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王都編――秘密の部屋②

 フーマを助けるため、薄暗い通路をつたって見知らぬ部屋にたどり着いたアリスは、ユリアと言う女性と出会った。

 ユリアはとてもおしゃべり好きなのか、色々と話してくれた。


 ユリアは、長年連れ添った夫を一二年前に亡くしている。

 今は、この大きな屋敷で傍付きのメリーさんと使用人数人と暮らす。


 子供は、男の子が三人、女の子が二人の五人。

 長男は家を継ぎ、次男と三男はある貴族家に養子に入る形で現在当主をしていて、女の子はどちらも他国へ嫁いでいる。

 だから、中々会えないと言う。

 寂しい余生だと語ったユリアに悲壮感はない。

 その理由は、たまに訪れてくれる友人と話をする事で楽しんでいるのだと教えてくれた。


「せっかく近くにいるのに、ユリアさんにお孫さんは会いにこないのですか?」

「それがね……」


 困ったように頬に手を当てたユリアが「わたくし、お嫁さんたちに毛嫌いされてるみたいの……」と寂しそうに答えた。

 嫁姑問題は日本でも勿論あった。けど、とアリスは考える。


 知り合って間もないけど話した感じとても優しいし、嫌味ったっぽい感じもない。

 それに話し上手で、おっとりしてて凄く好感が持てる。


 お嫁さんの思い込みでユリアさんが寂しい思いをしてるなんて許せない!!

 アリスは憤りを表すように拳を握った。


「ユリアさんは、こんなに優しいのに酷いお嫁さんだね!! 会ったら私が怒ってあげる!!」

「あら、あら。うふふっ、嬉しい事を言ってくれるわね。ありがとう、アリスちゃん」


 頬を膨らませたアリスの頭をユリアが撫でる。

 最初は恐々としていた手つきは、この一時間にも満たない時間で大分柔らかくなっていた。


 でもどうして、ユリアさんを嫌ってるんだろう? 旦那さん――ユリアさんの息子さんがそういう事を言ったとか?

 うーん……貴族の世界かぁ……わかんないな……。


「ユリアさんのお孫さんとかは会いにこないの?」

「リュミエールの子供たち以外は来ないわね……あ、リュミエールと言うのは三男の事よ!」

『アリス、フェルティナ、探シテル』

 

 ユリアとの会話が楽しくてつい長居してしまっていたアリスは、フーマの声に色々考えていた事が吹っ飛びハッとする。


 あぁ、忘れてた!! やばっ!! 私、ここにいること誰にも伝えてない。また心配させちゃう。帰らなきゃ!!


 ガバっと立ち上がったアリスは、おろおろと周囲を見回す。

 そして、ユリアに「私、帰らなきゃ!!」と告げ、元来た道へ引き返した。

 アリスの突然の行動にユリアも慌てたように立ち上がり、鏡台へ向かうとある物を手に取りアリスの元へ走り寄る。


「アリスちゃん。これを……お友達の印に受け取ってちょうだい」


 差し出されたユリアの手の上には、寄り添う男女が描かれたカメオのブローチが乗っていた。


「こ、こんな高価な物貰えないですよ!!」

「いいのよ。受け取ってちょうだい。さぁ! 急いでいるのでしょう?」

「そうだけど!! じゃぁ、これ貰ってください!」


 アリスは、カメオのブローチを受け取る代わりにメディスンバックからユーランがビーズ型――丸い球のような形に加工してくれた屑石のネックレスを取り出した。

 そして、ユリアの手にネックレスを握らせると急いで地下道へ戻る。

 

『フーマ、超特急で帰ろう!』

『分カッタ。フーマ、力、貸ス』


 フーマが言うなりアリスの身体を緑に近い光が包み込んだ。

 そして、アリスの身体がふわふわと浮かんだかと思えば、ジェットコースターの下りのような速度で急発進する。

 

「うわぁぁぁん!!」


 超高速で身体ごと進んだアリスは、涙目になりながら叫ぶことしかできなかった。

 そんなアリスの肩に乗るフーマは、どこか誇らしげだ。

 

 物の数分で薄暗い通路を駆け抜けたアリスは、ふらふらになりながら屋敷へ戻る。


 はぁ、心臓が痛い。ね、猫とネズミのアニメみたいだった……。壁にぶち当たらなかっただけよかったけど……もう、もう二度とフーマに頼るのは止めよう。


 未だ早鐘を打つ心臓を抑え、強張った身体と心を解すようにアリスは何度か深呼吸を繰り返す。

 小鹿のように震える足で何とか立ち上がる。


『アリス、平気?』

『う、うん。な、なんとか……』


 壁に手を付き、ゆっくりとフェルティナの元へ向かう。

 フーマが言うには、皆ダイニングにいるらしい。

 足の震えが止まる頃漸くダイニングにたどりついたアリスは、何食わぬ顔で朝食の席に着く。

 

「あら、アリスどこに行ってたの?」

「内緒」

「あらあら、何か面白い物でもあった?」

「むふふ」


 したり顔で笑ったアリスは、祈りを捧げると皆と楽しい朝食を始めた。


 朝食が終わり、部屋に戻ったアリスはベットに腰かける。

 そこでふと、朝出会ったユリアの家族関係について思い出した。

 

 出会ったばっかりの私が、口出すことじゃない。けど、ユリアさんの寂しそうな笑顔がどうしても気になる。

 ……どうやったらユリアさんの家族が、仲良くできるんだろう? 

 ユリアさんはどう見ても貴族っぽかったし、貴族なりの問題があるのかもしれないよねー。

 私じゃ、その問題について思い当たることができないし……誰かに相談できれば……!!

 あ、いるじゃん!


「そう言えばママ、少し相談? 質問? っぽいことがあるんだけど……」


 元貴族令嬢であるフェルティナにユリアの名前を出さず相談することにした。

 

「あら、何かしら?」

「うん。上手く言えないけど、お嫁さんがお義母さんを嫌う場合、どんな要因があるのかなって……」


 首をひねったフェルティナは、顎に手を当て考え込む。

 それをジッと黙って見つめていたアリスは、フェルティナとアンジェシカの関係を思い出す。


 フェルティナとアンジェシカは、本当の親子のように仲がいい義理の親子だ。


 結婚した当初から仲が良かったらしいから、考えるだけ無駄かもしれない。

 そう思いつつアリスなりに思い出してみる。


 普段は……おばあちゃんが研究室に籠ってて、ママは狩りしてたり、部屋の掃除してたりしてたよね。

 食事の時以外にも顔合わせて一緒にお茶してたりするし……喧嘩とか見たことないんだよねー。

 仲が良いって言うのは良い事だけど、仲が良すぎる気もするなー。洋服に関する事とか、特に!


「うーん。ママが思うに、言葉の行き違いで誤解してることがあるんじゃないかしら?」

「誤解?」

「えぇ、そうよ。例えばだけど、ママとパパがまだ結婚したばっかりの頃に、おばあちゃんが声を荒げて『フェルティナ、早く下がりなさい!』って言う一言にママ酷く傷ついたのよ」

「え!? おばあちゃんが、声を荒げたの?」

「えぇ。それで、ママは、この家に要らないんだって言われたと誤解しちゃってね。ベットで寝てたことがあるの」

「そっかー」


 深く頷いたアリスの頭を撫でたフェルティナは、くすくす笑うと「続きがあるのよ」と話を続けた。


「その夜ね。私、どうしても我慢できなくなってしまって、お義母さんにどうして、あんなに怒ったのか聞いたら、おばあちゃんたら『せっかく可愛らしいお嫁さんが来たのに魔獣のせいで、私がケガをしたら大変だからパパに任せておきなさい』って意味合いだったって教えてくれてね。もう、皆で大笑いよ」

「思いやりで言った言葉だったってことね」

「えぇ、だからもしかしたら、その人のお嫁さんも誤解してるのかもね」


 パチンと右目でウィンクしたフェルティナは「無茶しちゃだめよ」と言い残して部屋を出て行った。

 確実にバレていることを悟ったアリスは、乾いた笑い声をあげることしかできなかった――。

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