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フェリス王国編――精霊の力

 アリスたちがケーキの試食をしていたころ。

 馬車の周りを取り囲むようにしてジェイクたちは、盗賊の襲撃に備えていた。

 御者台に座るアンジェシカは、緊張した面持ちで馬を操る。

 

 アリス一行を狙う盗賊たちは、予期せぬ襲撃を受けることになる。

 草木生い茂る場所で身を隠して獲物を待つ彼らの仲間の一人が「うわぁ!」と、叫ぶ。


 仲間の叫びに襲撃かと備えた盗賊たちが見たものは――。

 全身に蔦が絡まり、木にぶら下がった仲間の姿だ。


 「何やってやがる!」と盗賊の頭が叱責すれば、仲間たちも下品な笑い声をあげる。


 だが、次の瞬間叱責した彼もまた、足元から蔦が絡まり、一気に引き上げられると木に吊るされていた。

 一瞬にして静まり返る盗賊たち。


 彼らの足元から次々と蔦が這い上がる。

 恐怖に戦慄し、なんとか武器で蔦を斬り払う。

 だが、そんな彼らの武器が、今度は意志を持ったかのように枝がはらい跳ねのける。


 一体何が起こっているんだ!! と、盗賊たちは恐怖と焦り、困惑を表す。

 次第につるされる仲間が増え、気の弱い者たちは口々に「精霊の怒りだ!」「森の怒りだ」と叫び、恐れて逃げ出した。


 なんとか蔦を切り抜け出した頭が「そんなわけあるか!」と、叫び呼び戻そうとするが無駄だった。

 恐怖に怯えた手下は、頭の叫びを物ともせず逃げる。


 ズルズルと這いまわる蔦の音が、頭の耳に届く。

 得も言われぬ恐怖を感じた彼は顔色を無くし、引きつった顔で後ずさる。

 どんなに逃げようとも、精霊が許すことは無いと知らずに――。


*******


 今すぐにでも襲撃してくるかと思われた盗賊が、中々襲ってこない事に焦れたジェイクがゼスを見る。

 

「……ゼス」

「おかしい……直ぐに襲撃してくるかと思ったのですが……」


 ゼスもジェイクと同じく困惑していた。

 改めて探査の魔法を使う。

 すると、つい先ほどまですぐそばにいたはずの盗賊たちが、散り散りになり逃げている。

 一体何が起こったんだ? と、思考の渦に沈みそうになったゼスは、とりあえず報告しなければと思い立つ。

 

「盗賊たちが、逃げて行っています。襲ってくることはなさそうです」

「は? 来ないの?」

「何が起こったんだ?」

「どういう事だ?」

「私にも分からない」


 肩を竦めて見せたゼス。

 そんな息子を見たジェイクはとりあえず難は去ったと考え、御者台に飛び乗るとアンジェシカから手綱を受け取った。


「襲撃がないならいいことだ。さぁ、馬車に乗って先に進もう。野営地まであと、少しだ」

「アンジェシカさん、ジェイクさん、俺とセイが変わりますよ」


 ガロの申し出をありがたく受けたジェイクは、御者をガロとセイに任せた。

 

 石を加工していたアリスは、戻った皆が無事なのを見とがめてほっと息を吐いた。

 そんな彼らは戻ってくるなりテーブルの上のケーキに群がった。

 戦闘態勢を解いた全員が無事なと言うより、元気すぎる様子にアリスは、にっこりと笑い寝室へ入る。

 

「ユーラン、少し待っててね」

『アリス、どこか行くの?』

「スキルを使って、キッチンに行くの。ユーランは入れないと思うから、お留守番しててくれる?」

『わかったよ。ボク、ここで待ってるね』

「ありがとう」


 ユーランをベットの上に下ろしたアリスは、さっそく神の台所へ移動した。

 今日の夜ご飯は、アリスがずっと食べたかったとんかつだ。


「今日もよろしくお願いします」


 キッチンにペコっと頭を下げたアリスは、ストレージからそのまま作業台へオーク肉を取り出す。

 二センチずつにカットして、脂身の部分の筋切りを頼む。

 その間に、アリスは自分が出来ることはしようと白米を出して貰った。

 筋切りは二秒ほどで終わり、塩コショウを刷り込んでもらう。


「次は、小麦粉、溶き卵、パン粉の用意をお願いします」


 肉が端によけられ、それぞれタッパーに入った状態で現れる。

 豚肉を一枚とったアリスは、キッチンに見せるようにして小麦粉をつける。

 余分な小麦粉は多はいて落とし、卵へ。

 十分に卵が絡んだらパン粉で包みぎゅっぎゅと押し付ける。

 

 そして、再び小麦粉、卵、パン粉の順で繰り返す。

 二度付けにすると、食べた時にサクッとしてとても美味しい。


「こんな感じで、お願いします! 出来たら十分置いて、一六〇度の油で薄いきつね色になるまで……六分ぐらい揚げて下さい」


 衣をつけて見せたあと、アリスは手を洗いお米を研ぎながらお願いする。

 お米を研ぎ終えたアリスが、作業台をみればほんのりきつね色をしたとんかつが五十枚並んでいた。

 それをひとつ手に取り、揚げ油が綺麗にきれているかを確認する。


「いい感じだね。じゃぁ今度は、一八〇度の油でこんがりきつね色だから、四分揚げて! ついでに、キャベツの千切りとミニトマトをお願いします! あと、お味噌汁作りたいから……ジャガイモと厚揚げ、人参を出してください!」


 アリスの願い通り、野菜は切られ、ざるに入った状態で現れる。

 それと同時に、きつね色に上がったとんかつがずらりと並ぶ。


 食べたい欲求を我慢しながら、アリスはとんかつを魔法の鞄にしまった。

 そして、じゃがいもと人参をイチョウ切りに。厚揚げを四等分にして五ミリぐらいの厚さに切って欲しいとお願いする。

 漸くお米の仕込みが終わり、スイッチを押して振り返ればきれいに切られたじゃがいも、人参、厚揚げが並んでいた。


「次はね。深いお鍋にお水と出汁、ジャガイモと人参を入れて柔らかくなるまで煮込んでね! 終わったら厚揚げを入れて、お味噌の準備をお願いします」


 味噌汁はまだこのキッチンで作ったことがない。

 なので入れる味噌の塩梅はアリスが決めることにした。


 沸々と湯気をあげる鍋を覗き込んだアリスは、白味噌をたっぷりと味噌こしに入れて鍋に浸す。

 ぐるぐるとスプーンを回し、味噌を溶かした。

 味噌こしをあげ、一度ここで味見する。


「少し薄いかな……」


 あまりにも薄い場合は、再び味噌を入れるが今回は醤油を追加すればいいと考えたアリスは、キッチンが思考を呼んで用意してくれた醤油をひと回し入れた。

 味噌の香ばしい香りが、ついさっきケーキを食べたばかりだと言うのにアリスのお腹を刺激する。


 出来上がった味噌汁を魔法の鞄にしまうと、キッチンに頼んでキャベツとプチトマトを皿にのせてもらう。

 ご飯も出来上がり、炊飯器からおひつへ入れ直す。

 全て、と言うか……一升炊いたはずなのに、それ以上に米が炊き上がっているのはどうしてだろう?

 毎回、ご飯を炊くたびに同じ疑問をいだくもアリスは、キッチンの優しさだと結論付けて考えることを止めた。

 

 出来上がったご飯を全て魔法の鞄にしまったアリスは、キッチンにお礼を言うと寝室へ戻った。


 時間にして約十分ほどで戻ったアリスに『アリス、おかえり』と、ユーランがふわふわと浮かび巻き付く。

 

「ただいま。ユーラン」

『アリスからいい匂いがする』


 すんすんと鼻を近づけ匂いを嗅いだユーランに、アリスはにっこりと笑い「ふふ、夜ご飯作ってきたの!」と答えた。

 一人と一匹は、リビングへ戻る。

 アリスとユーランがソファーに腰かけると同時に、何かを考え込んでいたゼスがユーランに「ユーラン様、もしかして、盗賊に何かしましたか?」と聞いた。

 するとユーランは、浮かび上がり短い脚で立ちあがり、ふんすと腰——どう見ても胸だが――に手を当てる。


『アリスが、皆を守って欲しいって言うから仲間に手を貸して貰ったんだ』

「仲間とは、もしや……」

『うん。土の精霊や木の精霊だよ。彼らもあいつらに怒ってたから直ぐに頼みを聞いてくれたよ』

「そうなのですね」

「アリス、そこの御仁は誰かな?」


 状況を呑み込めていないジェイクが、ユーランから眼を離さずアリスに問う。

 あぁ、そう言えばおじいちゃんたちには紹介してなかったと、気づいたアリスはユーランを呼ぶとジェイクたちに紹介する。

 沈黙が落ちた瞬間だった――。

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