王都編――招待状
お茶会用のお菓子作り講習会を終えたアリスは、フィルティーアを探していた。
理由は、この王都で初めて出来た友人ユリアを、屋敷に招いてお茶を共にできないかと考えたからだ。
アリス自身、ベノンの事やお菓子作りがあって忙しかったのもあって、あの日以来ユリアとは会っていない。
今も一人寂しく過ごしているのではないか?
そう考えるとアリスは、どうしても放ってはおけなかった。
そこで思いついたのが、少しの時間だがユリアをお茶へ招待しようというものだった。
「あ、居た! おばあちゃーん」
「あら、アリスちゃんどうしたの? おばあちゃんに御用かしら?」
座るように促されたアリスは、いそいそと座った。
そして、急ぐようにお願いごとを告げる。
「あのね、おばあちゃん。私の友達をお屋敷に招待したいの! いいー?」
「お友達? アリスちゃんまだこっちに来てそんな経ってないのに、もうお友達ができたの?」
「うん。ユリアさんって言う人でね。すっごく優しくて、綺麗な人だよー」
「そう、ユリアさんね。おばあちゃんは良いわよ~」
「やったー。じゃぁ、早速招待状作ってくるよー!」
許可を得たアリスは、急いで部屋に戻る。
扉を閉めるなり、神の裁縫箱を開いた。
アリスが作ろうとしている招待状は、紙ではなく布製だ。
まずは、三〇センチ四方の薄い黄色の布地を用意する。
それが招待状の本体で、他に色とりどりの端切れを用意。
「まずは、ユーランとフーマ、ベノンさんを作ってー。それから花とか星マーク、リボンなんかを作る」
両手を広げ笑っているユーランを思い出しつつアリスは、ユーランの色である白布と肌色に近いピンク色の布、そして、青い糸を作業台に置く。
額の宝石は、ラピスラズリの屑石から似た色合いのを選んだ。
パッと光、置いた布がユーランの形に切り抜かれ、可愛い姿のユーランが出来た。
『ボクがいるよー!!』
『そうだよー。ユーランも一緒にお茶会しようね』
『うん!!』
『フーマ?』
『今から作るからね。ベノンさんも!』
『おぉ、わしも入れてくれるか……嬉しい物じゃな』
精霊三人組に答えたアリスは、次にフーマを作る。
白に近いグレーの布、黄緑色の糸、鼻は黒い布を作業台に置く。
額の宝石は、グリーンカルセドニーウィ選んだ。
フーマが被膜を広げ気持ちよさそうに飛んでいる姿をアリスが思い浮かべれば、作業台が再び光り置いた布がフーマになる。
『フーマ、凄く、気持ちよさそうだよ!』
『うふふ。フーマは風を感じるの好きだから、飛んでるとこにしたんだよー』
『嬉シイ。フーマ、嬉シイ』
次にベノンだ。
白かと思われた鱗は実は、日が当たると紫がかっている。
そのため、ユーランの時に使った白い布地に薄紫の糸を用意。
瞳の色は金色なので金を。
額の宝石は、金に近い黄色なのでシトリンを選んだ。
作業台の上に用意した者を置き、アリスはベノンが良く見せる頭をもたげ首を傾げた姿を思い出す。
作業台が光り、可愛らしい姿のベノンが出来上がった。
『これが、わしかの? ほぉほぉ、似ておるのう。ほほほ』
『これで、三人が出来たね! 後は、周りを飾る飾りを作ろう』
色々な形の飾りを作ったアリスは、作業台の上に土台となる布を置く。
そうして出来た飾りと三人のワッペンを置くと、黒い糸を置いた。
文章は何にしようかな?
『ユリアさんへ
突然ですが三日後のお昼過ぎから、ブリジット公爵邸でお茶をしましょう。
お菓子を沢山作ってお待ちしています。
アリス・インシェス』
これでどうかな? 分かりにくい?
まぁ、渡す時に住所は言えばいいし、都合が悪かったら別の日にしたらいいからいいか!
とりあえず、これでいいかとアリスは作業台に手を乗せて、今思い描いた招待状の文面を思い浮かべた。
文面が刺繍され、満足げに頷いたアリスは飾りをつけるため再び作業台へ向き直る。
布の左上にフーマが飛び、右下にユーランが、真ん中左にベノンを置いて、他の飾りを空いた場所へ着けるイメージをする。
更に飾り用に作った星や花、ハートなどを周囲に散らばるよう配置していく。
「よし! くっつけ作業お願いします!!」
作業台が光って、可愛い招待状が出来上がる。
それを手に取ったアリスは、鶴を作り始めた。
ぶかぶかだが、鶴が出来上がり招待状の中身が見えなくなる。
『フーマ、お願いがあるの。これをユリアさんに届けてくれないかな?』
『フーマ、オ手伝イ、スル』
『伝言も伝えてね『もし、日程がダメなようなら、いつがいいか教えて下さい』って』
『分カッタ』
片言だから不安ではあるが、せっかくなら可愛い使者が良いと考えたアリスは小さなフーマの手に大きい鶴を乗せた。
と、瞬く間にフーマが消える。
『もう、いっちゃった』
『フーマ張り切ってたね』
『そうじゃのう。やる気満々じゃった』
『大丈夫かな? 心配――』
『戻ッタ。ユリア、来ル』
『早!!』
『おかえりー。フーマお使い出来て偉いねー』
『確かに、偉いぞフーマ』
『フーマ、頑張ッタ』
驚くアリスの横で三人がじゃれ合う。
可愛い三人の姿を眼にしたアリスはあまりの可愛さに、三人を撫でまわした。
その日の深夜。
アリスが寝たのを確認して、またも家族会議が開かれていた。
議題は勿論、王妃のことだ。
明日開かれるフィルティーアの茶会には、王妃も招待されている。
彼女は間違いなく参加するだろうと言うジェイクの言葉に、フィルティーアもまた同意するように頷いた。
あの時はインシェス協定の事を出したため、国王が止めてくれた。
だが、今回はそうはいかない。
「ふむ。アリスを隠すか……」
「あ、それなら私がアリスと一緒に、買い物に出ればいいんじゃないかしら?」
「ティナ? あなた、自分がお茶会に出たくないからってアリスをだしにして逃げる気じゃないわよね?」
「そ、そんなこと……」
フィルティーアの突っ込みを受けたフェルティナは、そっぽを向いたまま言葉を濁す。
これは間違いなく逃げる気だ。と、全員が確信した。
「フェルティナは、悪いけど僕がアリスと出るよ。ちょうど、アダマンテル商会に行きたいと言っていたから」
「俺も行くー」
「私も!」
妻の可愛らしさにくすりと笑たゼスがアダマンテル商会の話題をだせば、茶会に参加したくないクレイとフィンが勢いよく乗る。
「アダマンテル商会とアリスに何の関係がある?」
「あぁ、お義父さんは知らなかったですね。実は旅の間に――」
ガルーシドの問いにゼスが、旅の途中であったことを簡単に話す。
「なるほどな。アリスが会いたいと言うのなら連れて行ってやるべきだな」
「あなたはダメですからね?」
「ぐふっ、べ、別に行くとは言ってないだろう!」
「……」
ジト目を向けられたガルーシドは、その後必死に言い訳を繰り返すのだった。




