リルルリア編――森の羊亭④
二時間の休憩中、アリスとフィン、グレイスは料理について話していた。
グレイス自身、かなり料理には興味があるようで、色々と質問してくる。
ピザパンはもとより、スープやサラダなど、宿屋で提供する料理について詳しく話した。
そうして過ごせば、あっという間に時間は過ぎ。
椅子から降りたアリスは、コンロへ移動ずる。
「どうですか?」
「いいですね。じゃぁ、骨を取り出してスープをこしましょう」
「はい」
形の崩れた大きな骨を取り出す。
ある程度出したところで、白濁スープを麻布でこす。
何度か繰り返し、小さな骨の欠片や野菜の屑などを取り出せば、白濁した綺麗なスープが出来た。
「じゃぁ、スープにキャロルとメルクルを入れてね。その間にモゥモゥのお肉を軽く焼くの」
「これは、どうしますか?」
「それは塩コショウをして、潰さないように和えておいてください」
「わかりました」
グレイスにスープの処理を任せる。
ユースが聞いてきたのは、アリスが付け合わせにと湯がいて貰ったメルクルとソーラと言う豆だった。
出来る限り美味しく、野菜を多くとれるようにとアリスなりに考えて用意して貰ったものだ。
グレイスがキャロルとメルクルをスープに入ている横で、フィンには一口大に切ったモゥモゥの肉を焼いて貰う。
既に下ごしらえを終えたらしい三人は、やる事がないのかユースたちの作業を真剣な目で観察していた。
そんな彼らをアリスは巻き込み、手伝うよう頼んだ。
「お暇なら、スライスした黒パンにマヨネーズを薄く伸ばして塗って欲しいな!」
「「「はい!」」」
待ってましたとばかりに返事をする三人。
その内二人が、冷蔵庫へ向かいボールに入ったマヨネーズを持ってくる。
残った一人は、スライスしたパンが入った木箱を作業台へと移動、作業台にスライスしたパンを並べていた。
三人がぬりぬりする様子を眺め、問題なさそうだとアリスは、肉を焼くフィンの方へ戻る。
「フィンにぃ、焦がさないようにね」
「あぁ、大丈夫だよ」
「焼きあがったお肉は、五分ぐらい脂を切ってからスープに入れて」
「わかった」
余分な脂は、スープに雑味が入ってしまう。
そのため出来る限り、事前に焼くか湯がいて脂を抜いておく。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
女性の給仕さんたちが、裏口から続々とキッチンへ入ってくると挨拶をしてホールの掃除に向かった。
それを見たグレイスさんが「もうそんな時間か」と慌てている。
大丈夫。もう少しだからとアリスは考え、手が空いたユースに次の工程を頼んだ。
「ユースさん。マヨネーズを塗り終わったパンに、スライスしたベーコンとトーマを乗せて、最後にチーズをかけて」
「わかりました」
三百枚近いスライスされた黒パンにマヨネーズを塗る三人に代わり、ユースさんがベーコンとトーマ、チーズをのせていく。
少し見た目が寂しいけど、今日は仕方ない。
そう思いながらアリスは、スープを煮込む鍋の中身をランダムで掬った。
フォークでじゃいも、人参を刺す。
煮えているかの確認を終えたアリスは、鍋の中に焼いたモゥモゥの肉、オニロ、キベットを入れて貰った。
十分ほど煮込み、スプーンですくったスープをフィンとグレイス共に三人で味見する。
味付けは塩のみだが、牛コツの旨味と野菜の甘さでとても優しい味がした。
「これはまた……」
一人ぶつぶつと言い始めたグレイスをまたかと呆れた顔で見たアリスは、フィンを振り返る。
「何がいる?」
「冷蔵庫に入ってるチーズとサラダ、バールのドレッシング」
「任せて!」
アリスがお願いと言う前にフィンが聞く。
さっそく動いてくれるフィンを見送ったアリスは、グレイスの目の前で柏手を打ち正気に戻す。
パン!
「旨味が……いや、これは……うわっ!」
「グレイスさん、時間ないんでしょ? 急いでオーブンを温めて! ユースさん、具材のせたのからオーブンに入れて」
「はい」
ユースさんが、マヨピザパンを丁寧な手つきでオーブンに並べ入れる。
時間が経つにつれオーブンの温度が上がれば、キッチンにマヨネーズとベーコンの焼ける匂いが漂い始めた。
もう少し、あと少しと思いつつチーズが溶け、焦げるのを見守るアリスの横でユースのお腹がぐぅーと鳴った。
そりゃそうだよね……昼食後からずっと作業してるんだもん。
「すみません……」
謝ったユースは、恥ずかしそうにお腹を押さえる。
気にしないで伝え笑顔を向けたアリスは、続けて焼いてくれるように頼むとサラダを仕上げるためグレイスの元へ急いだ。
「このチーズを角切りにして欲しい。出来たらサラダと和えて、バールドレッシングをかけて出来上がりだよ!」
「これで出来上がりか!」
「そうだよ。パンの隣にはさっきユースさんが作ってたメルクルとソーラを添えてね」
「オーナーお客様通していいですか?」
「あぁ、わかった。入れていいぞ。ユース、ゲンズ、ローダス、レイン! お前たちは、できたのから皿に乗せてカウンターに持っていけ」
「「「「はい!」」」」
ドヤドヤとお客さんが食堂に入ってくるのに合わせ、フィンとアリスはキッチンを後にする。
「アリス!」
聞き覚えのある声に呼ばれたアリスは、やり切った笑顔で振り返る。
インジェスト家の面々と一緒にテーブルへ着く。すると直ぐに、作った料理が運ばれてきた。
明らかに今までとは違う料理にインジェスト家の面々もごくりと生唾を飲み込んだ。
ルールシュカへの祈りもそこそこに我慢堪らずクレイが、もぐっと一口食べた。
飲み込んだ途端、頬を赤く染め幸せ~と呟いた。
クレイの顔を間近で見たインジェスト家の家族たちは、急いで我先にフォークを伸ばし始める。
アリスは皆の食いつきを視界に納め、一人満足げに頷く。
これなら簡単だし、家でも作れる。
中に入れる具材は、色々変えれば飽きないはずだし、黒パンも食べやすくなるから一石三鳥かな。
そんなことを考えながら思考を切り替えたアリスは、はむっとピザパンを一口食べる。
むぐむぐとゆっくり咀嚼し、飲み込んだ。水分を欲する身体に迷わず牛コツスープにスプーンが伸びた。
堪らず一口飲めば、ほぅと息を吐きたくなる。
そんな幸せを感じていたアリスをフェルティナが呼んだ。
「アリス!」
「ん~?」
「これ、家でも作って!」
「俺、毎日食べたい!!」
ガタっと立ち上がったフェルティナが、興奮した状態でアリスの両肩を掴んで揺らす。
「うっ、わ、わかったから、ママ落ち着いて! ……パパ、クレイにぃ助けて……気分がっ……」
「ティナ、落ち着いて! このままじゃアリスが……」
「ちょ、母さん!!」
必死に訴えるもアリスの声はフェルティナに届かない。
なんとか言葉を紡ぎゼスとクレイに助けを求めれば、二人がフェルティナの両腕を掴み引き離してくれた。
「あ、あら、ごめんなさい?」
「ごめんなさいじゃないよ……死ぬかと思った」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
謝るフェルティナに愚痴っていたアリスは、突然あがった叫びにびくりと身体を竦め身体ごとクレイを振り返える。
「俺まだ、一口しか食べてないのに……」
「父さん、母さん、流石にこれは……食べすぎです」
「すまん……止まらなかったんだ」
「ごめんね。クレイ」
「おじいちゃん、おばあちゃん……酷い」
テーブルの上には、七人分の食事が用意されていたはすだ。
その殆どをジェイクとアンジェシカの二人が、食べてしまっていた。
流石にこれは酷い言う感想を抱いたアリスは、犯人に冷たい視線を向ける。
可愛い孫たちから非難めいた視線を受けた二人は、慌てて謝ると新しく注文をし直した。
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