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3:どこを見て、責任をとると言うか!

 王子のケモ耳と尻尾が何よりの証拠とばかりに、納得した騎士達は「おめでとうございます。殿下」と、声を揃えて最敬礼。

 キース王子は満足し、王への謁見を求める。


 魔法使いに衣装をドレスに変えてもらっていなければ、私は立っていられなかっただろう。こんな煌びやかな、正当な場に、寝起きの衣装のまま立てる程、私に度胸はないわ!


 伝達のために騎士達は数グループに分かれて、散っていった。


 残った二人の騎士に、私たちは別部屋へ案内される。応接セットが中央に置かれた、調度品と絵画に囲まれた談話室だった。


 程なく侍従がやってきて、朝食は食べているかいないかを聞かれ、まだであることを知らせると、ご用意しますと去っていった。

 続いて、文官がやってきて、要人が登庁してくるにはもう一時間はかかるため、食事をして待っていて欲しいと言われた。

 文官が出ていけば、侍女がワゴンを持ってきて、私たちの目の前にあるローテーブルに朝食を並べて、出ていった。


 目まぐるしく変わる情景に、呆然としていた私も、香しい朝食の香りに、正気を取り戻した。


 キース王子はさも当然とという顔で私の隣に寄り添うように座っている。


「良かったね、軽食を用意してもらえて。僕も、人間らしい食事は久しぶりだ。

 空腹というスパイスがきいた昨日のハムにはかなわないけどね」


 どかんと頭上に雷が落とされた。

 私は昨日、子犬にあげたのは、ハム。しかも、残飯込み。


 私の唇が恐怖で震える。


 どうしよう。知らないとはいえ、隣国の王子様に、残飯を与えていたなんて。普通に考えたら、不敬罰ものじゃない!!


「……ごめんなさい。昨日は、その……、知らなかったとはいえ、私、あなたに残飯をあげてしまって」

「気にしないで、助けてくれたのは変わらないもの」

「あれは残飯よ。食べ残しよ。普通なら……、許されないわよね」

「んっ~。非常時だからね、問題にする方が可笑しくない? そもそも、私の行動は国の卜部が示した行為だもの。そうすることで、アリスと出会える運命は予言されていたんだから、どこにも問題はないんだよ。

 本当に、あのハムは美味しかった。私の一生涯の好物になる。なにせ、アリスが最初に私にプレゼントしてくれた品だものね」


 キース王子は朗らかだ。

 片や私は、場の変わりように怖気づいて、どうしていいか分からない。いきなりお城に飛ばされて、泡をふいて倒れなかっただけでましだわ。


 イチゴを手に取ったキース王子は私の口にきゅっと押し当ててきた。


「まずは食べてからだよ。もうすぐ王や国の要人との会談も始まるからね」


 ひいい!

 私はイチゴで塞がれた口の中で悲鳴をあげた。





 少量しか朝食は喉を通りらなかった。キース王子は「少食だね」と言って笑うけど、こんな状況では食べ物なんて喉を通らないわ。


 一時間後、食事が片づけられ、文官が迎えに来た。「準備が整いました」と再び別室に移動する。

 案内されたのは、会議室。

 すでに要人が何人も座っていた。

 キースと私に、寡黙な魔法使いが現れると、彼らは立ち上がり、拍手と祝いの言葉を投げかける。キース王子は慣れたように、片手を振り、ありがとうと応じるものの、私はそれどころではない。

 

 まるで、罪人が法廷に裁かれに行く気分。

 

 私は一学園生であって、逆立ちしたって、国の中枢を担う人々と顔を合わせる立場ではないのよ。


 しかも、私の真正面に座るのは王様。

 王直々に尋問を受けるの!?


 円卓の一人が立ち上がった。 


「彼女は、アリス・パーセル。子爵家の長女にして……」


 とうとうと私のことが語られてゆく。この短期間で詳細に調べられた内容に度肝を抜かれた。


 ほんの一時間で私のことを調べ上げているというの!?


 何がどうなっているのか分からず、隣のキース王子を見ると、彼はすぐに私の視線に気づきほほ笑んだ。


「心配しないで、今日、君が学園を休むことももう伝達済みだから」


 そんなところまでフォローされていることにあんぐりと口を開けて、声も出ない。

 一体どこに、そんな下準備をしている時間があったのかも分からないわ。


 私の紹介を終え、立っていた男性が座ると、話し合いが始まった。

 

 子爵家のご令嬢をそのまま隣国に嫁がせえるわけにはいかないとなり、ならば、子爵家に支度金を払い、それ相応の侯爵家以上の貴族に養女することで話が一致した。

 宰相は、平民や奴隷でなく良かったと胸を撫でおろしていた。

 嫁入りに際しての持参金や嫁入り道具は国庫から準備することも確認し合う。

 ほとんどの話はスムーズに進み、おおよそ、花嫁が決まったうえでの最後の確認を行っているようであった。


 私のことなのに、私抜きで話が進み、至れり尽くせり、外堀が埋められて行く。

 私はたまらず、授業で発言する要領で、手をあげた。


「はい! 言いたいことがあります」

 

 円卓を囲む人々が一斉に私を見た。

 その目に晒されて、一瞬ひるむ。

 でも、負けてられない。 

 ここで、気後れしててはならないわ。

 言いたいことは言わないと。

 なにせ、ここで話し合われているのは私の未来なんだから。私の未来に私が参加しないでどうするというのよ!!


「私は、まだこの話に了承しておりません」


 発言した瞬間に、場がしんと静まり返った。

 当たり前のことを言ったつもりが、周囲は目を丸くして、なにを言っているんだこの娘は、という目で見てくる。


 なんでこんな目で見られなくてはいけないの!


 腹が立ってきた私は、立ち上がるなり、両手で机をばんとたたいて、要人たちをぐるっと見渡し言い放った。


「私は、キース王子と結婚するなんて了承してませんから」


 いっそう静まりかえった室内。

 突如、キース王子の笑い声がこだました。

 私は王子を睨みつける。


「なんで笑うんですか」

「アリス。僕が渡来する予定は一月前から広く知らしめられていたはずなんだ。その時に、目的は花嫁探しであり、花嫁として選ばれた者は、必ず嫁ぐことというお触れが出されていたんだけど、知らない?」

「知らないわ! 

 だって、その頃は、学園に残って、寮から追い出されないための交渉に明け暮れていたんですもの」

「ああ、なるほど。

 だから、花嫁に選ばれた者に拒否権なし、という勅令を知らなかったんだね」


 なんですと!

 私に拒否権はない、と!!


 キース王子も立ち上がる。

 背の高い彼が私の目を見つめた。

 綺麗な尊顔にドキリとする。


 彼の視線が下に落ちる。それはちょうど、私の胸回りを捕らえた。


「(肉球で)触った責任はちゃんととるから」


 どこを見て、なにを言っているのよ!


 

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[良い点] これでタイトル回収てすね。
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