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そして雪は散った。

作者: 404 no fortune

それは、枯れ果てた世界、全てが灰燼に帰した世界でただ独り生きた少女の運命おはなし


その少女の名はとうに消え、自分が何者なのか、自分の使命さえ忘れていました。ただ行くあても無く狭まった世界を流浪する彼女のその様子は世界を漂いやがて儚く散る雪のようでした。

やがて彼女は街の廃墟の中で目を覚ましました。

「ここは、いったい?」

彼女に残っている記憶はどれも断片的なもので、少女は状況を掴むべく、辺りを見回し、自分の欠片(きおく)を1つずつ、丁寧に掬い上げました。そしてそれらの記憶が示したのは、この2時間の間に「罰」によって世界は滅びたということです。別段不思議なことでもありません、何せこの2年間、世界から秩序は失われ、世界中の村、街、都、至っては国まるごとが人の手によって破壊されていました。それに対し、「罰」は下ったのです。宙から数多の星が落ち来、山は溶け、海は涸れ、地上は一部を除いて火の海に、もはや生命が存在できるような場所ではなくなりました。少女はそんな状況でなぜこの街がまだギリギリ人が生きられるかを不思議に思いましたが、それはもはや今となってはどうでもいいことでした。

少女はしばらくの間廃墟の中で横たわっていましたが、やがて何かを思い立ったかのようにその中から立ち上がり、恨めしそうにその燃えるような夕暮れの空を見上げながら

「この滅びが罪に対する罰と言うのなら、私はこの罪に対する救いとなってやる。罪にはそれでも救いがなければならないから。」

と吐き捨てるように言い切った。その時、少女は何を思っていたのだろう、その目は何を見据えていたのだろう、今となってはもう知る由はないが、私はそれでも貴女に会いたい、絶望に向き合い、それでも底知れぬ闇の中を光で照らした貴女に。今となってはもう誰も知らないその物語を、私はここに残そう。貴女のその輝跡をこの世に留めるために。


少女は歩き出した。その滅びた世界を確かめに。少女が元々いた街は建物が崩れ落ちたが、火の手は上がらず生存者も幾らかいた。その僅かな生存者の中には泣き喚く者、途方に暮れる者、様々な負の感情がそこに渦巻いていました。少女はそんな渦に巻き込まれてはまずいと感じ、何も言わずにその街を離れようとしたが、ある一人の少年が彼女についてきました。その少年がいたから、今こうして私はこの物語を語れるのです。その少年の名は、「イオ」。もはや話す人もとうの昔に消えた言語の名前であるから、それがどんな意味を持っていたかは分からない。けれど、その少年がいなければ彼女の旅はどこかで終わっていたでしょう。そうして、彼らの旅は始まりました。彼らはその街を出てすぐに様子がおかしいことに気がつきました。彼らが元いた街は瓦礫などが散乱していましたが、その場所は文字通り「何も無い」のである。まるでその場所には元から何も無かったかのように、瓦礫のひとつそこにはありませんでした。そして二人が顔を上げてみると、広がるのはただ一面の荒野でした。

「どうして...」

「酷い光景だな、一体何が起きたんだ...」

ただただ絶句していた二人は、突然地面が揺れたように感じ、その揺れに身構えた瞬間、突然地面から「ソレ」は這い出てきました。「ソレ」は身長3m程の人間のような姿をしていましたが、全身が真っ黒でした。名状しがたき恐怖を感じた二人はゆっくりと後ろずさりし、その少年の「走れ!」という声を合図に「ソレ」に背を向けて走り出しました。

やがて走り疲れてもう何時間歩き続けていたでしょうか、「ソレ」の姿はもう見えません。だけどどこまで来ても辺りは一面の荒野、身を隠す場所などどこにもありません。

いくら世界は滅びようとも、陽はいつものように沈み、月は昇る。そうしてこの世界が滅びてから初めての夜がやってきました。昼の突き刺すような眩しすぎる太陽と比べて、月の光は彼女らを慰めるように優しい光でした。その光の下で彼女たちは語り合いました。


「僕の名前はイオ、ところで、君の名前は?」

何気なくその少年は聞きました。

するとその少女は寂しそうに笑って

「名前かぁ、私にもきっと素敵な名前があったんだろうなぁ。」

と言いました。

その少年は聞いてしまったことを申し訳なく思ったのか俯いてしまいました。それを見た少女は

「じゃあ、あなたが私の名前を考えてよ。どうせこの先も私たち二人だけなんだから。」

それを聞いた少年はしばらく彼女を見つめながら、

「じゃあ『Schnee』なんかどう?確かどこかの国の言葉で『雪』っていう意味だったはず、君にピッタリだ。」

「うん、とっても素敵な響きね。『雪』かぁ、いつかあなたと本当の雪を見てみたいな...なんてさ。」

そうして長らく語り合い、笑い合い、やがて夜が更けました。

この夜に、彼女はとても大事な「名前」というものを手に入れました。



そしてその旅は幾年に及びました。ただ荒野を巡ったり、疲れて地に横たわったり。それはその星での本当の意味での最後の恋人でした。そして、その長い長い旅も終わりを迎えます。それは微かに残った最果ての地、どこにあるかも分からない遠い遠い楽園の入口、そして、その罪を償うべき場所。


崖にはただ立て札が一つだけ。「汝が罪を〔解読不能〕。」その立て札の文字はもはやほとんどが解読不能でしたが、少女はそこの立て札を見た途端、自分の中に何かが流れ込んでくるのを感じました。それは温かく、でもどこか悲しい真実(きおく)でした。彼女が知ったのは自身の生まれた理由、そしてその罰の真実。


ひとつずつ話しましょう。彼女の生まれた理由、それは人の罪滅ぼしでした。彼女は言わばスケープゴートというもので、彼女は冤罪によって堕とされた天使でした。


それは天の神々の過ち、彼女の姉の欺瞞によって、彼女は冤罪を受けることになりました。その時に天使としての力と記憶は無くなりました。その時点で1度彼女は死んだと言えましょう。ですが当時の愚かな人々は彼女の躯を見て、

「この子に我々の罪を被せよう。そうして我々は繁栄を謳歌しよう」

そして彼らはそこに見せかけの魂を捩じ込みました。その時点で彼女は罪を背負うことは決まっていたのです。


それでも、彼女はただその日まで、人として、できる限り人として生き続けました。そしてやってきたのは「罰」、それはただ彼女に罪を着せた者どもへの天罰、それは冤罪で彼女を殺した神々の罪滅ぼしだったのです。


けれどそこで神々は再び過ちを犯しました。それは彼女が生きている限り、人間らの罪は残るということ。そうである限り、この地に新たな生命は生まれない、それを彼女は今ようやく知ったのです。


それは同時にイオにも伝わったのでしょう。彼が口を開くまもなく、彼女は寂しげに微笑んでこう言いました。

「ああ、私もようやく『人間』になれたのかな。私と君との旅は、ここで終わってしまうのでしょう、でもきっと誰かが知っている。だから泣かないで、君は、これから奇跡を目の当たりにするから。」

そうして、少女はその崖から身を投げました。なんの躊躇いもなく、軽やかに、その崖から飛び降りて行ったのです。


そして私は膝から崩れ落ち、泣いているだけでした。堰を切ったように涙は止めどなく溢れてきます。


どれぐらい時間が経ったでしょうか、やがて涙は枯れ、私は立ち上がり、その崖に背を向けて歩き出すと、そこに元の荒野はなく、一面の真っ白なスノードロップの花畑に真っ白な鳩たちが遊んでいるようでした。ふと顔を上げると、遥かな空から、しんしんと雪が降ってきました。私ははその景色をいつまでも、いつまでも見ていました。


それから、私はこの物語を綴りました。けれど、誰かに読んでもらうつもりはありません。私は彼女が身を投げた崖に、彼女への手向けとして、その物語を綴った1冊の本と一束のスノードロップの花を投げました。ふと、足元を見てみると、そこには手のひらぐらいの大きさの雪の華が落ちていました。それはきっと彼女が最期に残したものなのでしょう。


その雪の華は、今なお融けることはなく、それを見ると、幾度となくその物語を思い出させます。その度にどうして自分はあそこで彼女と一緒に堕ちていかなかったのか、それを悔やんでしまいます。でも、そう思う度、心の中にあの少女の声が

「君は生きていくべき人、その物語を受け継ぐ者が現れる日まで。」

と語り掛けてくるのです。そうして、私はその崖に彼女の墓を建てました。私の罪のせめてもの償いとして。

でも、あの黒い人はなんだったのだろう、あれは...「罪」そのものなのかもしれない......


いつかその身は泥土に帰し、その地の上にやがて生命は息吹く。

幾千、幾万、幾星霜経とうとも、私はその跡を守りましょう。

「それでも─。」

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