戯曲 鬼視点の桃太郎
ナレ「昔々、ある大陸の港町に、長年虐げられてきた民族がいました。彼らの頭には角が生えており、それゆえ、周辺の民族から”鬼”と呼ばれ、忌み嫌われていました。ある日、彼らは差別から逃げるため、船を作って遠くの無人島へと逃げました……」
鬼A「やはり駄目、ですか……」
鬼B「うむ……。やはりこの島は、全体的に土地が痩せているらしい。芋や豆など、作れるには作れるが、とめも島民全員の量には届かぬし……。そうだ。隣の島への交渉はどうなった?」
鬼A「相変わらず、『鬼は帰れ!』の一点張りで、仕事も食料もくれる様子はありませんでした」
鬼B「どうすればいいんだ……口減らしをするにしても限界があるぞ!それに……我はもう、島民に、仲間に……『死んでくれ』と、『産まないでくれ』と言いたくないのだ……っ!」
鬼A「やはり私たちの見た目が、彼らに威圧感や恐怖を与えるのでしょうか……」
鬼B「外見など、我らの努力ではどうしようもないではないか!我らと彼らの違う点は角の有無だけだぞ!」
鬼A「やはり、覚悟を決めるべきかと」
鬼B「そうだな……。彼らの中で、我らは”鬼”だものな……。生きるためには仕方あるまい」
ナレ「数日後、この島の男たちは総出で隣の島へ行き、食料たくさん略奪しました」
鬼B「皆よくやった!こんなにも多くの食料を手に入れられるとは……期待以上の成果だ!」
鬼たち「ウオオォォォッ!!」
鬼A「クソ……父さん……ッ!」
鬼B「……しかし!我らにも多数の死傷者が出ており、決して手放しでは喜べぬ!今後このようなことを起こさずに済むよう、あちらの島との交渉を、これまで以上に力を入れて行え!」
ナレ「略奪した食料は、一月ほどでなくなってしまいました。しかし……」
鬼A「また駄目だ!どうして仕事の一つもくれないんだ!?私たちもただ無条件に食料をよこせと言っている訳ではない!働いて、それで得た給金で食料を買いたいと、ただそれだけのことが望みなのに何故叶わない!?働き口さえ紹介してくれたら、略奪なんて二度としないと再三言っているのに……」
鬼B「あちらの態度が変わらぬのであれば、こちらもまた、前回同様に強硬手段に出るしかあるまい。……しかし、我らの要望は仕事の斡旋だぞ?そんなにも嫌なのか……」
鬼A「嫌なんだと思いますよ。彼らにとって私たちは、”鬼ヶ島に住む粗暴な鬼”らしいですからね」
ナレ「その翌日、彼らはまた食料を略奪しに行きました。しかし、体力・精神力ともに限界近くまできており、持ち帰れた食料は前回の半分ほどで、その上死傷者は前回の倍近くまでになりました」
鬼A「……このようなことは、もう出来そうにありませんね。私たちの被害が大きすぎる……」
鬼B「だからこそ、双方のための交渉、だったのだがな……。少し外見が違うということが、そんなにも彼らにとって重要だとは思っていなかった。言葉が通じ、こちらに対話する意志があるなら、特に問題がないと思っていたが……」
鬼A「私たちの考えが見当違いだとは思いませんよ。彼らが頑なに私たちを迫害するのが悪いんですよ!」
鬼B「そうだな、我らはやれるだけのことはしてきたはず……。うん?何だあの船は?」
鬼A「あの島からの船のようですね……。私たちの求めに応じてくれる気になったのかもしれません」
(波の音)(足音)
桃太郎「私は朝廷から派遣された桃太郎という!近隣の郡司の要請を受けて参上した!あの町から食料は金品を何度も奪っている蛮族はお前たちだな!?」
鬼B「なっ!何を言っている!?確かにそのようなことはしたが、仕事の斡旋等をしてくれず、先に害を成してきたのは向こうの方だぞ!」
鬼A「そうだ!それに金品の略奪なんて知らない!」
桃太郎「嘘を言うな!あの町からの税収が突然減り、詳しく事情を聞くとお前たちの話が出た!お前たちがこの島に住み着き、突然略奪行為が行われたと複数人から証言を得ている!」
鬼A「た、対話をしようとしなかったのはそっちだろう!?」
桃太郎「ここにきてまだ虚偽の証言……。しかも開き直るとは、反省の様子も一切見られないな」
鬼A「何を……っ!」
鬼B「まぁ落ち着け。して桃太郎殿。今日は何用でいらっしゃったのか、まだ聞いていませんでしたな」
桃太郎「そうだな……。もう少し建設的な対話が出来たなら、また話は違ったのだが。……朝廷仕え桃太郎!これよりお前たちを成敗する!」
鬼A「そんなに……そんなに生きようと努力することが悪いのか!?食料の略奪なんて、本当なら私だってしたくない!けれど、こうするより他なかったんだ!」
鬼B「……我らは、一体どうするのが正解だったのだろうな」
桃太郎「それは私にも分からん。しかし、私もこれが仕事でな。悪く思わんでくれ。……覚悟!」
ナレ「そうして、鬼たちはみな桃太郎に成敗されました。桃太郎は町の人々に大変感謝され、それからその町には平和な日々が続きました。ですが、果たしてこれは本当に、『めでたしめでたし』なのでしょうか……」