男の子のさがしものは探してもみつからないもの
「探してもみつからないものってなんでしょう?」
男の子がママに言いました。
「なんだろう? 君のなくなった片方の靴下?」
「それは犬のコロが大切に秘密の場所に隠してるよ」
「えっ、そうなの?」
男の子が家で飼っているチワワのコロに靴下をあげていて、そして秘密の場所も知っていることにママは驚いています。
「僕がコロにあげたんだ。だからママの答えは違うよ」
「違うの? それなら君のピンクのクレヨンね」
「それも違うよ。だってピンクのクレヨンは花ちゃんにあげたの」
「花ちゃん?」
「そうだよ。この前、引っ越していった花ちゃんだよ」
「どうしてピンクのクレヨンをあげたの?」
「花ちゃんがピンク色の花が好きでいっぱい描いていて、僕と離れてもいっぱい描いて欲しくてあげたの」
「君は優しいね」
「花ちゃんが描くピンクのお花は綺麗で可愛いくて僕は好きなんだ」
「いっぱい描いてくれるといいね」
「うん」
男の子の優しい思いにママは嬉しくなり笑顔になっています。
「ねえ、問題のヒントはないの?」
「ヒントはママだよ」
「ママ? そういえばママのプリンがなくなってるの。君は知らないよね?」
「あっ、それは……」
「君が食べたの?」
「僕だけじゃないよ。パパと一緒に食べて、まだ少し冷蔵庫にあるもん」
「パパと食べたのね」
「あっ。パパには僕が言ったって言わないでよ。男同士の秘密なんだからね」
「分かったよ。次はちゃんと食べていいのかママに聞いてよ」
「うん」
ママの知らない所で男の子とパパが秘密を持っていたことにママは少しだけ寂しく思っているようです。
「プリンでもないなら答えは何? ママには分からないよ」
「ママの大切なもの。パパの大切なもの。僕の大切なものだよ」
「えっ、みんなが大切にしているもの?」
「そうだよ」
「それなら君だね」
「違うよ」
「えっ違うの?」
「だって僕は探してもいつもママとパパにはすぐ見つかっちゃうよ」
「そうだよね。かくれんぼをしてもちゃんと見つけられるよね。そうなるとなんだろう?」
男の子のさがしものが何なのかママはもう、分からなくて困った顔をしています。
「ママのお腹の中にいるものだよ」
「えっ、この子?」
男の子はママのお腹を撫でます。
「僕は赤ちゃんを探してもママのお腹の中は見えないから赤ちゃんはみつからないんだよ」
「そっか。この子を見たことないよね? でも写真で見せたことあるでしょう?」
「だって、あの写真は妹なのか弟なのかも分からないよ」
「そうだよね。でももうすぐ、さがしものは見つかるよ」
「えっ、もうすぐ会えるってこと?」
「君の妹と会えるよ」
「僕の妹なんだね。早く会いたいよ」
男の子はママのお腹に耳を当ててもうすぐ生まれてくる妹に言っています。
その日から少し経って男の子に妹ができました。
「会いたかったよ」
男の子はそう言って小さな赤ちゃんの妹を大切に壊れないように抱っこしました。
男の子にはもう、探してもみつからないものはなくなりました。
読んで頂きありがとうございます。
読んで頂けるだけで幸せです。
明日の作品の予告です。
明日の作品はいつも追いかけてくる可愛い後輩を妹のように思う主人公のお話しです。
優柔不断な主人公がやっと決断することができたこととは?
気になった方は明日の朝六時頃に読みに来て下さい。