王都編――誘拐未遂事件③
ゼス、ジェイク、フィン、クレイの四人が馬車で出て行った。
ガルーシドが戻るのを待ち、フェルティナが会場に戻ると既に王妃とボリス伯爵夫人の姿がない。
どこへ行ったのかとフィルティーアに問いかければ、ついさきほど託けが届き帰ったと言う。
「どうして、引き留めなかったの!」
「どうしてって、引き留めたところで逃げられるだけでしょう?」
「まったく、母様は呑気なんだから!」
「あら、そんなことは無いわよ? 無理に引き留めて逃げられるより、何も知らないフリで気づかせない方がいいんじゃないかしら?」
フィルティーアの言い分を聞いたフェルティナは、ぐうの音も出なかった。
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一方、再び呼び戻されることになったガルーシドは、複数の部下を連れて戻っていた。
部下を連れてきた理由は、賊を城へ移送するためだ。
ブリジット公爵邸にも勿論、地下牢はある。
だが、私兵のみでは警備の面で不備が出る可能性がある事。
目標となったアリスが同じ屋敷内に居る事を踏まえ、城へ移送することを決断した。
ガントに関しては、ラーシュの口添えもあり後日事情聴取を行う事で決定する。
「詳しい話は後日伺うとして、ひとまずご両親の事、我ら第三騎士団に任せて戴きたい」
「はい。義父さんと義母さんを、どうかよろしくお願いします」
団長として真面目に仕事をこなしていたガルーシドが、不意に相好を崩す。
連れてきた騎士たちの間で、小さなざわめきが起こるもガルーシドは気にしない。
「おかえりなさい。おじいちゃん」
「おぉ! アリス目が覚めたか? 怪我はないか? じいじ心配だったんだぞー」
足早にアリスの元へ向かったガルーシドが、アリスを抱き上げ頬をすりすりと寄せる。
それを享受しながら、アリスは安心させるように頬実を浮かべた。
「心配かけてごめんなさい。私はもう大丈夫だよ」
「そうか、そうか! 無事で何よりだ。犯人は何としても捕まえるから、安心してばあばたちと待っておくんだぞ」
「うん。わかった」
可愛い孫の笑顔を見られたガルーシドは、崩れた顔のまま賊を振り返ると再び指示を出し始めた――。
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馬車で出たジェイクたちは、ボリス伯爵邸へ向かっていた。
焦る気持ちがあるのか、フィンとゼスは落ち着かない様子で足をゆすっている。
クレイはと言えば、御者台で鼻歌を歌っていた。
「お前たち、少しは落ち着け。そう殺気立っていては相手に気取られるぞ」
「……すみません」
ジェイクの指摘を受けたゼスは、窓の方へフイッと顔を逸らす。
フィンは、素直に謝ったものの気持ちはやはり焦っているのか、足の揺れは止まらない。
無言のまま時間だけが過ぎ、馬車がボリス伯爵邸まで徒歩五分の場所へ到着する。
扉を開けたクレイが、ニヤリと笑い「着いたぜ」と報告した。
「あぁ、では行こうか」
ゼス、フィン共に、頷くことで了承を返すと立ち上がる。
クレイが先頭を走り、ボリス伯爵邸を目指した。
入口が目視で確認できるようになった場所で、ジェイクが足を止める。
振り返ったジェイクは、フィンとゼスを指さし裏へ回るよう指先を使い指示を出す。
それに頷いたゼスとフィンの二人が裏口へ向かい走っていく。
その背中が見えなくなると同時に、クレイと頷き合ったジェイクは表門へ向かい走った。
日が傾き、空をオレンジ色に染めている。
あと一時間もすれば、日は沈むだろう。
夜になり忍び込むことを考えたジェイクだが、一時の猶予もないと考えなす。
周囲を見回したジェイクは、表門の右側に細い通路のような路地があるのを発見した。
そちらの道へ入るようクレイに指示を出す。
頷いたクレイが路地に入り、ロープを繋いだ鉤づめを取り出す。
ジェイクは路地入口で、他に人が来ないかを見張っていた。
その時だった。
ジェイクの眼前にユーラン、フーマとアリスが名付けた精霊たちが現れたのは。
驚き声を出しかけたジェイクは、なんとか声を呑み込む。
『フーマ、手伝ウ。アリス、頼ンダ』
『ボクもいるよ~。ジェイク、心の中で言葉話してね。ボクたちが、四人を繋ぐから』
ポンと音を立てユーランが、その場から消える。
『父さん、聞こえてます?』
『あぁ、聞こえている。ユーラン様、フーマ様、ありがとうございます』
『フーマ、ココイル。助ケル』
『ボクは、ゼスの方にいるよ~』
役に立てたのが嬉しいのか、精霊たちの声は明るい。
『じいちゃん、入るぞ!』
『分かった』
ロープを引っ張り、柵の強度を確認していたクレイがジェイクに声をかけ軽業師のように軽々と登っていく。
それを見送ったジェイクは、自分もロープを掴み登る。
ジェイクたちが敷地内に入ると同時にフィンが、裏口を開けてくれと頼む。
それに答えたクレイが、足音を立てず走り去った。
『フーマ様、この屋敷に何人居ますか?』
『人、二三人、居ル。一階、一番、多イ』
『偉そうに座ってる男、女。それと武装した人が二階の大きい部屋に五人いるよ~』
『お二方ともありがとうございます』
礼を言いつつ、ジェイクは作戦を立てる。
二階の大きな部屋に居るのは間違いなく、ボリス伯爵夫妻だろう。
近くに居る五人は護衛だ。
さて、どうしたものかとジェイクは顎を撫でる。
そうして、一つの作戦を思い立つ。
『ゼスとフィン、クレイはそのまま裏口から入れ』
『父さんは?』
『表から扉を破り入る。クレイは一階表で待機。二階には、ゼスとフィンで上がれ。私が突入して騒動になったら、その隙に捕らえろ。いいな?』
『はい』
『生死は問わん。ただし、ボリス夫妻だけは生かせ!』
大まかな作戦を手短に伝えたジェイクは、ゆっくりと歩む。
両開きの扉を前に、一つ息を吐き剣を抜いた。
『いつでもいいですよ』と言うゼスの合図と同時に、剣を振り上げた。
数舜の間を置き、轟音を立て扉が木っ端みじんに崩れる。
パラパラと舞う木屑の中、ジェイクは獰猛な笑みを浮かべ屋敷へと突入した――。
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