フェリス王国編――馬車の旅一日目①
12歳編が長くて申し訳ないですーTT
リルルリアから帰って一月。
ビルへの手紙は、結局ゼスが届けてくれている。
その日アリスはフェルティナに呼ばれ、部屋を訪れていた。
「ママ。どうしたの?」
「アリス、おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行ってみない?」
アリス的におじいちゃんとおばあちゃんと言えば、ジェイクとアンジェシカだ。
二人には毎日会っているのに会いに行くとはどういうことかと首を傾げた。
「ティナ。ちゃんと順を追って説明してあげないとアリスが困ってるよ」
「あら、私ったら……! ごめんねアリス」
てへぺろと舌を出したフェルティナは表情を改めるとアリスに順を追って説明した。
アリスが生まれたという知らせを受け取ったフェルティナの両親は、これまで何度もアリスに会いたいと手紙を書いて寄こしていた。
だが洗礼前の子供は身分証がないため他国に入る手続きがかなり面倒なようで、身分証を作るまで待ってくれと仕方なく断っていたそうだ。
無事洗礼を済ませたアリスは先日、冒険者ギルドで身分証を作る。
そこでフェルティナは里帰りついでにフェリス王国――真魔の森の北東にある、王都フェリスに両親は住んでいる――にアリスを連れて行くことにした。
「行きたい!」
「アリス、今回は僕の転移ではいけないからね?」
「どうして?」
「途中の国はすっとばせるんだけど、フェリス王国の法でね……転移入国は、重罪扱いになるんだよ」
「そうなんだ……じゃぁ、どうやって行くの?」
「馬車の旅だよ。一か月もあれば余裕で王都には着けるし、母さんが今馬車を作ってるから、そう辛くはないはずだよ」
「だけど、途中で魔獣が出るかもしれないし、盗賊がでるかもしれないの。それでも本当に行きたい?」
「行きたい!」
馬車の旅とかファンタジーって感じがする! と、笑ったアリスは元気よく返事をした。
そうして始まった旅の準備は、凄まじかった。
当初三人で行くと思っていたアリスも「全員でいくぞ?」と言うジェイクの一言に慌てた。
家族七人分の旅装備を整え、食事を用意して……。
馬車と言う名の魔道具をアンジェシカが作り、旅に出たのは翌々日の事だった。
「ふぉぉぉ! 広い」
一見ただの箱馬車に見えるそれは高級な馬車仕様だった。
向かい合わせに置かれた座面ふかふかで、一か所だけ座面が外され扉が据え置かれている。
それを開けば当然のようにリビング、寝室、トイレとお風呂が完備されていた。
「ふふっ、アリスがこんなに喜んでくれるだなんて、頑張ったかいがあったわ」
「おばあちゃん、凄いよ!」
「ありがとう。アリス」
アンジェシカの細い指先が、幼いアリスの髪を撫でる。
黙って撫でられるアリスは、気持ちよさげに目を細めた。
「出発するよ」というフィンの声と同時に、四頭立ての馬車が動き出す。
徐々に早くなっていく景色の流れを見つつ、アリスはこれからを考えわくわくと胸をときめかせた。
ゼスの転移で移動した場所は、フェリス王国とマイン国の国境にあるゲインと言う村だ。
今日は一日止まらずに馬車を走らせ、日が沈む前に野営地へ辿り着く予定にしている。
何故野営地に泊まるかと聞いたアリスにゼスは、丁寧に教えてくれた。
曰く、このあたりの国境近くはどうしても犯罪者が溜まる。
その理由は、彼らが住処に出来るような廃村や遺跡が多く残っているから。
宿に向かう道すがら姿を見られ連れ去れられるよりは、馬車の方がいいという判断の元だと……。
なるほど、と納得したアリスは、ジェイクとゼス、フェルティナ、フィンとクレイと言う猛者がいる状況で攫える人がいるのかという疑問を浮べる。
けれどそれは直ぐに消える。何故なら最近の彼女は、出来るキッチンのおかげでスルースキルを身に着けたからだ。
「アリス、ほらあそこ見てみろ!」
クレイに呼ばれ窓へ近づいたアリスは、クレイの指を折って遠目に見える山の上を見た。
そこには、これまで見たことがない何かがゆったりと飛んでいる。
「クレイにぃ、アレ何?」
「うーん。遠目だからはっきりしないが、多分ワイバーンかドラゴンだな!」
ワイバーンとドラゴンの違いが分からないアリスは、へ~と返す。
するとクレイは身を乗り出す勢いでアリスに教えてくれた。
「いいか? アリス。ワイバーンとドラゴンは全然違う生き物だ」
「どう違うの?」
「ワイバーンはな、かっこ悪くて、知性がない。ドラゴンは、知性が合って、無茶苦茶かっこいい」
強さとかじゃないんだ。とアリスはおかしくなった。
クレイの価値観的に、見た目と知性があるかどうか大事らしい。
どうだ? すごくない? というような眼を向けられたアリスは、いかにして彼を誉めるか必死に答えを探す。
そして――
「そ、そうなんだ。く、クレイにぃは、凄いね!!」
と、満面の笑顔を浮かべるよう努力しながらクレイを褒めた。
アリスに褒められたクレイは満更でもなかったらしく、鼻の下をこすると「えへへ」と照れ笑いする。
見た目は大人、中身は子供……どこかのアニメのフレーズによく似た言葉を思い浮かべ、アリスはひっそりと笑うのであった。
そうこうする内に、昼の時間が近づく。
今日のお昼は、作り置きしておいた肉肉しいハンバーガーだ。
作り方は簡単で、どの家にも積んであるであろうオーク肉とミノタウロスの肉をひき肉にする。
そこに、みじん切りにしてバターで炒めた飴色玉ねぎ、ナツメグ、牛乳、パン粉、塩コショウを少々を入れる。
余談だが、コクを出したい場合はビーフコンソメの粉を少し入れると美味しい。
お肉に白く粘り気が出るまで混ぜたら、間に固形のチーズを入れて型を成形して焼く。
片面約五分ずつ焼いて、その後、二分程度蒸し焼きにすればパテの出来上がりだ。
フライドポテトとパンズは、以前一度作ったのでキッチンさんが出してくれたので割愛。
パンズの下にマスタードを。上にケチャップを塗り、パテ、スライス玉ねぎレタスマヨネーズの順番でのせればハンバーガーの完成だ。
唯一私が許された作業は、この乗せる作業だけでしたけどね……あと、しれっとコーラっぽい不味い飲み物出すのはやめて欲しい。
街道の見晴らしのいい開けた広場で、馬車が止まる。
この場所は休憩用の場所なのか、窓から覗き見た限りアリスたち以外にも旅人がいるらしく馬車は数台止まっていた。
午前中御者を担当していたフィンとジェイクが戻り、全員でリビングへ移動する。
「さぁ、いただこうか」
アイスコーヒーと共にハンバーガーをテーブルの上に乗せれば、早速ジェイクの掛け声がかかる。
全員でルールシュカ様へ感謝の祈りを捧げ、それが終われば皆が食事をはじめた。
「んまぁぁぁぁ!」
「おぉ、これは美味しいな!」
ナイフとフォークでお上品に食べる皆をスルーして、アリスはハンバーガーと言えばこうして食べるのよとお手本を見せる。
ばくっとかじりついたハンバーガーは、野菜のフレッシュさが伝わると同時に肉汁があふれ出す。
中に入れたチーズも相まって、最高にジャンキーだ。
「あら、あら、はしたないかと思ったけれどこれは手で食べるべきね!」
「アリスったら本当に美味しそうに食べるわね」
「ははは、こうして食べた方が美味しそうだな!」
初めてのハンバーガーは大好評だ。
アリスの食べる姿をみたインシェス家の面々は、彼女に倣い手づかみで食べている。
「このサクットした芋もいいな!」
「このトマトのソースをつけるともっと美味しい!」
フライドポテトも堪能しつつ食べ進める家族たち。
いっぱい食べてくれるのは嬉しい。でも流石に、一人六個は多すぎる。
アリスは呆れを顔ににじませ美味しそうに食べる家族を見守った。




