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王都編――フィルティーアの茶会

 ブリジット公爵邸の庭が来場客のドレスに彩られ、二階の窓から見るととても華やかだ。

 

「綺麗だねー」

「さぁ、アリス。パパと一緒にアダマンテル商会に行ってみようか?」

「うん! 楽しみー」


 思わぬ提案を受けたアリスは、嬉々として答える。

 そうして、アリスとゼス、クレイとフィンは、予定通りアダマンテル商会へ出かけて行った。

 

 ********


 アリスたちが乗った馬車がブリジット公爵邸を後にする。

 それと入れ違いに、王家の紋章である金の鷹を付けた馬車が到着した。

 

「ようこそお越しくださいました。王妃様」


 御者が扉を開けるのに合わせて、迎えに出ていたフィルティーアとフェルティナが頭を下げる。

 紅色に金の詩集が入った豪奢なドレスを身に着けた王妃は、出迎えた二人に視線を向け「お邪魔しますわね」とにこやかな笑顔を浮かべた。


 フィルティーアは笑顔を崩さず、会場へ案内する。

 フェルティナは王妃が到着したことを知らせ、茶会のお菓子を新しい物へと返させる。

 そうこうする内に、フィルティーアの声があがり茶会が始まった。


 アリスがシェフたちに教えたフルーツタルト、ミルク餅、サンドイッチは人目を惹いいている。

 同じものが王妃の前にも出され、彼女は珍しい菓子に舌つづみを打った。


「このタルトも色味も美しいし、卵の味がとても濃厚で美味しいわ。流石、ブリジット公爵ね」

「ありがとうございます。このお菓子は孫――」

(私の娘)の我儘を聞いたシェフの力作なんですのよ」


 フィルティーアの言葉を遮ったフェルティナがホホホと笑い声をあげる。

 王妃が次のお菓子へ手を伸ばす。

 その僅かな隙をついて、フェルティナがフィルティーアを睨みつける。

 それに片手をあげて謝ったフィルティーアは、危なかったと息を吐いた。

 

「そう言えば、一番下は女の子だと聞いたけれど、あの時倒れた子でしょう? 今日は、いないのかしら?」

「大人ばかりのお茶会ですから、今日は遠慮させております」

「そう。会ってみたかったわ。とても美しい子だと第三騎士団長が自慢していたから」

「お父様が、そんなことを言っていたんですね。もう、困ったものだわ」


 フェルティナは、愛想笑いを浮かべた。


 あれほどアリスに関しては秘密にと約束していたと言うのに、王妃の耳に入るほど触れ回っているとは思わなかった。

 後で、ガルーシドを締め上げ、これ以上余計な注目を集めないようにしなければとフェルティナは笑顔の裏で考えた。


「王妃様、お久しゅうございます」

「あら、ボリス伯爵夫人じゃないの。お久しぶりね」

「はい。ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「えぇ、構わなくてよ」


 ボリス伯爵夫人……どこかで聞いたような? 


 フェルティナがどこで聞いたかを思い抱いている間も、話しは続いていく。

 最近はやりのお菓子やら、ドレス、宝飾品について。


「そう言えば、お聞きになりまして? 珍しいお菓子が、アダマンテル商会長のご息女の結婚式で出されたそうですわ」


 未だボリス伯爵夫人の事を思い出せないフェルティナだったが、ラーシュの名前が出たことでそちらへ耳を傾けた。


「まぁ、どう言った物だったの?」

「それが、白くて大きな丸で、果物がふんだんに使われた宝石箱のようなケーキだったそうですわ」

「まぁ、それって……この()()()みたいですわね」

 

 それまで興味なさげな王妃だったが、宝石箱のようなケーキと聞いて何か思い至ったような表情で会話に参加し始めた。


 まずいわ。アリスがかかわってることがバレてしまうわ! すぐに、ラーシュさんに口止めしないと!!

 でも、どうして王妃様はアリスの事を……。

 あぁ、ダメだわ。私こういうの苦手なのよ! 

 もう、いっそのことゼスの転移で帰っちゃおうかしら? そうよ、それが良いわ!


「――わたくしもぜひ、手に入れて目にしたいものですわ」

「少し、失礼いたしますわね」


 会話の途中でフィルティーアが立ち上がり、少ししてこちらに来いと言う意味を込めてフェルティナに目配せする。

 それを見取ったフェルティナもまた、時間を置き席を立った。

 屋敷に入り、階段を登ったところでフィルティーアはフェルティナを待っていた。


「母さん、何よ。こんなところに呼び出して」

「ティナ。あなた、ゼスの魔法で帰ろうなんて考えてないでしょうね?」

 

 な、何でバレたの!


「顔に書いてあるわよ? なんでバレたの? って。一二年よ! 一二年も会えなかったアリスに漸く会えたのよ、直ぐに連れて帰るだなんて非道な事しないわよね?」


 淑やかな笑顔を浮かべている癖に圧が凄いと、フェルティナは数歩後ずさる。


「でも、あの王妃が……」

「えぇ、それは私も気付いているわ。彼女、どこかでアリスの目を見ているのかもしれないわ」

「二人に接点は無いわよ?」

「いいえ、あるわ。あなたたち言ってたじゃない。フェイスの街でアリスが狙われてたこと」

「確かにそうだけ……!!」


 そうだわ。そうよ。あの時、アリスは馬車の中で目を見られてる。

 あの男――確か、マーシだったかしら? あの男が、ボリス伯爵と繋がっているのは間違いないわ。

 だって、ボリス伯爵と王妃は親戚筋だったはずだもの。

 それに……王子の婚約者探しの発布も私たちの到着と同時だったみたいだし……。

 まずいわ、本当にまずいわ!

 

「とにかく、アリスは一四歳になったら学園に通う気でいるんだから、今、逃げるのは得策じゃないわ」

「あー、そうだったわね……。とりあえず、お義父さんにこの事を相談してみるわ」


 頭が痛いとばかりに額に手を当てたフェルティナは、茶会に戻ると言うフィルティーアを見送る。

 そして、足早にジェイクたちがいる部屋へ向かった。

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