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王都編――茶会の誘い

 その日の午後。

 フィルティーアに呼ばれたアリスは、ガゼポへ赴いた。


 色とりどりの花が咲くガゼポでお茶を楽しむフィルティーアは、まるで絵画のようで美しく、アリスはついつい見とれてしまう。

 

「あら、アリスちゃん来たのね」

「……あっ、はい!」


 ぽ~と頬を赤く染めたアリスは、不意にフィルティーアに呼ばれ慌てたように返事をした。

 こいこいと手招きされるがまま席に着いたアリスにフィルティーアは、にっこり微笑む。


「アリスちゃん。おばあちゃんお願いがあるのよ~」


 可愛らしい声で、お願いと口にしたフィルティーアはアリス用の紅茶を手渡すと言葉を続けた。


「今度うちでお茶会やるんだけど、その時のお菓子をアリスちゃんにお願いしたいのよ~」

「え? お菓子って……」

「アリスちゃん珍しいお菓子沢山作れるでしょう? だから、お願いしたいのよ~」


 フィルティーアは、お願いと掌を合わせ頼んだ。

 自分を頼ってくれる祖母のために美味しい物を作ってあげたいと考えたアリスは、眉尻を下げる。

 その理由はハルクとの別れ際、作ったのが自分であることを内緒にするように約束させられたことを思い出した。


「ん~、いいけど……私が作ったって内緒にしてくれる?」

「あら、どうして内緒なの?」

「うんとー、確か……『物珍しい物は人を呼ぶ。その中には、悪人も善人も沢山いる。だから、内緒に出来ることなら出来る限り隠しなさい』だったかな」


 上から下までアリスを見回したフェルティナは「そうよね~」とアリス的には腑に落ちない納得の仕方をした。


「わかったわ! じゃぁ、うちのシェフにお菓子の作り方を教えてくれないかしら? そうよ、そうしましょう!」

「え、私がプロに教えるの?」

「あら~いいじゃないの! ね? アリスちゃん、お願い!」


 うーん。一応おじいちゃんたちに確認しなきゃだけど……おばあちゃん困ってるみたいだし、作ってあげたいな。

 

 仕方ないよね。と、アリスは観念する形で唸りながら、頷いた。


「やったわ~♪」


 歓喜の声をあげたフィルティーアは、早速と言わんばかりにメイドのエリーゼを呼んだ。

 アリスはと言えば、何かを言う暇もなく用意された馬車へ押し込まれてしまった。


「お、おばあちゃん? ど、どこに行くの?」

「あら~、市場よ!」

「え! 市場に……まさか、今から食材買いに行って、作ろうって言う――」

「その通り! さぁ、着いたわよ。ほら、アリスちゃん窓の方見てみなさい」

「……うん」

 

 この行動力は間違いなくフェルティナの血筋だと確信したアリスは、頷くと色々考えるのを諦めた。

 そして、見た窓の外には、色とりどりの布地を屋根に持つ木組みの屋台が並んでいる。

 周りには大声を張り上げ売り子をする子供や、買い物客、店の荷物だろう物を持って運ぶ沢山の人でごった返していた。

 

「ふわぁ~!」


 写真で見たタイ・バンコクの屋台みたい! 凄い。こんなに大きいなんて流石王都。


「さぁ、アリスお嬢様。降りましょうね」

「……あ、はい」


 アリスが感動して瞳を輝かせている間に、いつの間にか馬車の扉が開きフィルティーアは降りていた。

 エリーゼに抱えらえたアリスは馬車を降りる――降ろされると、フィルティーアに手を取られる。

 疑問に思う間もなく「ここは迷子になりやすいですから、奥様から離れてはいけませんよ」と言われ、アリスは納得した。


「さぁ、色々見て回りましょうね」

「うん!」


 エリーゼによって日差しを遮る麦わら帽子をかぶせられたアリスは、フィルティーアに元気よく答えると歩き始める。

 運んできたまま蓋を開けた木箱に詰められた野菜や果物、酒類など。

 この市場は右を見ても左を見ても、アリスの心を躍らせる。

 

「アリスちゃん。何作るか決めた?」

「ん~。お茶会だよねー? いつもはどういった物を出してるの?」

「そうね~。主に焼き菓子や果物、サンドイッチとかかしらね~」


 相槌を打ちながら、アリスの視線は忙しなく動き続ける。

 

 何が良いかな? こっちのシェフでも作れるお菓子かー。

 生クリームスキーとしては、生クリーム使いたいけど……シェフの腕が死ぬから却下かな……あ!

 生クリームがダメなら、カスタードクリームにすればいいんじゃない!

 

 名案だとばかりに閃いたアリスは、早速フィルティーアに相談することにした。


「おばあちゃん」

「なぁに、アリスちゃん」

「濃厚カスタードクリームの果物タルトとかどうかな?」

「か、すた? かすた、りーむ?」


 そうか、こっちにはカスタードクリームがないんだった! と、反省したアリスはカスタードクリームについて説明する。 

 

「卵を使ったクリームだよ~」

「あら、いいじゃない! 卵のクリームなんて珍しくて、きっと目を引くわね!」

「じゃぁ、一つ目はそれで決まりだね!」

「えぇ!」


 決まった途端、アリスに材料を聞いたフィルティーアは目的の店へ向かって歩き出す。

 卵、小麦粉、牛乳、砂糖。

 タルト生地には、バターを追加して、卵、小麦粉、牛乳は多めに購入してもらう。


 二つ目は和菓子にしたい。紅茶にも合うし、簡単に作れる物と言えばどら焼き。

 でもあんこが……。あぁ、そうか芋系とかジャム使って生ドラとか、ロールとかありじゃないかな?

 うーんでも、どうせなら季節感あって涼しげなのが良いなー。


 一つ目を買い終わったアリスの視線の先に、八百屋が見えた。

 そこでアリスは、ジャガイモに目を止めた。


 こっちでも、ジャガイモは売ってたんだ! だったら、片栗粉が作れる! だったら、わらび餅なんてどうかな?

 果物を添えて、ジャムかけて食べれば見目もいいし、冷たくて美味しいし!

 決めた。二つ目は、フルーツわらび餅にしよう。


「おばあちゃん、お餅作るのにメルクル買おう!」 

「お菓子にメルクル使うの?」

「うん! きっと美味しいよ」

「アリスちゃんが言うなら……」


 不安げな表情を作りながらもフィルティーアは、アリスの言う通りメルクルを購入した。

 他にも野菜をいくつか買って貰い、アリスはホクホク顔だ。


 フィルティーアがメイドにお金を払うように告げ彼女がお金のやり取りをする間にも、三つ目を何にしようかアリスは悩む。


 軽食も用意するっぽいから、サンドイッチにしようかな。甘いのばっかりじゃ嫌だよね~。

 フルーツサンドと、シーマカレルのマヨネーズ和え、卵とローストビーフサンドでどうかな?

 うちで食べてる物ばっかりだけど、マヨネーズなら既に作ったことあるし大丈夫のはず。


「おばあちゃん、三つめはサンドイッチにしようと思うんだけど……どうかな?」

「サンドイッチね~。う~ん、うちのだと食べ飽きちゃって……」

「きっと食べたことないと思うよ」


「マヨネーズ使うしね」と言う言葉を呑み込んだアリスは、どう? と言わんばかりにフィルティーアを見上げる。

 すると見る間にフィルティーアの瞳が輝く。

 

「じゃぁ、必要な物買い行きましょうね!」


 フィルティーアに手を握られたままのアリスは、見事に引っ張られ市場内をズルズルと引きずられていくのであった――。

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