フェリス王国編――有能過ぎるキッチン
ひと悶着ありつつも無事ジェイクにボディバックを渡せたアリスは、ルンルンと夕食の準備にとりかかる。
「それにしても、おじいちゃんもパパも本当に、ワイバーン狩りに行くとは思わなかったよ……」
『あの煩いの少し減っても問題ないよ。ボク嫌い』
『フーマモ』
珍しく顔を顰めたユーランとフーマは、ワイバーンを嫌っているようだ。
近くで見たことがないアリスはワイバーンに対して好き嫌いがない。
そのため何と答えるべきか悩むが、次の瞬間には既に会話が切り替わっていた。
『アリス、苺食べたい』
『フーマ、マンゴー好キ』
「わかった。キッチンさんに出して貰うね」
アリスがそう言って作業台を見れば、優秀なキッチンが用意していた。
流石キッチンさんだと、アリスは何度目かわからない賞賛を送る。
「夜ご飯は、チキンカレーにしようね」
『カレー、何?』
「フーマは食べられないかな……ごめんね?」
苺の下手を取り半分に切りながらフーマに答えたアリスは続いてフーマのマンゴーを切ってあげる。
フーマはどうやらマンゴーを押し出すのが好きらしく、さいの目切りする間、いまかいまかとソワソワしていた。
「はい。二人とも、どうぞ」
『ありがとう!』
『フーマ、嬉シイ。アリス、好キ』
「どういたしまして」
さっそく食べ始める二人へ笑顔を向けたアリスは、小動物が果物を手に持ち食べる微笑ましい光景に萌え萌えした。
「さて、キッチンさん夜ご飯と朝ごはんを、同時に作るのでよろしくね!」
キッチンに声をかけ、アリスは材料を考える。
先に作るのは夕飯用のカレーだ。
まず、玉ねぎ、トマト、生クリーム、牛乳、コリアンダー、ターメリック、レッドチリ、クミン、にんにく、生姜、塩を用意する。
玉ねぎは、皮を剥いて半分に切り、出来るだけ細かいみじん切りにする。
トマトは、湯銭して皮を剥き角切り。
ついでに、にんにくと生姜はすりおろしておく。
考えただけで、ちゃんと作業をこなしてくれるキッチンに、アリスは心の底から感謝した。
そして、今回使用するお肉はコカトリスのお肉。
アリスがコカトリスを選んだ理由は、残りが多いことと、ワイルドコッコのお肉より脂身が多くパサつかないこと。
作業台にコカトリスのお肉を一塊出したアリスは、キッチンに頼み一口大に切って貰った。
切って貰った半分はそのままストレージに直し、残り半分を夜ご飯に回す。
「じゃぁ作って行こう! まずは深めのフライパンを用意してください」
キッチンが用意してくれたフライパンにアリスは油を多めに入れる。
油をフライパンになじませるように回し、油が熱くなったところで玉ねぎのみじん切を全てと塩を投入。
「飴色になるまでいためてね」
数秒で飴色になる玉ねぎを、アリスは何の感情も持たず受け入れた。
ここで本来ならトマト缶やトマトピューレを入れるのだが、アリスが探した限りキッチンにそんなものはなかった。
そこで、トマトの角切りをドバドバと追加する。
「トマトが形を無くすまで煮て下さい」
時間短縮のためキッチンにたのめば、瞬きする間に出来ている。
流石キッ――割愛。
続いて、フライパンに四種のスパイスを加える。
分量は家ごとに違う、インシェス家ではアリスの好みでターメリックは少なく、レッドチリを多めに入れて少し辛めにした。
良く混ぜて、パウダーが見えなくなったらここでフライパンから、鍋へ変更する。
カレールーを入れ、お肉を突っ込んだからしばらくかき混ぜ香りをつける。
「お肉の表面が焼けるように混ぜてね」
キッチンに頼めば、秒で――
そして、ここで牛乳と少しの生クリームーー液状を加える。
「あとは煮込んで、煮込んで、とろみがついたら出来上がり! 男爵いもと人参の皮を剥いてください」
キッチンさんが頑張ってくれたおかげで、五分もかからずチキンカレーが出来上がった。
折角だからと出来立てのチキンカレーを味見する。
アリスがカレーをひと口含んだ瞬間、クミンの香りとコリアンダ―の甘い香りが先立ち。
ピリッとしたレッドチリの辛さとターメリックの苦みが来たかと思えば、ミルクでまろやかなコクを感じた。
「うん。美味しい。我ながらうまくできてる!!」
アリスは思う。
今日ほど、料理の本を無料で貸し出ししていた図書館に感謝した日はないと……。
感謝はそこそこにアリスは、出来上がったついでに付け合わせとして、じゃがいもと人参を添えることにした。
じゃがいも――男爵を四等分に、人参は少し大きめの乱切りに切って湯がいて貰った。
「次は朝ごはん作ります! と、その前にお米を炊いておいてください! メニューは簡単にトルティーヤにします!」
用意する材料は、強力粉、塩、オリーブオイル、ぬるめのお湯。
まずボールをキッチンに用意して貰ったアリスは、材料を全て突っ込んだ。
そして、アリスはザクザクと切るように、ゴムベラで混ぜる。
ある程度まとまったら、一つに纏めラップに包みキッチンに頼んで、一時間ほど時間を進めてもらう。
「あとは、これぐらいの大きさに切って、麺棒で薄く伸ばして、中火のフライパンでふっくらと膨らむまで焼いて下さい」
二センチほどの大きさに生地を切ったアリスは、あとの処理をキッチンに丸投げする。
焼きあがった生地を、キッチンに頼み冷やして貰ったアリスは、具材を何にしようか悩んだ。
「レタス、トマト、アボカド、卵、ウィンナーが欲しいけど……作ったことないしなぁ……お肉で代用する?」
ウィンナーを作るには、豚か牛、羊の腸が必要になる。
アリスはまだ二つの街しか行っていないが、この世界でそんなもの売ってるのを見たことがない。
「ウィンナーは諦めて、鶏肉にしよう! サルサソースは、流石に覚えてないからオーロラソースでいいか!」
色々と諦めたアリスは、具の用意を始めた。
最初にアリスが出したのは、カレーにも使ったコカトリスの肉だ。
「レタスは洗ってちぎって、トマトは皮つきのまま種は抜いて、一センチぐらいの角切りに。鶏肉はそのまま湯がいて、火が通ったらざるに揚げて下さい」
一息に言おうとしたアリスは、流石に息が続かず言葉を切った。
「アボカドは、種をぬいて皮を剥いたら一口大に。卵は混ぜて、薄焼きにしてください」
何とか伝え終えたアリスは、ふぅと息を吐き出す。
今回は注文の量が多いせいか、流石のキッチンでも――なんてことはなく、アリスが作業台を見ればキッチンの優秀さが良くわかる状態だった。
「完璧です。キッチンさん……」
完敗ですと言いたげにキッチンを称賛したアリスはオーロラソースを作る。
材料は、マヨネーズ、ウィスターソース、ケチャップだ。
それを同じ分量入れて、混ぜればできあがりである。
「あとは、冷えたトルティーヤ生地に、オーロラソースを塗って。焼いた卵、レタス、コカトリスの肉、トマトとアボカドを入れて巻くだけ。お願いします」
綺麗に丸められたトルティーヤが、作業台に沢山積みあがっている。
アリスは大量に積みあがったトルティーヤ、炊き立ての米をおひつに移し、寸胴に蓋をするとストレージにしまった。
そして、アリスはかなり疲れた表情で、キッチンを後にする――まるで、戦いに負けた戦士のように……。




