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本多忠勝は殿のすべてを守りたい  作者: 青メダ
【番外編2】
20/32

その男忠犬につき⑤

「ど、どうしましょう!?」

「振り払え! もっとスピードをあげろ!」


 家康の左隣の男が叫ぶと、運転席の男はググッと思いっきりアクセルを踏み込んだ。車窓の外の景色が、あっという間に一瞬で流されていく。

 ひいっ。

 運転席の男が悲鳴を上げた。

 バックミラー越しに見える顔が、蒼褪めている。


「撒いたか!?」

「だ、駄目です。ぴったりくっ付いてきます」

 

 どんなにスピードを上げても、車の横にぴたりとくっ付いて並走してくる大型バイク。

 運転しているのは、体型からして男のようだった。

 バサバサと風に靡く黒いコートの下に、黒いスーツを纏った黒ずくめの男だ。こんなバイクスタントのような真似をするには、不釣り合いなそんな恰好だった。

 瞬間、バイクから男が消える。

 乗り手をなくしたバイクはぐらりと左側に反れたかと思うと、あっという間に車窓から消えて見えなくなった。 


 ドンンンンッッッ。


 家康と左右の男達の頭上に、鈍い音が響いた。


「なんだあっ!?」


 男たちの叫びは、もはや悲鳴に近い。


 ドッッ、ドカッ、ドカンッッ。


 間髪入れずに車の背の部分から聞こえてくるのは、衝撃音。


「何か、乗ってる……?」

「おいっ、上にいるぞ!振り落とせっ」

 

 車体が左に右に、ジグザグと走行する。だが、頭上から響く鈍い音は鳴りやむことがなかった。


 ドカッ、ドコンッ、ベキ、ベキベキィィッ。


 車の天井部分が、ボコリと歪んだ。


「ひっ、ひいいっっ」

「うわああああ」


 凄まじい音を立てて、天井部分が凹んでいく。

 家康が頭上を見て、目を細める。


「これは怒っておるのう」


 車内の男たちに、家康の言葉は届かない。ありえない未知との遭遇に、すっかりパニックになってしまっている。


「ててて、天井が」

「止めろ!いいから、車を止めろ!」

 

 車内の指示を受けて、車が急停車する。

 急な停車を受けて、前のめりになる体。バフンッと音を立てて、前の座席に家康のおでこが埋もれた。


「痛……」

 

 さすさすとおでこをさする家康。

 男たちの狂騒に比べて、彼はいたって冷静だった。

 家康の左側に座っていた男が、外に飛び出ようとしたのだろう。焦ったように車内のドアに手を掛けたかと思ったら、「ひっ」と小さな悲鳴を上げて手を引っ込めた。

 

 ガコッ、ガコンッッ、ベキベキベキィィ。

 

 日差しが射し込んで、一気に明るくなる車内。

 ロックされていた鉄のドアが、外側から無理やりこじ開けられたのだ。

 ぬっと手が伸びてきて、家康の左側で震えていた男の体が宙に浮く。と思ったら、そのまま車外へ放り出された。

 続いて、ぬうと入ってくる良く見慣れた顔。


「殿」


 夜の闇より深い黒い瞳が家康の姿を捉えると、ほっとしたように僅かに細められる。


「殿、怪我は?」


 心配そうに問うその声はどこか甘さを含み、とても今重い鉄製のドアを無理やり壊した人物のものだとは思えない。

 家康は問題ないと首を横に振ると、人差し指を男の背後に向けた。


「儂は大丈夫だ……それよりいいのか? 逃げるぞあいつら」

「あ」

「行け、忠勝」


 忠勝と呼ばれた男が黒いコートを翻し、標的を追って走り出した。

 男たちの悲鳴が、遠くから聞こえてくる。

 先程、忠勝の手により車外に連れ出された男、家康の右隣に座っていた男、運転席の男がそれぞれ隙をみて逃げようとしたのだろう。車外では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられている筈だ。

 あいつから逃げられる人間なんて、この世にいる筈がないのに――家康がうっすらと微笑んだ。


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