力だげでこの状況を変われられない!』
「だけど――!」
『命令に背くつもりか? もし勝手に離脱するなら、貴様を脱走兵として処罰する! それでも構わんのか? それとも、隊員たちは自分のためにお前が脱走者になることを望んでいるのか?』
副司令の厳しい口調が、ライツに彼女が本気であることを思い知らせた。
「……了解。第三小隊、撤退する……」
『うむ。』
短く応じた副司令は、そのまま通信を切った。
「くそっ!」
ライツは思わず横の隔壁を強く叩きつけ、仕方なく上官の指示に従って撤退へ移った。
その後、ライツは後方へと撤退し、他の残存部隊と共に猛攻を仕掛ける蟲族を必死に食い止めていた。
しかし、戦況は依然として厳しかったが、辛うじて膠着状態を保っていた。
ようやく自機の修理を終えたライツは、急いで救護所へ向かい、仲間たちがそこへ運ばれてきていないか確認を始めた。だが、現実は彼の期待を無情に打ち砕いた。
「なぜだ……」
絶望に沈むライツは、魂を抜かれたかのように自室で仲間たちとの写真を見つめ、赤く充血した目で拳を固く握り締め、その握力で軋む音を立てた。
「みんな……今度は最後の希望までも、消えてしまったのか……」
ーーーーー
つい先、私が担当していた避難区で、不速の侵入者を撃退し終えた頃、ボスから通信が入った。
『グダス、今どこにいる?』
「はい、ボス。ただいま避難所の防衛任務に参加中です。ヤグナ隊員も第三区域の避難所で待機しています」
『よし。今すぐ船舶港に集合しろ。そちらの駐留部隊には声かけておけばいい』
「イエス、ボス!」
通信を終え、後方から駆けつけた防衛小隊と合流して連絡の後、俺は避難所内へ戻り、ヤグナと合流した。
「グダスさん、お帰り」
ヤグナは安堵の表情を浮かべながら言った。
「ああ、ただいま。ボスからの指示は受け取ったろか?」
「はい」
「それじゃ、行きますか」
彼女はうなずき、私と共に駐車場え向かった。車内に乗り込むと、団太郎が荷台から副座へと飛び移り、ヤグナの膝の上に潜り込むようにして甘えてきた。
「もう大丈夫よ、団太郎」
そう言いながらふわふわの毛並みを撫でるヤグナは、俺に向かって口を開いた。
「ボスの方は大丈夫でしょうか......」
「ボスなら、心配はいらないさ。なんといっても俺たちのボスだ。これくらいの状況なら問題ないはずだ」
「でも……こんな状況で、私たちは本当に……あっ!ごめんなさい、縁起でもないことを言いそうになって」
不安そうに顔を伏せるヤグナ。その膝の上で、団太郎はまるで彼女を慰めるように、ふわふわの体を擦り寄せてきた。
「ありがとう、団太郎」
彼女はそう答えて、再び優しく撫でる。団太郎は心地よさそうに声を漏らした。
「この子を拾っておいて正解だったな」
しかし、グダスたちが穏やかに車を走らせていたその途中、団太郎が突然、不安そうな鳴き声を上げて体を小さく丸め込んだ。
「どうした?」
俺が団太郎に声をかけると、間もなく前方に一体の虫人が現れた。やつは巨大な鋏のような両腕を振り上げ、そこに光を蓄積させながら解き放とうとする。その瞬間、直感が「避けろ」と告げた。
「ヤグナ、しっかり掴まれ!」
俺は咄嗟に車を急旋回させ、脇の木に真正面から激突させてしまった。攻撃はかろうじて避けられたが、衝撃でヤグナは気を失ってしまう。俺は幸運にも軽い怪我で済み意識もはっきりしていたが、急いで戦闘モード切り替えした。命は一時的に繋いだものの、危機はまだ去ってはいない。
「どうやら、そう簡単にはいかないらしいな...」
俺は低くつぶやきながら、ヤグナと団太郎を車外へ連れ出し、防護シールド発生装置を設置した。淡い青色の正三角錐のバリアが展開し、ヤグナと団太郎を覆い守ってくれる。
「がああああーー!!」
虫人は甲高く、まるで昂ぶったような咆哮を放ち、翼を広げて宙に舞い上がると、両腕の鋏を機関銃のごとく連続射撃しながら俺へ襲いかかってきた。
「いきなり顔合わせでその挨拶かよ、ずいぶんと直球じゃないか!」
既存の装備の中から閃光弾を取り出し、虫人の位置付近へと投げつけた。
直後、轟音とともに強烈な白光が弾ける。
「グぅぅぅぅ...ガ!」
眩い光を浴びた虫人が苦悶の声を上げ、左右にふらつき始めた。
どうやら強光が確実に視覚を損傷させたようだ。
「とりあえず、地上で話そうか」
私はビームサーベルを抜き放ち、一気に跳躍。鋭い一閃で片方の翼を斬り落とす。
虫人はバランスを失い、空中で失速しながら地面へと落下していった。
「倉庫番号05、取り出せ!」
前回の戦闘を踏まえ、この虫人の甲殻も特殊素材かもしれないと推測して、久しぶりに高出力のビームソードを取り出した。
引き金を引くと、エメラルドグリーンの幅広いビームの刃が形成され、それで一閃。そのまま斬り伏せると、虫人はぐったりと地に倒れた。
「認証システムが今、必要ないでよかった。さもなければ間に合わないかも」
安堵の息をつき、武器を再び次元倉庫に格納する。振り返ってヤグナを探すと.......
「何をしてる!やめなさい!」
翼を持つ虫人の集団が、ヤグナを含む防護シールドごと連れ去っているではないか。
俺は剣を掲げ、追いかけて斬り落とそうとするが、その前に立ち塞がったのは、前に退けたあの虫人隊長だった。
体を覆うのは輝くような深紅の甲殻で、ただ両腕には脱け殻のような跡や、前に俺と戦え傷したのビームサーベルで焼けた痕が残っている。
「どけっ!」
全力でビームサーベルを振り下ろす。しかし、奴の刃はまたしてもあの鎌のような三つ爪の腕に阻まれた。
出力を最大にしても、その甲殻には傷一つつかない。
ヤグナが奴の後を虫人たちにどんどん運ばれていくのを見て、焦りが一気に込み上げる。
残っていたフラッシュグレネードを取り出し、投げつけようとする。だが目の前の虫人がそれをはじき、軌道がずれてしまった。そのまま...閃光は遠くで炸裂し、全く効果がない。
「くそっ!」
「グフゥフフフフ……」
あいつはまるで嘲笑うように喉を鳴らし、俺を数秒間じっと見据えたかと思うと――
見たことのない尻尾を使って、俺の体を思い切りはじき飛ばした。
「いつの間に尻尾生えだ!?」
その重い一撃に耐えきれず、数メートル吹き飛ばされて地面を転がる。
体勢を立て直した時には、もうあいつの姿は遠ざかっていた。
「くそが!逃げられた」
俺はすぐに通信機を取り出して呼びかけた。
「グダスさん、どうされましたか?」
通信の向こうから、ロライラの落ち着いた声が聞こえる。
「今すぐ座標を送る。そこに対地ビームキャノンを撃て!」
「それは規定違反になりますが……本当に実行してもいいでしょうか?」
「いいからやれ! ヤグナは攫われだ!」
俺の声に焦らすを隠しきれない、ロライラは一瞬の沈黙の後、返事した。
「了解」
「お前たち、ちょっと待ちな!」
その時、通信に割り込んできたのは――ボスだった。
「ヤグナがあいつらに攫われだ!」
「問題ない。むしろ、これは好機だ」
「どういう意味ですか?ボス」
「お前も知ってるだろ? もし隊員が捕らわれてしまった場合、私たちの通信端末から位置を追跡できるってことを」
「つまり、追跡信号を利用して、あいつらが捕虜をどこに隠しているのか突き止めるわけですね?」
「その通りだ。先こちらの司令官殿が言っていた。あいつらの拠点を突き止められれば、例の特殊仕様の機体への接触を許可すると」
「つまり……俺たちがこいつらに追われていたのも、ボスの計算のうちってことですか?」
「まぁ、完全にそうとは言えないが……結果的には都合が良かった、ってだけさ」
「それじゃヤグナが危険じゃないですか!」
「フィールド・ボールのことを忘れたのか? それに、お前が啟動したシールドもあるだろう」
「それも、そうですが...」
「とにかく、お前は先にロレイラ号へ戻れ。残りは後に説明する」
「了解...」
遠ざかっていく虫人兵たちを見つめながらも、ヤグナのことが気がかりだった。だが、ボスがそう言う以上、今はまずロレイラへ向かうしかなかった。




