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βでもΩでもない異世界人の私がαの元英雄様と逃亡中  作者: 蔵前
鏡を抜けたここはオメガバースな世界だった
3/10

結婚はできないけれど

「俺の名前はカヴェだ。」


「壁?名前通りね。」


 カヴェは嬉しそうに微笑んだ。

 この世界ではきっと肉体の剛健さこそ必要であるだろうから、壁のようにと親もきっと考えて名付けたのだろう。


「お前は?」


真音鈴まねり。」


「名前通りだな。お前は俺によって召喚された。マネリとは私の為に滞在という意味だ。名前通りだ。」


「うわ、皮肉なめぐりあわせ。でも、真似っこって揶揄われるよりはいいわね。うん。私はそれで人と違う事を目指したから結果としては悪くはなかったかも、だけど。」


「それはない。揶揄われて傷ついたなら、それは良い事じゃない。だが、それで頑張れたなら、揶揄った奴じゃなくマネリを沢山褒めればいい。」


 カヴェ、凄く良い奴だ。

 全裸状態の私にただでさえ半裸の自分の布をくれたし、お腹が空いていないかと、自分の少ない食料だって差し出そうともしてくれたのだ。

 私をこの世界に引き込んだという点が無ければ、物凄く惚れていただろう。


「マネリ、それでだな。」


「何か気が付いたことが?」


「君が言った舐めると中出しは、俺にするつもりだったのか?」


「うわあ。記憶力いいな。」


「それはいつでもしてくれて構わない。」


「いや、構えよ。初対面でしょ?私は見ず知らずの男の人に誘拐されて、ギリギリの状態だったの。解放してくれるなら何でもするっていうものでしょう?」


 カヴェは考え込んだ。

 それから顔をあげると素晴らしい笑みを私に向けた。


「君は俺を逃がす。俺と君はそれをする。そして俺は君を元の世界に帰す。それは素晴らしい計画だと思う。」


「お前にはな!それ私苦労ばかりね!」


「何を言う。俺は上手いよ?マネリは確実に天国に行けるね。それに、俺と君はちゃんと離れ離れになった方がいい。俺は君を妻にできない。」


「でもやると。」


「俺はマネリが気に入った。マネリも俺が気に入った。やるのに問題が?」


「結婚してくれない人とやりたくない。」


 カヴェは異世界の価値観で話しているだけで、私を傷つけようとは思ってはいないはずだ。

 でも、婚約破棄というか、結婚詐欺にあったような私には、結婚を考えていないけどやりたいと言われるのは辛いどころの話じゃない。


「すまない。俺は気に入った人間には誠実でいたい。俺はアルファなんだ。」


「えっと、意味が分かんない。」


「女と男以外に、アルファとベータとオメガという三つの性がある。ベータはその性に影響されないが、アルファとオメガは互いに引き合う。それが男と男でも女と女でも、アルファとオメガだったら磁石みたいにくっついてしまう。」


「だから、結婚できない?」


「俺はアルファだ。つがいとなれるのはオメガだけ。番じゃない相手と結婚した場合、番相手が現れれば確実に裏切ることになる。勝手に引き合うんだ。また、最近オメガのフェロモンに抗えないことも俺は知った。結婚相手を苦しめる結果としかならないのだから俺は結婚できない。」


「でもやると。」


「結婚は出来なくとも思いは遂げたい。そういうものだろう?」


 カヴェの目は私を真っ直ぐに見ていた。

 俺を信じてくれ。

 うん、やり捨てるの決定、その気持ちに嘘偽りがない事は信じた。

 でもって、やるやらないは置いておいて、とにかくカヴェをここから逃がすことを考えねば私の明日こそない。

 戻っても私に明日は無いが、命を失うことは無いだろう。


「ねえ、カヴェ。首輪の鍵は誰が持っているの?」


「もちろん牢番だ。処刑場に着いた先でこの鎖は外されるそれまでこのままだ。」


「ええと。トイレは?」


「トイレ?」


「あの、おしっことか、便とか。」


 カヴェは皮肉そうに笑った。

 物凄く自嘲するような笑い方。


「小便は檻の間から出した。便もな、まだもよおしてはいないが、出たら檻の間から外に出すことになるのかな。情けない話だ。」


 私は自分がいざその状況になったらを考えて、絶対に無理だと悲鳴をあげそうになった。


 ここから出られなきゃ私は人間の尊厳を失ってしまう!


 私は両手でカヴェの両肩を掴むと、グイっと彼の上半身を前のめりにした。

 鎖はカヴェが真っ直ぐに立てないような長さ、約一メートルほどか。

 それでもってこの材質は鉄?銅?アルミニウム何てことはないだろう。


「何か思いついたのか?」


「無理かもだけど実家の犬が逃亡した方法を使ってみる。何か引っ掛けられるでっぱりはここには無いかしら?」


「でっぱり?」


「鎖の輪っかをひっかけてね、すぐ次の輪っかをひたすら回すの。そのうちに輪っかのつなぎ目が広がるから。」


「ああ、わかった。君の犬は賢いな。」


 カヴェは自分の鎖を掴むと、檻の出っ張りに鎖の輪の一つをひっかけた。

 そして、彼はぐりぐりと鎖を回し始めたのである。

 私は両手を組んで神様に祈った。

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