王都編――フルーツ大福
スイーツを食べつくされたアリスは、与えられた部屋に戻った。
部屋に入るなり、人がいないのを確認して急いで神の台所へ移動する。
「キッチンさん、よろしくね!」
キッチンに挨拶を終えて、作業台の前をうろうろしながらアリスは考え始めた。
できるだけ腹持ちがするスイーツと言えば……洋菓子だとタルトタタンとかのタルト系かな?
あ! 腹持ちするって言えば、餅じゃない? みたらし団子、おはぎ、大福、肉まんとかどうかな? でも、お餅食べさせたことないし肉はおやつに入らないよね。
……考えてたら大福食べたくなってきた! よし、今日は、大福と前に作ったスイーツを作ろう。
作る物を決めたアリスは、まずキッチンに頼み苺のミルフィーユ、アップルパイ、シュークリームのダブルクリームと果物入りを量産して貰う。
「よし、大福だ!」
準備するのはもち米、小麦粉、砂糖、塩、小豆、白いんげん豆、重曹、抹茶。
果物——苺、巨峰、オレンジ、グレープフルーツ、マスカット、マンゴー、キュウイ。
ホワイトチョコレートが欲しい欲望のまま記憶の本棚で作り方を調べたアリスは落胆する。
焙煎、粉砕まではチョコレートと同じだが、ホワイトチョコレートにはカカオに含まれる油脂のみ分離必要があったため諦めた。
「仕方ないかー。今回はチョコなしで作ろう。よし、まずはもち米、小豆、白いんげん豆、小麦粉を下さい」
作業台にボールを出したアリスは、現れた小豆と白いんげん豆を水につけておく。
それが済んだら、もち米をザルに入れ優し目に研ぐ。
洗い終わったもち米は、気持ち多めの水を入れる。
もち米一合に対して、大さじ一の小麦粉を追加してよく混ぜて炊飯を押す。
「早い! もう炊けちゃった。キッチンさん、杵つき機をお願いします。あと、豆の時間を一晩分進めて下さい」
出して貰った杵つき機にもち米を入れ、スイッチを押した。
直ぐに出来上がる餅をトレイに取り出し、一つだけ小さく丸て見せる。
「キッチンさん、お餅をこんな感じで丸めてね?」
言い終わるなり、丸められた餅が大量に作業台へ乗った。
それをストレージにしまい込んだアリスは時間を早めた豆の水気を切って鍋に入れる。
白いんげんは、ひたひたになるぐらい水を鍋に追加して、中火でニ~三分。
ここで一度、水気を切る。
再び鍋に戻したら、水から白いんげん豆を弱火で五〇分。
きっちんに頼めばすぐに時間が来るため、アリスはここから裏ごし作業をやって見せる。
茹で上がった白いんげん豆をザルにあげ、水気を切っておたま一杯分を丸い竹製の裏ごし機の上に置く。
裏ごし用の木べらを持ち、ゆっくりと上から押し付けた。
「こんな感じで、裏ごししてください」
後は、キッチンに任せ、アリスは小豆の方へさし水を入れる。
裏ごしが終わった白いんげん豆のペーストを今度は手ぬぐいを使ってしいかりと絞る。
アリスの腕力ではほぼほぼ絞れないため、キッチンに頼む。
しぼり終わった生あんをフライパンに入れ、砂糖を加えて弱火にかけ軽く練り混ぜたら白あんの出来上がりだ。
「よし、出来た! キッチンさん、抹茶をください!」
白あんだけでは寂しいと考えたアリスは、キッチンに頼み白あん半分に分けて貰う。
抹茶の粉末にお湯を入れ、かき混ぜる。
白あんには牛乳を入れて混ぜて置く。
後は二つを混ぜ合わせれば、抹茶あんの出来上がりだ。
「次は小豆!!」
小豆は、豆の五割増しで水を入れ、沸騰するまで強火で煮詰め。
沸騰する度にさし水をする。
それを約八回~九回ほど繰り返し、ザルにあげて水気を切った。
再び鍋に豆、重曹を入れて五割増しの水を注ぐ。
一度沸騰するまでは強火で、小豆が出ないよう水を見ながら落し蓋をして弱火で三〇分煮る。
後は、煮汁ごと白いんげん豆同様、裏ごし――豆の皮や塊がないように裏ごしを繰り返す。
出来たらそのまま約5分置き、生あんが沈殿したら上水をそろりと捨てた。
生あんが見えるぐらい水気が切れたら、ぬぐいを二枚重ねてぎゅーぎゅーと搾る。
水一に対して砂糖を四倍を入れた鍋に生あんを加え、中火で約六~七分——角が立つぐらいまで練り上げたら出来上がりだ。
「あんこできたー!」
あんこを作るのが一番の鬼門だったと、額の汗を拭ったアリスは万歳しそうな勢いで手をあげる。
「よし、次。キッチンさん、苺、巨峰、オレンジ、グレープフルーツ、マスカット、マンゴー、キュウイを出してください」
出てきた果物の内、苺はへたを。
オレンジ、グレープフルーツ、マンゴー、キュウイは種と皮、薄皮まで剥いて貰う。
処理が済んだ果物を、適当な大きさに切りそろえる。
こしあんで美味しいだろう苺は、薄めのあんこで包み。
オレンジ、グレープフルーツ、マンゴー、キュウイは白あんで色がわかる程度に包んだ。
抹茶あんには、凍らせて貰った生クリームを使う。
他にもいくつか生クリームのみの大福を作る。
杏、苺、マーマレード、パインジャムをトレイに乗せ、生クリームを入れて軽く凍らせておく。
「よし、あとはお餅で包むだけ」
片栗粉を作業台に軽くふるい、丸めて貰った餅を取り出す。
丸めた餅を掌で押して広げる。
こしあんに包まれた苺を包めるぐらい広げたら、指を使って覆い隠す。
最後に、掌で丸めれば出来上がりだ。
「じゃぁ、キッチンさん……全部こんな感じでお願いします!」
ポンと音を立てて、六〇個の苺大福が現れる。
作業台に空きが無くなったアリスは、急いでストレージにしまう。
次々と出来ていく大福を眺め、これは食べきれないでしょう! と、アリスはにまにまとほくそ笑んだ。
台所から出たアリスは早速、皆の居るサンルームに向かう。
大福を食べたらどんな顔をするだろう? と、考えるだけでわくわくする。
アリスがサンルームにつくと、皆でお茶を楽しんでいた。
さっと見回し椅子が空いていないかを確認するが、開いていない。
仕方なく、ゼスの膝の間に座ったアリスは、早速出来立ての黒あんと白あんの大福を取り出す。
くだもの大福はまた今度出すつもりだ。
「大福だよー。腹持ちいいから皆食べてみて?」
「ダイフク……白いな……」
「甘いお菓子だよ」
本当は菓子の中でも和菓子って言う部類だけどねと、にっこり笑いながら頭の中だけで補足する。
アリスの出した大福をセバスが皿にサーブして、各人の前へ置く。
相変わらず怖い物知らずのクレイが真っ先に手を出し、一口で大福を頬張った。
クレイの表情の変化を見ていたアリスは、至福だと言わんばかりのクレイの顔を見てほっとする。
ジェイクたちが一つずつ手に取り、噛みつけば大福の餅がみょーんと伸びた。
それを見て我慢できなくなったアリスも抹茶大福へ手を出す。
もちもちのお餅は薄めで、歯をあてれば柔らかく直ぐに嚙みきれる。
中に入った抹茶のほろ苦さを含んだ甘めの白あんが、絶妙にマッチしていて最高に美味しかった。
「アリス、これ美味しいわね~」
「えぇ、本当に。こんな甘くておいしい物、初めてたべたわ!」
「私には少し甘すぎるかな……」
「俺は好きだ!」
「僕も少し甘い」
口々に感想をいいながら、一つ、また一つと大福が減っていく。
結局、一二〇個あったはずの大福は、一時間と立たずみんなの胃袋へ消えていくのだった――。




