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王都編――精霊の贈り物

 アダマンテル商会でラーシュと再会したアリスは、店内を見せて貰うことになった。

 ゼスは少しラーシュと話があると言う事で、フィンとクレイと三人で見て回る。


「お、アリス。こういうの似合うじゃないか?」


 クレイがアリスの頭にゴテゴテの宝石が付いた髪飾りを当てる。

 

 これは、絶対に似合わない。と言うか、重すぎて首が動かなくなりそう……。

 

「えっと……うん。もう少し大人になってから、が良いと思う」

「そうか? 凄く似合ってると思うぞ?」

「クレイ……流石にそれは、アリスには重すぎるよ」

「なら、フィンにぃはどれが似合うと思う?」


 否定されたクレイは、フィンをたきつける。

 そして、始まってしまった――。

 兄弟による熾烈な髪飾り選びが……。

 

 いや、私別に髪飾りが欲しいわけじゃないよー? ただ、お店を見て回りたかっただけで……。

 紫色の宝石がついてるのは可愛いとは思うけど、値段が金貨七枚だよフィンにぃ!

 いや、クレイにぃ。それ金貨九枚だよ。しかも、重そうだよ!


 兄たちがアリスに見せる髪飾りにいちいち突っ込みを入れながら、アリスはほかの商品を見ていく。

 奥に近いほど高額商品が多いようで、アリスの買えそうな品物はここにはないようだ。

 

 店の入口の方へ向かったアリスは、ユーランやフーマ、ベノンと話しながらある物を探していた。

 

『こっちの方にはないみたいだよー』

『コッチ、ナイ』

『そうじゃった。アリスよ。ほれ、これをやろう』


 ベノンの口からぽとりと、アリスの掌に一粒の石が落ちてくる。

 それは、黄色をした水晶で、アリスは日差しに透かすようにしてその石を眺めた。


『うわー、綺麗……って、ん? 鑑定にイエローダイヤモンドって出てる気が……』

『うむ。人間はそう言うのを好いておるのじゃろう?』

『うむじゃない。おかしい!! この石って、物凄く高いんじゃ?』

『はて、そうじゃったかのう?』


 更に石を口から吐き出したベノンは、すっとぼけた答えを返す。

 掌に三〇個近いイエローダイヤモンドを落とされたアリスは、人に見られないよう急いでメディスンバックへしまった。


 全く……なんてことをしてくれるの、ベノンさん。

 これって、ファンシービビッドイエローとかいう部類のイエローダイヤじゃないの??

 こんな高級な物、渡されても私じゃ使いようがないよー!

 どうせ出してくれるなら屑石が良かったな……とほほ。

 

 贅沢な悩みを抱えたアリスは、がっくりと項垂れて頭を抱える。

 

 そんなアリスとベノンのやり取りを見ていたユーランとフーマが『むむ』と唸る。

 そして、二人が同時にポンと音を立てたかと思えば短い両手に、二人の宝玉と同じ色の宝石を握っていた。


『アリス、出来タ! フーマモ、プレゼント』

『ボクも~』

『ちょ、は? え?』

『おぉ、お前たちも水の石、風の石を生み出せるようになったのじゃな。それが出来れば一人前じゃな』


 はいっと渡されたアリスはお礼を伝え、二つの石を間近で見ることなくメディスンバックへしまう。


 パッと見ただけでも、かなりヤバい物であることはアリスにも分かる。

 何故なら、ユーランから貰った方は澄んだ水面のように、石の中が揺らめき輝いていた。

 一方のフーマの方は透明そのものだが、石の中が風の流れを感じさせるように渦巻いていたからだ。

 

 これのことは、報連相してからにしよう。じゃないと、立ち直れなくなりそうな気がする。

 考えるのはやめとこう。

 

 なんとかスルースキルを使い、気を取り直したアリスは顔をあげた。

 

「何かお探しですか?」

「あ、いえ……お構いな――あ、そうだ。もし良かったらですけど、レースに使えそうな糸か紐売ってませんか?」

「レースに使えそうな糸か紐でございますか……そうですね……」


 タイミングよく店員に声をかけられ、アリスは思い立つ。

 それは、今度開くお茶会のお礼にユリアにプレゼントしようと思ったレースのコサージュ。

 何故唐突にそんなことを思いついたかと言えば、フィルティーアがお茶会にお招きしたお客様には、何かしらのお礼を渡すのが流儀だと聞いたからだ。


 細いレース用の糸は、有るはず……。

 だって、レースのドレスとかあったし。

 

 店員に付いて行きながら、アリスの思考はユリアへの贈り物について逸れていた。

 

「様、お客様?」

「あ、はい!」

「こちらがレース用の糸のコーナーになります」

「ありがとうございます!」


 アリスが連れてきて貰った先は、本当にレース用の細い糸が何段にも並べられた棚が。


「うわぁ~! 素敵!!」


 テンションが上がりまくったアリスは、色々な糸の手にとっては眺め手を繰り返す。


 何色にしようかな? ユリアさんに似合いそうな色と言えば……うーん。

 ユリアさんの瞳の色は、確か朱色だったよね。

 そう言えば、この国の王族は赤だっけ? かなり王族に近い地位の人なのかも……。

 ま、いいか。詮索はやめとこう。

 それよりも、朱色かぁ……組み合わせるとしたらオレンジとか黄色とか白もいいなー。


「よし、決めた!」


 色を決めたアリスは、レース用の糸を四色選ぶ。

 ユリアの瞳の色に近い、朱色。

 他は白、オレンジ、黄色。

 レースの糸は、ひと巻きあたり銅貨二枚とかなり安い。

 他にも使う可能性があるかもしれないと、アリスはいくつかの色を選び店員に声をかけようとした。

 その時だった――。


「大人しくしろ。悲鳴をあげようものなら、その綺麗な顔に傷を作ることになるぞ?」

「……」


 いつの間にかアリスは覆面した男たちに囲まれ、一人の男に後ろから銀色の鋭利な刃物を首筋に突きつけられていた。

 助けを求めるように店内を見回した。

 そこは知っているアダマンテル商会ではないようで、まったく別の店のような間取りをしている。


 私、いつの間に? どういう事なの?

 今はそれどころじゃない! えっと、とりあえずやるべきことは……。

 

『ユーラン、フーマ、ベノンさん。いる?』

『アリス、いるけど……。ボク役立たずだよー。ごめんね……力が出ないんだ』

『すまんのう。こやつら、わしらの力を吸い取っておるようじゃ』

『フーマ、イル』

『皆、お願い。この事をお父さんたちに知らせて。お願い!』

『フーマ、動ケル。アリス、助ケル』


 フーマの気配が消えたのを確認したアリスは、何かできないかと考えながら男たちを睨みつけた――。

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