フェリス王国編――自家製ソーセージ
カロル滞在二日目、アリスはゼスとジェイク、フィンと共に冒険者ギルドを訪れていた。
カロルの街の冒険者ギルドもリルルリアの街で見たものと同じく、役所のような雰囲気だった。
もっとこう、物語に出てくるような冒険者ギルドっぽい雰囲気が欲しいと嘆息したアリスは、買取用の受付にまっすぐ向かったジェイクを追いかける。
受付に着くと直ぐにジェイクが、受付のお姉さん――小太りのおば様に話しかけた。
「買取を頼みたい。量が多いから専用倉庫へ案内を頼む」
「はいはい。じゃぁ、裏にお願いしますね」
気やすい感じで返事をした受付さんは、そそくさと受付を出て裏へ回る。
それについて行きながら、アリスは目的の物が手に入るかもしれないと考え、にやりとほくそ笑む。
「アリス、悪い顔してるよ?」
「……べ、別に悪いこと考えてたわけじゃないもん」
不意にフィンに突っ込まれたアリスは、特に何かをしようとしていたわけではないのに焦ってしまう。
そんなアリスの反応を楽しむように、目を眇めたフィンは「アリスが欲しがってるのあると良いね~」と、楽しそうに笑いながら告げた。
解体専用の作業場へ入ったところで案内してくれた女性が、ジェイクを振り返る。
「こちらでお願いします」
「あぁ。それと、すまないが凶暴な羊の腸はあるかな?」
「腸……ですか?」
「あぁ、ぜひとも欲しいんだ」
ジェイクの言葉を受けた女性は、困惑しながら後ろで作業する男性を振り返る。
「アンス。悪いけど凶暴な羊の腸はあるかしら?」
「腸?」
「そう!」
「あぁ、ついさっき解体したのならあるぞ?」
「それ、まとめて持ってきてちょうだい」
そう告げられたアンスと呼ばれた男性が、首をひねりながら解体作業場の奥に行く。
その間にジェイクとゼスは、かなりの量の魔獣の素材を取り出した。
一番大きい骨は、肉を綺麗にそぎ落とされたワイバーンだ。
「ほら、これでいいか?」
「ありがとう。助かるよ」
ジェイクは大きな袋に入った凶暴な羊の腸をアリスに渡すと、素材を取り出しに戻る。
袋を受け取ったアリスは、ひとまず食べられるか思案する。
鑑定をさっさと使えばよかったと思いながら、内容を読む。
病気になっているとか○○菌が~とかいう表示がない。
それなら、このまま水につけて使っても問題ない。
「しかし、凄い量の持ち込みだな? 解体した後は全部売りでいいのか?」
「ロックバード、コカトリス、オークとワイルドボアの肉は引き取る。後は全て買取で構わない」
「わかった。解体には……そうだな。四日ほど待ってもらうがいいか?」
「あぁ」
アリスが腸を手に入れ、鑑定したりしている間に話は進み纏まっていた。
腸の代金はどうしたらしいのだろうと思いアリスは、ジェイクの袖を引く。
「おじいちゃん。お金どこに払えばいい?」
「あぁ、そうだったな。こいつの代金はいくらだ?」
「……捨てるものだ。要らないよ」
「そうか。感謝する」
こんなにいい物なのに勿体ないと思いながら、アリスはホクホク顔で帰路につく。
途中、本屋でゼスと、その先の武器屋でジェイクと別れたアリスは、フィンと二人そぞろ歩いた。
十分もかからず宿に着いたアリスは、早速神の台所へ移動した。
やる気十分で、作業台に立ったアリスを止める者はいない。
家族の誰も入れないのだが……。
「よし、キッチンさん。よろしくお願いします! まずはボウルにお水を入れて下さい」
キッチンに頼み、アリスは腸の入った袋を取り出す。
一応念には念を入れ、一度浄化する。
浄化が終わった腸を一メートルにカットして冷凍庫に入れ、カチコチに凍らせたら取り出す。
次に凍ったままの腸をボールに沈め、キッチンに頼み一晩分時間を進めて貰う。
そして、ここからが本題だ。
一応浄化はしたものの、腸の中が綺麗か分からない。
どうしたものか……悩んでいたアリスの肩から、『ボクたちに、任せて』と声があがる。
『ユーラン、フーマ手伝ってくれるの?』
『うん。中が綺麗か確認できればいいんでしょ?』
「うん」
『それなら、僕の水の力とフーマの風で出来るよ!』
「お願いしてもいい?」
『勿論!』
『フーマ、頑張ル』
どうやって確認するのか見ていたアリスは、二人の魔法の凄さに驚く。
まずはフーマが腸の内部に風を通し、後を追うようにユーランの水が流れた。
シンクに流れ出る水に濁りは無く、中が綺麗な事が見てわかる。
「凄いよ。二人とも!」
『えへへ』
『フーマ、役ニ立ッタ?』
「うん! 凄く助かったよ~!」
全ての確認が終わったアリスは、二人をもふもふと撫でまわす。
照れるユーランは可愛く、ピッと片腕をあげるフーマはあいらしい。
ひとしきり三人で戯れたところで、アリスはソーセージ作りを再開した。
綺麗になった腸を今度は大量の塩を使い、壷に塩漬けにしていく。
これは、長く持たせるための工程だが、水抜きの意味も込めてある。
「キッチンさん、腸の水分が抜けるまで時間を早送りお願いします!」
キッチンに頼み時間を経過させた腸は、かわいそうなほど縮れ細くなっている。
それを今度は、用意して貰ったボウルに漬け込む。
塩抜きをしている間に、アリスは中に入れる具材の仕込みを始める。
先んず用意したのは、オーク肉とワイバーン肉だ。
「キッチンさん。どっちも粗挽きで! 終わったら、両方混ぜてね」
伝えた途端、肉が六個のボウルに山盛り状態で現れる。
流石キッチンだと、称賛しながらアリスはそれぞれの肉に味をつけることにした。
まずAのオーク豚から。
「乾燥して粉になったシナモン、クローブ、ナツメッグ、ブラックペッパー、塩、すりおろしたにんにく、細かくみじん切りパセリとバジルを入れて」
氷を入れたボウルを用意して、その上にオーク豚が入ったボウルを置く。
出来る限り肉を温めないための処置として、この方法をアリスは選んだ——作るのはキッチンだが……。
そして、切るようにヘラで捏ねる。
「こんな感じで捏ねてね。ひき肉が潰れないようにお願いします」
出来たら次は腸詰作業。
考えた途端、作業台の後ろ、炊飯器の横のスペースに腸詰用の機械が出現する。
捏ねたお肉を上に入れて、塩抜きが済んだ腸を筒にはめ込む。
この時、少しハンドルを回してお肉を出しておく。
ついでに、端っこには、少し余裕を持たせてタコ糸で縛る。
準備が整ったところで、アリスがハンドルをゆっくり回せば、腸に肉が詰められていく。
大体一五センチのところで、クリンと交互に左右に回し腸に区切りをつける。
少し歪になってしまったがなんとか一本分作り終えたアリスは、キッチンさんにたのみ腸詰の水分を飛ばして貰った。
残りのソーセージ作りはキッチンさんに任せ、アリスは早速試食に入る。
鍋にお湯を沸かし、ソーセージをいれる。
大体十五分ぐらい湯がけば、自家製ハーブのソーセージの出来上がりだ。
ほかほかと湯気をあげるソーセージを一口かじる。
プツンと音が鳴り、皮に閉じ込められた肉汁が溢れ出す。
オールスパイスの香りが鼻孔を擽り、ブラックペッパーの辛みが舌をピリッとさせる。
かと思えば、ハーブの爽やかな香りとぶりんとした触感が食欲をそそる。
「おいしぃぃぃ!」
初めて作ったにしては上手くできたと、アリスは独りほくそ笑む。
今度は、これを燻製にしてみようと思いながら作業台に山盛りに盛られたソーセージをストレージにしまうのだった。
イイネ、評価、ブックマーク、誤字報告本当にありがとうございます。




