フェリス王国編――カルロの街
ワイバーンのステーキを食べた日から三日。
途中の休憩でチキンカレーとトルティーヤを消費した一行は、カロルの街の検問待ちをしていた。
カルロの街は、フェリス王国第二の都市と言われる街だ。
以前立ち寄ったフェイスの街の二倍の大きさがある。
入口は、北と南の二つ。アリスたちがいるのは南の門だった。
「アリス、この街からは今まで以上に気を付けるんだよ?」
アリスは耳にタコができるほど何度も言わた言葉を、またゼスに聞かされる。
分かってるよと思いながら、素直に頷いておく。
そうしないと、何度も何度もまた同じ話をきくことになるからだ。
「貴族が多くなるからだよね?」
「あぁ」
「でもどうして、この街に貴族が多く来るの?」
「この町の特産品が、ダンジョンで取れる宝飾に関する物だからだよ」
「あ~。そうなんだ」
カロルの街は、大きなダンジョンを街の中央に抱えていた。
一攫千金を目指す冒険者も多いが、それ以上にダンジョンのドロップ品を目的とした貴族も集まっているらしい。
話を聞いたアリスは、面倒だなと言う感想しか抱けなかった。
拘わらなければいいとアリスは思うが、きっと街中を貴族が歩いていたりして、傲慢な態度を取り揉め事が日常茶飯事なのだろうと考える。
どうしてそう考えてしまうのかアリスには分からない。ただ、はるか昔にそう言った貴族を、見た気がすると言うだけだ。
「この街にはどれぐらい滞在するの?」
「そうだな……ワイバーンとか他の魔物の素材を売りたいから、長くて七日。早くて五日ほどかな」
「そっか……結構長くいるんだね」
『アリス、見てみて、ふわふわしてる~』
ゼスと滞在日数について話していたアリスの耳元で、ユーランが楽し気に呼びかける。
ユーランの覗いている窓をアリスも覗き込んだ。
窓から見えたのはちょうど隣に止まっていた馬車の窓で、アリスよりも少し年上の可愛らしい女の子が、レースをふんだんに使ったドレスを纏っているのが見えた。
『ドレス可愛いね~』
『ドレス、フワフワ。フーマモ、フワフワ?』
『うん! フーマもふわふわ。ユーランもふわふわ!』
ふわふわ~と言いながら、ユーランとフーマがアリスの膝の上でじゃれ合う。
それをアリスは、微笑ましく見ると再び、ゼスに話しかけた。
「パパ」
「ん?」
「神殿に行って、街に買い物に出ることはできる?」
「うーん。出来れば宿に居て欲しいけど……アリスが行きたいなら、誰かと必ず一緒に動くこと。約束できるかい?」
一瞬眉間に深い皺を刻んだゼスの様子に、アリスはしょんぼりと項垂れそうになる。
だが、続いた言葉を聞いてぱぁっと笑顔を咲かせた。
宝飾の街であるカロルはきっと、ショーウィンドウを見て歩くだけでも宝飾に疎いアリスの勉強になるはずだ。
そう考えて聞いてみたアリスは、外出を許されたことを喜んだ。
「あ、そうだ。パパ、冒険者ギルドに行くんだよね?」
「あぁ、そうだけど?」
「その時、私も一緒に行きたい!」
「冒険者ギルドに?」
一体何の用があるんだと言いたげなゼスの視線を受けたアリスは、欲しい物があるのだと告げる。
アリスが欲しいと思っているのは、このあたりで取れると言う凶暴な羊の腸だ。
解体する際にでる腸は、直ぐに廃棄されてしまうため冒険者ギルドじゃなければ手に入らない。
そう、アリスが説明するとクレイが「うぇー」と舌を出し嫌そうに顔を顰めた。
「そんな顔するなら、食べさせてあげないからね!」
「……ヤダ」
「美味しいんだから! 馬鹿にしちゃダメなんだよ!」
「ごめん。アリスが作るならうまいよな」
やらかしたと書いてある顔でクレイが、必死にアリスを持ちあげる。
「アリス、ウィンナーってどんなの?」
「うんとね。細かく切ったお肉とハーブを混ぜて、味付けした腸詰」
「……うん?」
口で説明するより食べて貰った方が早いよねと、考えたアリスは早く宿に着かないかなっと思う。
そんなこんなでアリスたちが漸く街へ入れたのは、太陽が沈み始めた頃だった。
馬車に乗っているとは言え、朝早くから並び入るまでに丸半日かかるとは思っていなかったアリスは、既に電池切れ状態だ。
見える灰色の街並みは、石造りで屋根は赤い。
街の中心部に大きな尖塔があり、そこがダンジョンの入口だ。
活気があるのか、多くの人が街を行き交っている。
そんな街並みを見ながらアリスは、うっつらうっつらと船をこぐ。
カルロの街にいる間泊まる宿——葡萄の棚亭へ着いたのは夕日が暮れたあとだった。
「ほら、アリス起きて。宿へ入るわよ」
「……うん」
「抱いて行こうか?」
フェルティナに起こされ返事をしたもののアリスは眠くて仕方がない。
そんなアリスにゼスが両手を差し出す。
素直にゼスに抱かれたアリスは、そのままぐっすりと寝落ちした。
翌朝、スッキリと目覚めたアリスは「知らない天井だ」とどこぞのアニメよろしく、天井を見上げながら呟いた。
両親は……と、ベットを見れば二人とも既に起きているようで、もぬけの殻だ。
「ご飯作らなきゃ!」
慌てて起き出したアリスは、急いで身支度を整える。
そこへ『アリス~』とユーランがアリスを呼んだ。
「ユーラン。どうしたの?」
『フェルティナからの伝言。この宿にいる間、ご飯の用意はしなくていいよ~って』
『フーマ、ゴ飯食ベル』
「そうなんだ。伝言ありがとう! じゃぁ、箱庭に行って、フーマとユーランの好きな物さがそうか?」
『うん!』
『フーマ、探ス』
皆へのボディバックを一緒に作ってくれたユーランとフーマにお礼する意味も込めて三人で、神の箱庭へ行くことに。
移動する際、アリスは果物が多くなっている場所に出るよう、イメージして神の箱庭の扉を開けた。
鈴なりになった沢山の果物が所狭しと辺り一面に生っている様は、圧巻でアリスはポカーンと口を開ける。
『アリス、どれでもいいの?』
「うん! 好きなのいっぱい食べて~」
『フーマモ? フーマモイイ?』
「勿論だよ。フーマモいっぱい食べてね!」
最近ずっとバックや宝飾品を作っていたせいか、アリスは身体が鈍ったように感じる。
そこで、今日は箱庭の中を思いっきりユーランたちと楽しむことにした。
先んず、お世話になった二人へのお礼を優先する。
キャッキャと喜び飛び回る二人を視線で追ったアリスは、見える範囲の果物を確認していく。
近くにあるのは、リンゴ、ナシ、洋ナシ、ミカン、オレンジ、レモン。しかも、それぞれ少しずつ種類が違う。
少し離れた場所には、ブルーベリーと巨峰をはじめとした葡萄類。
そして、少し降りた場所には、苺やスイカ、メロンなど季節を問わず鈴なりだ。
『アリス、フーマコレ!』
『アリス~、ボクこれがいい!』
短い両手に洋ナシを抱えたフーマが、アリスに剝いて欲しいと訴える。
それに笑顔を向けたアリスは、自分用に作ったメディスンバックから小型のナイフを取り出した。
しゃりしゃりと皮を剥き、六等分にして中の種を取り除く。
そして、ユーランだがユーランが選んだ物はオレンジだった。
半分に切ったオレンジの皮に、ナイフで切り込みを入れ、皮を剥けば出来上がりだ。
勿論、ナイフともども浄化を使って綺麗にすることも忘れない。
「はい。どうぞ」
『アリス、フーマト食ベル』
『ボクのも食べて~!』
「ありがとう!」
お礼を言いつつフーマを撫でまわしたアリスは、切り分けた洋ナシを一つ掴むとパクっと食べた。
柔らかいシャリっとした触感と甘やかな味が、とても美味しい。
ユーランの選んだオレンジは、甘みが強く酸味も程よい感じだった。
フーマはどちらかと言えば甘い方が好き。
ユーランは、甘みの中に酸味があるものを好む。
精霊でも色々違うんだな~と思ったアリスは、残りをフーマに渡した。




