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おばかなわんこ④ ~洗われるわんこ~

 嫁が服を脱ぐ間、ガン見してしまった。


 なにも悪いことはしていない。

 なぜなら、私は、子犬。


 なんなら、鳴いてやるし、お手もしてやるし、伏せだってしてもいいし、待ても、お座りだってしてやる!


 私。今、子犬。

 だから、問題はないのだ。


 問題は……。


「さあ、洗ってあげるね。わんちゃん」


 全裸の嫁が迫る。

 私は仰け反って、背面に倒れそうになるところを、嫁の手にすくわれる。


 ……人間でなくて良かった。


 人間だったら、速攻でアウトだ。


 私は自分に暗示をかけることにした。


 私、今、純粋な子犬!

 子犬!!


 そんな私の決意を砕くのは、嫁の胸。


 嫁、私を大事そうに抱っこしてくれる。

 優しい。優しいが……。


 嫁、おっぱい。

 でかい。


 私、今、そんな嫁に抱かれている。


 言葉も出ない。

 がっ、これだけは確信する。


 私、嫁、大好き。

 脳みそ、溶けそうなぐらい、好き。


 今なら、お手も、伏せも、待ても、なんでもする。

 仰向けになって、腹見せて、くんくん、鳴くでも何でもする。してって言われたら、なんでもしちゃう。


 嫁、私は、なんでもするぞ、嫁よ。


「きゅーん、きゅーん」


 好きって言いたいのに、声が出ない。

 胸いっぱいで、高い鳴き声しか出てこない。


 でも、嫁、それで嬉しそう。

 嫁、喜んでいると、私も嬉しい。


「可愛いね。甘えているの、わんちゃん。よしよし」


 好き。

 嫁、好き。

 大好き。


 馬鹿になったと思われたってかまわない。

 子犬になって、着やせする巨乳美少女に拾われて、餌付けされて、一緒に風呂なんて状況になったら、狂って当然。

 しかも、私の嫁確定。

 

 嫁だもの。

 子犬だもの。

 犯罪じゃない!


 嫁の胸ぴとっと張り付く。

 私は嫁に抱かれて、風呂場へ向かう。

 至福。

 これぞ、この世の最上の至福なり。

  

 風呂場に入ると、嫁は器用にも私を抱きながら、桶に湯を張った。

 私はまた、その桶の中に入れられる。


 大丈夫。

 私は獣人、風呂も石鹸も慣れている。

 嫁よ、洗ってくれるなら、存分に洗ってくれ。


 しゃがんだ嫁が、備え付けの石鹸を手に取り泡立てる。

 その泡を私の身体に丁寧になでつけ、さらに泡立ててくれた。

 毛にこびりついた泥は、指先で丁寧にほぐしてくれる。

 

 嫁、仕事、丁寧。

 

 時折、撫でながら、残った泥はないかと確認しながら、洗ってくれる。

 こんな風に優しく撫でられて、惚れない子犬はいない。


 嫁、好き。大好き。


「きれいになるの、嬉しいの」


 嬉しい。嫁に洗ってもらえるから、なお嬉しい。


「可愛い子ねえ」


 可愛い子犬が好きなら、ずっと可愛い子犬でいてもいい。 

   

「ああ、尻尾ふらないで、石鹸水飛んじゃうから。お湯かけるからね。じっとしていてね」


 任せろ、嫁。じっとしてろだな。


 私は動かずに、目を瞑った。

 体中を撫でるようにお湯をかけられる。

 嫁の手が毛並みを撫でて、泡を洗い流してくれた。


 外で水で洗われた時に残っていた僅かな泥もお湯と石鹸で綺麗になる。


 久しぶりに、私はすっきりした。


 お腹もいっぱい、お湯にもつかり、最高だ。

 しかも、甲斐甲斐しい嫁付き。

 

 言葉もない。


 卜部の神言よ、これは私の人生最高の予言ではないか!


 その後、嫁も髪と体も洗った。

 少々目のやり場にこまったものの、湯けむりでぼんやりとしか見えない。


 洗い終えた嫁が、桶の水を流し、桶ごと私を持ち上げ風呂のすぐ脇へ置いた。

 

 嫁は湯につかり、もう一つの桶を手にすると、湯をすくい、私にかけてくれた。あったかくて気持ち良い。


 嫁は風呂の縁にもたれかかり、私を眺める。

 私も嫁から目を逸らせない。


「きれいな子犬ね。

 お風呂にも慣れていて、とても野良犬とは思えないわ。警戒心も薄いし……。

 首輪はしていないけど、やっぱり、どこかで飼われている子よねえ。

 昨日の雨に紛れて、迷子になってしまったのかしらね」


 嫁探しで、街に放たれた。

 れっきとした、隣国の第二王子だ、嫁よ。


 嫁の手が伸びて、私の頭を撫でる。

 嬉しくて、尻尾を思いっきり降ってしまった。

 水しぶきが飛んで、嫁が「きゃっ」と驚く。


 あっ、ごめん。

 

 私は耳を垂らし、ごめんねと鳴く。


「きゅーん」


 嫁は怒らず、笑ってくれた。

 その上、撫でてくれる。


「大丈夫よ。ちょっと驚いただけだからね」


 嫁、優しい。


 しばらく湯につかっていた。嫁は、何度か私にもお湯をかけてくれる。

 

「さあ、そろそろ。あがらないとね。ちょっと待っていてね」


 そう言うと、嫁は湯船のなかを歩き始めた。

 そして、戻ってくる時に、手には何かが握られている。


 それはなに?


 と、見ていたら、嫁が教えてくれた。


「これはお風呂の栓だよ。これを抜くと、お湯が流れていくの。

 これで、私の今日の仕事は終わりよ」


 そういうと、ざばっと湯から嫁が立ち上がった。


 その姿に、言葉もない。


 さらに、嫁は私を抱きあげると、脱衣所に向かう。


 改めて、私は嫁が大好きだと確信した。


 タオルで体を拭いてくれる。

 嫁も体を拭いて、服を着た。


 今度は、タオルをまいた私を抱っこして、嫁は風呂場を後にした。

 廊下を進み、とある部屋へと入る。


 部屋に入ると嫁は言った。


「どこぞで飼われていたなら、きっと飼い主も心配しているわね。明日、一緒に飼い主を探しに行きましょうね」


 嫁、優しい。

 おもわず、嫁の胸をぐっと押して、私は身を乗り出した。

 風呂上がりの上気した嫁の頬を、ぺろりと舐める。


「私の言葉、分かるの? あなた賢いのね」


 抱きしめてくれた嫁が頬ずりしてくれた。


「きゅーん」


 大好き。

 嫁、好き。


 体中で好きって言いたい。

 

 嫁に体をすり寄せて、私は全力で嫁に甘えた。




 しばらく、抱擁してくれた嫁に、床に降ろされる。

 嫁からみたら、抱っこしていた子犬を降ろしたに過ぎない。

 体に巻き付いたタオルを引き抜いいてくれた。

 

 自由になった私は嫁の足にまとわりつく。

 

 やはり、もっかい抱っこしてほしいから。


「ちょっと待ってね。今、寝間着に着替えるから」


 着替える?

 嫁、今何と言った。


 着替えると言ったか。


 未来の婚約者とはいえ、早々にそんな着替えなど……。


 って、私、今、子犬。


 問題なし。

 一緒に風呂にも入った仲だ。 

 

 子犬だけど。


 小さいことは気にしない。

 

 着替えたら、また抱っこしてほしい。

 抱っこして、抱っこして。

 甘えるように、嫁の足にまとわりつく。


「だめよ。わんちゃん。着替えるんだから、ちょっと待っててね」


 ん-っと嫁が考える仕草をする。


「もしかして、出来るのかな?」

 

 呟いたかと思うと、私に向かって、ぴしっと言った。


「待て!」


 はい。待ちます!



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― 新着の感想 ―
[一言] まったく度し難いわんこだ……。 主人公は災難(?)でしたね。
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