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2:花嫁を見つけたって……私?

 私が昨日一緒に寝たのは子犬のはずよ!

 なんで、ここに、こんなに綺麗な男の子が寝ているのよ!!


 朝日が透けて、青い光沢を放つ短めの黒髪。ケモ耳も同色の艶やか毛並み。ふさふさの尻尾も、掛布から伸びる足に絡みついている。


 私が拾ってきた可愛い子犬はどこにいったの。

 ベッドの上には見当たらない。ベッドの下を覗いても、落ちた形跡もない。


 すやすやと寝ている男の子は私の叫び声にも動じずに、コロンと寝がえりをうった。


 これはいったい、どういうこと!


 どんどんどん。部屋の扉が激しく叩かれた。


「どうしたの、なにがあったの!!」


 寮母の声。誰かが、私の悲鳴をききつけ、呼んだのかもしれない。


「なんでもないです。夢にびっくりしただけです」

「本当に、夢」

「はい、夢です。ご迷惑かけて、ごめんなさい。着替え途中なんで、すいません」

「わかったわ、なにもなくて良かったわ」


 そう言うと、寮母が去っていく足音が聞こえた。


 見られずによかった、ばれずに良かった。

 私は、ほっと胸を撫でおろす。


 深呼吸を二度繰り返した。


 掛布を胸に引き寄せる。何もなかったとはいえ、男の子と目覚めが一緒なんて、どう言い訳したらいいの。


 寮に、知らない男性を連れ込んだと思われてしまう。それじゃ、規則違反にもなるじゃない。ただでさえ、無理してここにいるというのに!

 私が、こっそり連れ込んだのは、子犬であって、男の子じゃないのよ!!


 どうしよう。

 どうしたらいいの。


 おろおろしていても、仕方がない。私は、とりあえず、男の子に声をかけることにした。


 肩に手を添えて、ゆっくりと揺さぶる。


「ねえ、起きて。あなたは誰。どうして、ここにいるの。私が昨日拾った子犬はどこに行ったの」


 すると、今度は、こんこんと窓が叩かれた。


 びくんと体が強張る。恐る恐る窓辺を見ると、カラスが窓ガラスをつついていた。


 なんで、ここにカラス?


「ふあぁ、もう、朝なの。ああ、久しぶりのベッド。おかげで、ゆっくり寝れた」


 男の子が、うーんと背伸びをして、体を起こした。胸にかかっていた掛布が腰あたりに落ちる。


 この子、裸!


 私は身を反り返し、声も出せない。唇が上下に震えた。口元まで掛布を引き寄せた。


 男の子は、にっこりとほほ笑む。


「おはよう。昨日は、助けてくれてありがとう」


 なに? なに?

 私は子犬を助けたのであって、男の子を助けたわけじゃないわよ。


 こんこん。

 再び窓をカラスが叩く。男の子が窓辺に視線を送る。


「ごめん。あれは、僕のお目付け役なんだ。どうか、開けてあげてほしい。今の格好だと、窓辺に立てないんだよ」

「……。窓を開けて、あのカラスを呼び入れたら、どうしてあなたがここにいて、子犬がいなくなったのか、教えてくれるの」

「うん。すぐに教えてあげれるよ。秘密ではないからね」


 男の子が再び私に微笑みかける。笑みを湛えた瞳は、ヒマワリのように黄色かった。


 事情を知るため、私は窓を開けた。

 カラスが部屋に飛び込み、旋回したと思うと、ふわっと光り、人型に変化した。


 人間になった!!

 私は目を丸くして、一連の変化に見入ってしまう。


 数枚散ったカラスの羽が衣類に変化し、黒いひらりとしたローブに変わる。床に音もなくおり立った時には、装飾豊かな漆黒のローブを纏い、身長より高い大きな青い石を備えた杖を持つ高位の魔法使いがそこにいた。

 

 魔法使いが杖を一振りすると、掛布が浮きあがった。裸の男の子は光に包まれ、私はその光に目を瞑ってしまう。

 光が収まり、目を開けたら、今度は信じられない光景が広がっていた。


 高位の魔法使いは跪き、頭を垂れている。

 

 男の子はベッドの脇に立っていた。

 ピンとたったケモ耳と、ふさふさの尻尾は変わらない。ただ服をきていた。

 それも、濃紺の正装。これから、舞踏会に参加するか、王様に謁見に行くかのような立派な身なりだ。


 私は腰を抜かし、床にへたり込んでしまった。


 男の子はゆっくりと私に近づき、目の前に膝をつく。


「昨日は、助けていただきありがとうございます。

 私は、隣国より花嫁を求めて、この国を訪れた者です」


 まさか、それって……。

 それって……。


「隣国の第二王子。キース・アシュクロフトと申します」

「隣国……、王子様……、まさか、まさか……。あなたが、噂の花嫁探しの隣国の王子様」

「はい。昨日は助けていただきありがとうございます。最初に助けてくれた娘が花嫁になる、という卜部うらべ神言かむごとに従い二日前よりこの国に獣の姿で入り込んでいました。

 まさに昨日、雨にうたれ、飲まず食わずで行き倒れかけた私を助けてくれた、あなたこそ、私の花嫁。

 恐れ入ります。

 獣の姿では名を聞けず、改めてお伺いしたい。

 あなたの名は?」

「私は……、アリス……。アリス・パーセル、です」


 流されるままに応えてしまった。

 キース王子は、満面の笑みを浮かべる。


「さあ、我が花嫁。

 これより、王に、婚約結婚の了承を得に行きましょう」


 キース王子は私の片手をとり、手の甲にキスを落す。

 背後に立った魔法使いが、杖を一振りすると、私の寝衣が光りだし、生地が伸び、光沢を放ち、つつましやかなドレスになった。


 魔法で衣装が変化したの!?


「よく似合っているよ、アリス」


 キース王子は私の手を取り、立ち上がるように促す。

 呆気にとられる私は、導かれるまま、立ち上がった。

 彼の両手が私の両手を包みこむ。


「この国の王にご挨拶にいきましょう」

「ご挨拶って……」

「あなたをもらい受ける挨拶に決まっているではないですか」


 待って、待って、待って。

 なにを言っているの。


 私はこれから、学園に行って、授業を受けて、いつも通り、半年後の卒業のために、頑張って、寮費を稼ぐため、働いて……。


 王子の背後で、魔法使いが杖をもたげ上げた。


 すると、私たちは一気に光に包まれる。


 眩しさに目を瞑り、光が消えてから、恐る恐る目を開ける。


 すると、そこは、私の部屋ではなかった。


 二階、三階までぶち抜いたような、高い天井。

 絢爛な壁面装飾は天井細部まで施されている。

 二階部分にぐるりとまわる回廊。

 正面には、玉座がある。


 まさか、まさか。


 あわあわして、私の手を握るケモ耳付きのキース王子を見た。彼は大丈夫とほほ笑む。


「何者だ!!」


 腰に剣を佩く騎士達がわらわらと集まってきた。

 私は、ひっと恐れを抱き、肩が竦んだ。

 すかさず、その肩をキース王子が抱く。


「大丈夫、安心してて」

 

 彼が耳元で囁くと、魔法使いの恫喝が飛んだ。


「控えろ!

 こちらは、この国に花嫁を求めに来た隣国の王子。

 キース・アシュクロフト様であらせられるぞ」


 


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