王都編――お茶会を!
茶会が延期になったアリスは、ブスくれた。
ふて寝をするぐらいには、ショックだったのだ。
それでも翌日には気を取り直し、ユリアへのお土産を作るため再びアダマンテル商会を訪れた。
そこで、目当てのレース用糸を買ったアリスは、その日から神の裁縫箱に籠る。
と言っても、数時間ほどだが……。
ルールシュカに貰った知識を使い、神の裁縫箱に頼む。
作るのは、ユリアの名前に因んだユリの花をモチーフにしたコサージュだ。
ユリの花の中央部分に、アリスはベノンから貰ったイエローダイヤモンドとラーシュから貰った玉水と言う白い石を使った。
二本の白ユリにはイエローダイヤモンドを。
黄色とオレンジのユリには、玉水をユーランとフーマ、ベノンに磨いて貰って取り付けた。
作ったユリの花の花柄部分を緑の糸で縫い合わせ、神の宝飾台でミスリル板に挟み込む形で固定させる。
石が重くて垂れてしまう可能性を考えて、花弁の部分には、細く加工した針金を入れた。
後は、安全ピンだが……この世界にそれが存在するのか分からなかったアリスは、アンジェシカに相談。
結果、類似したものがあると教えて貰い、それを知識で検索した。
出来上がったコサージュは、アリスの度肝を抜く国宝級の出来栄えとなってしまった。
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名前 : 守りのコサージュ
所有者 : ????
材料 : 最上級ミスリル銀、最高級イエローダイヤモンド
高級玉水 絹 針金 綿
製作者 : アリス・インシェス
付与者 : ユーラン フーマ ベノン アリス・インシェス
効果 : 水の癒し 風の守り 土の強化
水属性上昇 風属性上昇 土属性上昇
金運最大上昇
技能 : 水の回復 風の盾 肉体強化
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この結果を踏まえてジェイクにこっそりと相談したアリスは、再びアンジェシカにお世話になった。
コサージュを誰にも鑑定できないようにして貰ったのだ。
そうして迎えたお茶会の日。
ブリジット公爵邸で、王大后、国王を招いたパーティーが開かれていた。
参加者はブリジット公爵夫妻、インシェス家の面々のみ。
ラーシュやガントも誘ったのだが『流石に王族がくる茶会に、私如きが出れません』と涙目で言われて断れてしまった。
ついでに王子も来たがっていたそうだが、アリスが断固として断るよう頼んだため不参加だ。
今日の主役は勿論ユリアであるが、アリスにとっては作り方を教えた料理でもある。
この国でのガーデンパーティーは、基本立食形式が多い。
だが、それだと高齢であるユリアが疲れてしまうかもしれないと考えたアリスはテーブルに座り、料理を堪能してもらえるよう着席スタイルを取り入れた。
『フーマ、コレ、好キ』
『フーマは、甘夏が好きなの? 酸っぱくない?』
砂糖漬けした甘夏を抱えたフーマが、期限良さそうに食べかけの甘夏をアリスへ見せる。
『ボクはこれが好きー』
『ユーランは相変わらず、マンゴーなんだね! ベノンさんは何が好き?』
『わしは、そうじゃのう……これなんぞ美味いと思うぞ!』
アリスの質問にベノンが口に咥えてサツマイモを見せてくれる。
なるほど……ベノンさんは、芋系が好きなのか!
果物じゃないところが渋い!
今日はふかした芋だから、今度は大学芋にでもしてあげよう。
精霊たちと楽しく話しながら、アリスはユリアたちの様子をチラチラと見る。
つい一週間前、王妃様が自害したことを聞いたアリスは、ユリアが寂しいのではないかと心配だったのだ。
様子を見る限り、ユリアの顔に笑顔が浮かんでいる。
それを目にしたアリスは、誰にも気づかれないようほっと息を吐いた。
「アリスちゃん、そんなところにいないで、こっちにいらっしゃい」
フィルティーアに呼ばれ、アリスは精霊たちと共にユリアが座るテーブルへ足を向ける。
「今日は、お招きありがとう。アリスちゃんのおかげで、私も息子も楽しい時間を過ごせているわ」
「それなら、良かったです。ユリアさん……その……うまく言えないけど、元気出してくださいね」
アリスには、ユリアが少しやつれた様に見えた。
せめてこの時だけは楽しんでほしい。そう言う気持ちを伝えようとしたアリスだったが、上手く言葉が出てこなかった。
その代わりにアリスは、作っておいたコサージュを渡す。
「これは?」
「今日、来てくれたお礼です! ユリアさんの名前に因んでユリの花にしました!」
「まぁ、嬉しいわ! ありがとう。アリスちゃん」
「えへへ」
眺めては微笑むユリアの姿を見たアリスは照れ笑いする。
そんなアリスを見ていた国王が、とんでもないことを言い出す。
「アリス嬢が、うちの息子の嫁になってくれればなー。そしたら、可愛い孫の顔が見れそうなのになー。どうだ? うちの息子の嫁に――」
「「「「「却下だ!」」」」」
国王の言葉は、その場にいたガルーシド、ジェイク、ゼス、フィン、クレイの反対で事なきを得る。
だが、諦めきれない国王は、再び口を開く。
「うちの息子なら、地位もあるし見た目もそう悪くないし、好条件の相手だと思うんだが……?」
「強さにしか興味のない脳筋と浮気しては逃げ回る男のどこが、悪くないんだ?」
「彼らにアリスを守れるとは思えないよね」
「アリスちゃんと親類になれるのは嬉しいけど、あの子たちの嫁にすると言うのは勿体ないわ」
クレイとフィンが次々と突っ込みを入れ、更にユリアがトドメを指すと国王は沈黙した。
それを聞いていたガルーシド、ジェイク、ゼスが笑い。
フィルティーア、フェルティナ、アンジェシカが夫たちに「失礼よ」やら「不敬よ」と笑いながら窘める。
アリスはと言えば、心の底からホッとしていた。
私が王子の嫁なんて、絶対にありえないと思いながら――。
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茶会から三日後、アリスたちは真魔の森の家へ帰ることになった。
馬車に向かおうとするアリスをガルーシドが離そうとせず、ひと悶着あったものの無事馬車に乗れた。
「アリスゥゥゥ」
「ガルおじいちゃん、泣かないで? また、絶対会いに来るから!」
「本当だな? 絶対だぞ? 約束だぞ?」
「うん。約束!」
「もう、父様ったら泣かないでちょうだい! 二年後には会えるでしょう?」
「「二年後??」」
アリスとガルーシドが、同時にフェルティナへ顔を向ける。
「あら、アリスは学院に通わないの?」
「あ!」
「そうか、そうだったな! ガハハ、楽しみが出来た!」
泣き顔から一転、笑い出したガルーシドをアリス以外の全員が呆れを含ませた目で見る。
が、本人は一切気にした様子もなく「また絶対に来い!」と言うと馬車から離れた。
「さて、そろそろ出るぞ」
「了解。じーちゃん、ばーちゃんまたな!」
「えぇ、気を付けて帰りなさいね」
「おう! また来い!」
馬車が動き出し、ブリジット公爵邸を後にする。
手を振る二人の姿が見えなくなるまで手を振ったアリスは、色々あったなーと今回の旅を思い返す。
初日からゴブリン問題があって、ラーシュや森の牙の皆と出会った事。
小高い丘で、ユーランと契約した事。
フェイスの街でシーマ・カレルを手に入れた事。
成り行きっぽい感じでフーマと契約した事。
カルロの街で迷子になって、孤児院の皆に出会った事。
商業ギルドで色々嫌なこともあったけど、無事屋台が出来た事。
王都では、ユリア、ベノンに出会えた事。
思い返すと本当に色々あったなー。その分、凄く楽しい旅だった気がする。
忘れないよう帰ったら絶対日記に書こうと決めて、アリスは帰りの馬車の旅を楽しむことにした――。




