王都編――お茶会のお菓子作り②
ひとまずタルトは、また新しい生地を作って焼いて貰っている。
回数をこなしたいと言うシェフさんたちの希望を聞いたフェルティナが勝手に許可を出してしまった。
お茶会――ひと様に出すものだから味も見栄えも良い物を求めてだろうから、とアリスは何も言わなかった。
今回作った分は、作った人たちに食べてもらうつもりだ。
「時間もあんまりないだろうから、次のに行きます!」
「漸く、我々ですね。非常に楽しみです!」
「じゃぁ、説明していきますね!」
タルトと同じく、材料を用意して貰う。
メインはメルクルーージャガイモだ。
後は、大豆とハチミツだけ。
「なぜ、メルクルを……お菓子じゃない?」
「いいえ、お菓子ですよ。他にも色々作れるようになるので、作り方を覚えておくと料理の幅が広がります。ではまず、メルクルの皮を剥いて、このすりおろし器で細かくすりおろしてください!」
「……は、はい」
期待外れと言いたそうな顔をしているシェフたちは、アリスの言葉を聞いて瞳を輝かせると細いナイフでメルクルの皮を剥き始めた。
おろし器は、アリスとユーランの力自作だ。
アリスが、今回作ろうとしているのは片栗粉の餅。
片栗粉自体は、単一作業で非常に簡単に作れる。
作業としては、すりおろしたジャガイモを布に入れ、水の中で一〇分~一五分揉む。
その後一五分ほど、揉んだ水の入ったボウルを放置して上澄みの水を捨てる。
それを数回繰り返して、最後は一時間放置して水を捨て、乾燥させれば出来上がりだ。
「では、このまま一時間ですね」
「そうです。この間にこれを粉にしましょう!」
「……これは、大豆ですか?」
「そうです。これを粉にするときな粉になるんですよ! ほんのり香ばしくて、ハチミツと凄く合うんです!」
「な、なるほど?」
「とりあえず、きな粉を作っていきましょう」
「はい! よろしくお願いします」
きな粉の作り方は、乾燥させた大豆を使う。
大豆をフライパンに入れ、火にかける。
良い香りがしてきたら、要らない紙に取り出して広げて冷やす。
冷えたら本来はミルで粉にするのだが、ここには電動がないためゼスの魔法に頼る。
「パパ、この大豆を魔法で粉にして!」
「わかったよ」
「アリスったら、ご飯のためなら何でも使え状態ねぇ~」
「ママは食べたくないの?」
「勿論、食べるわよっ」
ゼスが、さっと魔法を使い大豆を粉にする。
今回ゼスとフェルティナがアリスの側にいる理由は、アリスが電動の代わりにゼスの魔法をあてにしたからなのだ。
付き添いのフェルティナは、それ知っているためアリスに呆れた顔を見せた。
「粉になったね。そしたらふるいにかけてサラサラにしてね。後はこれに砂糖と塩を加えて混ぜるだけです」
「おぉ!! これがきな粉ですね! 次は、何を?」
「あとは、片栗粉が出来てからですね」
そう言うとアリスは、大きなボウルを覗き込んだ。
まだまだ、かかりそうだー。だったら折角だから、この間にマヨネーズでも作ってもらおうかな?
ついでにほかの材料も作ってもらおう。
「よし!」と一つ気合を入れたアリスは、暇そうにしているシェフを呼んでくれるようディックに頼んだ。
五人もの男性が集まり、アリスは少しだけ身体を固くする。
「さぁ、アリスお嬢様ご指示を!」
「あ、はい」
期待する一二個の瞳で見つめられたアリスは、タジタジになりながら指示を出す。
マヨネーズは以前作った事があるため割愛する。
やる事と言えば、まずは卵サンドの卵の殻を綺麗にたわしで洗って貰い水から硬めに茹でる。
次にローストビーフ作りだ。
まず、常温の肉の塊を取り出す。
フライパンにオリーブオイルを入れ、塩とコショウ――できればブラックペッパーを振りかけ焼き目をつける。
焼き目がついたら肉を取り出して、加工された撥水性の水蜥蜴の皮の袋に肉を入れ、大鍋に沸かしたお湯で三分湯がく。
「絶対にお水が入らないようにしてくださいね」
「はい!」
「いい感じかな。火を止めて下さい。そうしたら、蓋をしてそのまま放置でお願いします」
「分かりました」
「ソースはどうされますか?」
「ソースなんですが……実はちょっと特殊な材料を使います……」
神の台所から拝借した醤油です! とは言えないアリスは、そっと瓶に入れた醤油を取り出す。
その瓶の中身をディックが指につけ舐めたかと思えば、カッ! と眼を見開き「これはっ!! 幻の……!!」と言い出した。
「アリスお嬢様! ぜひ、ぜひこの、この幻の調味料の作り方をわしに、このおいぼれに教えてくださいませー!!」
ディックに詰め寄られたアリスは、何と答えた物かと必死に考える。
教えてって言われても、作ったことないよー!!
いやー! バレる。バレる。神の台所からくすねてきたことがバレるぅー!
あ、でも作り方なら調べればわかるかな? それで教えたらいいかな? でも、時間凄いかかるんだけど……。
「お願いしますじゃ! このおいぼれ一生のお願いでございますじゃ! アリスお嬢さ――」
「わかりました。分かりましたから、とりあえず落ち着いて下さい!!」
醤油の作り方は後で調べて紙に書いて渡そう。
作れるかは不明だけどね、だって、私大豆も髪の箱庭から持ってきちゃったし……。
この世界にあれば……いいな……。
頑張ってと言う視線を向け、ディックを落ち着かせたアリスはソースの作り方を伝える。
材料は、肉を焼いたフライパンにみじん切りにしたニンニク、醤油、砂糖、酒。
それらをフライパンに入れ、中火にかけて沸騰させるだけ。
「お肉も出来たし、マヨネーズも出来ましたね。卵マヨネーズを、シーマ・カレルを細かく裂いてマヨネーズと和えましょう」
「あとはこれを挟むんですね?」
「そうです。このパンの中身をくりぬいて、サンドイッチをこんな感じで飾り付ければ……パン・シュープリーズの出来上がりです!」
くりぬかれたカンパーニュのような丸パンの中に、三種類のサンドイッチが入っている。
卵サンドは一枚を巻いてロールに。シーマカレルは三角に。ローストビーフは、四角に切った。
種類別にわかりやすいだろうと思ってこうしたけれど、見た目がかなりおしゃれだ。
飾り付けに、果物を使っているため色味も美しい。
「片栗粉も出来たみたいだね。パパ、乾燥お願い」
「わかったよ」
「この白い粉が、片栗粉と言うのですね」
「そうです。揚げ物にもお菓子にも使えますよ! じゃぁ、ミルク餅作っていきましょう」
ミルク餅の材料は、牛乳、片栗粉、砂糖のみ。
材料を全て鍋に入れて、火にかけてドロドロになるまで混ぜ続ける。
後は型に入れて、冷やしたら包丁で好きな大きさで切り込みを入れきな粉をまぶすだけだ。
「これで全部です。本当はもう一個作りたいのあったんですけど、こっちの人は好まないかもなのでまた今度で、さっそく皆で味見してみますか?」
「お願いします」
「はい!!」
好きな物を食べれるように、小皿に一枚ずつ渡していく。
作業台の中央には、果物と濃厚カスタードがたっぷり乗ったタルト、パン・シュープリーズ、ミルク餅が乗っている。
皆それぞれ、匂いを嗅いだり、色味見たりして口に入れた。
咀嚼で口が動くたび、シェフの顔が至福に変わる。
上手くできたようだと笑顔を浮かべたアリスもシェフに混ざって試食を始めた――。




