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いざ、実食!

 アリスたちが食堂に戻ると、全員がソワソワと椅子に座り待っていた。

 どこか期待する目を向ける皆に、アリスとフィンは顔を見合わせくすくすと笑う。


「フィンにぃ、配るのお願いしていい? ごめんね。時間かかって」


 後半は、家族に向けた謝罪だ。

 配膳を頼まれたフィンは笑顔で頷き、それぞれの前に朝食を配膳してくれた。

 その間アリスは、鍋ごと運んできたミルクスープを注いで渡す。


「ほぅ。これは美味しそうだ」

 ジュエクは配られた朝食を前に手を擦り合わせ、瞳を輝かせた。


「あら、綺麗ね。それに美味しそうな香りだわ」

 アンジェシカは、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべた。


「おー。アリスの才能が!!」

 驚いたように目を見開きゼスが、アリスを褒める。

 それに追従するのはフェルティナだ。


「まぁ、なんて彩豊かなの! アリスは、間違いなくいいお嫁さんになるわね」

「うぉ、本当にこれアリスが作ったか? すごいじゃないかアリス!!」

 最後に配膳されたクレイは、立ち上がりアリス頭をグシグシ撫で、席に着く。

 

「では、いただこうか」


 フィンとアリスが席に着いたのを見計らい、ジェイクが食前の祈りを促す。

 全員が手を組み、ルールシュカ様へ糧を得られた感謝をのべる。

 祈りが終わったところで、アリスはハチミツが入った壷をあげて見せた。


「あ、そうだった。これかけてね。最初は少し、食べてみて平気だったらたっぷりとね」


 まずは自分が、とアリスは黄金色に輝くハチミツをたっぷりフレンチトーストにかける。

 とろりと垂れていくハチミツが、アリスの食欲を更にそそった。


 アリスの皿を凝視していたクレイがいち早く動き、同じようにハチミツを手に取ると大量にかける。

 そうして、次々と家族の手にハチミツがわたっていく。


「おぉ!! なんだこれ、今まで食べたことない味だ!! 甘いけどしょっぱい。すげーうまい」


 クレイが一口フレンチトーストに噛り付くと驚き、二口目で美味しさを表現する。


 アリスも早速食べようと、カトラリーを手に持った。

 まずは、ハチミツがたっぷりとかかったフレンチトーストから。


 フレンチトーストにナイフを入れれば、外側はカリっと中はモッチリとしている。

 一口含めば、ハチミツの甘みと卵液の甘さが交じり、甘味に飢えていたアリスを満たした。


 そして、カリっと焼いたベーコンとふわふわのスクランブルエッグを、一緒に切り分けフォークに刺す。


 まとめて口へと運ぶと、コカトリスの卵の濃厚さが広がり、追いかけるようにミルクのほんのりとした甘みとハチミツの甘さを感じた。

 それを楽しみながらモキュモキュと噛み締めるほどに、一緒に含んだベーコンとスクランブルエッグの塩味がり何とも言えない旨さを醸し出す。


 いつもなら煩いほどにぎやかな食卓が、無言なことに気付いたアリスは顔をあげる。

 そこには、無我夢中でパクパクと食べ続ける家族の姿が——。

 

 良かった……皆に気に入って貰えたみたいと心から安堵した。

 まぁ、いつものご飯も不味くはないけど、やっぱりいろんな味は欲しいよね。それに、栄養面を考えるとこういうのを食べなきゃダメよね。


 達観した様子で頷いたアリスは、サラダに手を付ける。


 パリッとした野菜を一口食べ、やっぱりマヨネーズが欲しいと、アリスは物足りなさを感じる。

 けれどマヨネーズの存在を知らない家族らは、口々に美味しい、もっと食べたいと言う声が上がった。


 食後のお茶を飲む席で、フェルティナがアリスを膝に抱き、頭をなでながら褒める。


「アリスが、こんなに料理が上手なんて、知らなかったわ」

「じゃ、じゃぁ! 今日から私が、ご飯作っていい?」

「そうだねー。アリスにお願いしようか?」

「そうしたいけれど……。アリス、ケガだけはしないようにしなさいね? それと、無理はしないこと、約束できるかしら?」

「うん!」


 両親に料理をする許可を貰ったアリスは、嬉しそうに頷いた。こうして、アリスはインシェス家の食事担当となったのである。

  

 食後のお茶が済み、片づけが終わるとジェイク、フィン、クレイ、フェルティナが狩りへ。アンジェシカは、薬草畑へ向かう。

 いつものルーティンだなと思ったアリスは魔法の勉強をするため部屋に戻ろうと廊下へ行く

 そんなアリスをゼスが呼び止めた。


「パパ、どうしたの?」

「アリスの大きさだとキッチンが使いにくいだろうから、アリスの使いやすいキッチンに改装しようと思ってね」

「本当?! いいの?」

「あぁ、これからはアリスが一番キッチンに立つんだから良いんだよ」

「やったぁ! パパ大好き」


 思わぬ言葉にアリスは興奮し、ゼスへと抱き着く。

 ぷにぷにの頬を赤く染め瞳を輝かせたアリスの姿にゼスは「うちの子はなんて可愛いんだ!」と心からの言葉を零す。

 ゼスの呟きはアリスに拾われることなく、空気に溶けた。


「じゃぁ、行こうか」


 ゼスの手を握り、アリスはるんるん状態でキッチンへ向う。


 本日二度目となるキッチンに入る。入口で立ち止まったゼスは、真剣な様子で何事が呟き始めた。

 魔法言語かな? と思いつつゼスをじっと見る。

 

 詠唱が続く中、変化は起こり始めた。

 初めに変わったのは、作業台やコンロ、流し場の高さだ。

 徐々に低くなっていくそれらは、ズズズと何とも言いがたい音を立て沈んでいった。


「ふむ、こんなものかな。アリス立ってごらん」

「うん!」


 ゼスの手を離し、アリスはてててと作業台へ走った。

 そして、彼女は感動の声をあげる。


「凄い!! パパ、凄いよ! これなら一人で全部出来る!!」

「これなら良さそうだね」

「うん!!」


 驚きと喜びを表しながらアリスは、興奮冷めやらぬ状態でキッチンを右往左往見て回る。

 その間にゼスは、アリスの幼い腕でも扱いやすいよう鍋やフライパンを魔法で軽量化していく。

 そして、調味料などを入れた戸棚も上から下ろし、アリスでも手の届く位置へと配置する。

 更に、倉庫にも手を加えた。


「アリス、ちょっとおいで」

「どうしたの~?」


 まだまだてとてと歩きのアリスを微笑ましく見ながら、ゼスはアリスに倉庫の使い方を教える。


「いいかい? まずは、壁に手を当てて欲しい物を思い浮かべる。そうすると、ほら、こんな感じで作業台に移動するんだ」

「ふおぉぉぉ!!!」


 実戦でやって見せた途端、アリスが興奮した様子で飛び跳ねる。

 それを落ち着かせたゼスは「一度やってみて」と伝えやらせた。 


「それじゃぁ、昼ご飯にも期待してるからね?」

「任せて! 美味しいの作るね!」


 何度か試して大丈夫だと確認したゼスは、アリスを落ち着かせるように頭を撫でると、研究室へ戻るためキッチンから出て行った。

 だが、過保護な――否、親バカ、娘ラブとも言っていいゼスは気づいていない。

 多くの研究者が憧れる古代魔法を、こんなくだらないことに使う魔法使いはいないと……。


 その日の昼、孫バカのジェイクとシスコンの兄たちが、大量に魔物の肉を持ってくるまでアリスの興奮は続いた。

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